搭載方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 15:07 UTC 版)
安定性の観点から最大の重量物であるエンジンを機首に設け、プロペラで牽引する牽引式が広く普及していたが、その事から戦闘機への機銃の搭載方法は種々の方法が試行錯誤された。機首に前方に向けて固定装備するのが命中率が高いことと、操縦士が機体を操縦しつつ同時に旋回機銃の照準をつけるのは困難なことから、単座戦闘機では前方に向けて機銃を固定装備し、機体自体の運動によって目標物に照準を合わせるのが理想的という結論になった。しかしながら、牽引式の単発プロペラ機において機首に機銃を装備した場合は、このプロペラが弾道を妨害するので、装備には困難があった。その対策として以下の方法があった。 主翼装備 プロペラの外側に機銃を配置するため、主翼に機銃を装備する。複葉機の時代の代表例は、上翼上面に装備するフォスター銃架。機銃を装備するには主翼強度が不足していたため、命中率の低下・複数装備が不可能等の問題を生じ、後述のプロペラ同調装置の普及後は廃れる事となった。単葉機の時代には主翼の強度と厚みが増したため、主翼に機銃を内蔵する方式が主流となった(一部大口径機関砲で外装する場合もあった)。重量物を中心軸から離れた場所に配置するため、ロール率が低下するのが欠点である。また、機銃の位置が中心軸から離れるため、設定された射程で左右機銃の弾道を交差させて目標に集弾させるが、当然ながら設定された射程以外では集弾しないため、観測難度の高い場合は大きな欠点となる。 プロペラへの装甲貼付 プロペラに装甲板を貼付けて、自らの撃った機銃弾を跳ね返すというもの。プロペラを通じてエンジンに衝撃が伝わり、故障の原因となるので、短期間で廃れた。 プロペラ同調装置 プロペラの未来位置が機銃弾と交錯する時だけ、自動的に射撃を停止し、プロペラを機銃で撃つ事を防止する。第一次世界大戦前期にこの装置が発明されると、ほどなくして広く普及する。機銃が大口径の場合には対応できないのが欠点であるが、小口径機銃の搭載方法としては、プロペラ機の時代を通じて主流となった。 モーターカノン V型エンジンのシリンダー間に機銃を配置し、プロペラシャフトを中空構造にして、そこから機銃弾を発射する。機銃の配置場所が機首の中心軸に近いこと、発射の反動を機銃と結合したエンジン重量で吸収できるので、最も理想的な配置となる。空冷式で主流の星形エンジンには対応できないのと、基本的に機銃は1門のみに限られるのが欠点である。 リアエンジン方式 エンジンの出力軸を延長し、プロペラ軸とは減速ギアで結合する。機銃弾は中空のプロペラ軸を通して発射する。上記モーターカノンに比べて嵩張る点では不利だが、モーターカノンではV型エンジンのバンク間の寸法を考慮せねばならないのに対して、この方法は銃砲のサイズに制約が少なく、大口径砲の搭載がしやすい。主な量産例はP-39、P-63。 プッシャー方式 プロペラとエンジンを操縦席の後ろに配置する事で、プロペラと弾道の干渉を回避する。飛行機の機体形状としては主に、双胴形式、先尾翼形式、無尾翼形式を取る。戦闘機の黎明期には双胴機の原型とも言うべき、ブームで尾翼を支持した形でいくつかの機体が設計された。しかしこの時代の木製布張複葉機にプッシャー形式を採用する事は構造上の問題があり、機体性能を大きく低下させたため、上記プロペラ同調装置の普及後は廃れた。全金属製単葉機の時代となった第2次世界大戦期に再び試みられたものの、実用化できたのは双胴形式のサーブ 21のみである。日本において有名な海軍の震電は試験中に敗戦を迎えた。難点としてはプロペラが操縦席の後方に位置する以上、非常脱出の際に搭乗員がプロペラに巻き込まれないような仕組み(射出座席・プロペラの破壊装置等)が必要なこと、不時着時にエンジンがコクピットを押しつぶす可能性が高まることである。 双発形式 エンジンを双発にして主翼に配置すれば、逆に機首は機銃の搭載場所として使え、かつプロペラと干渉しない。しかしながら、エンジンという機銃以上の重量物を中心軸から離れて配置する事は、著しいロール率の低下を招く。一方で他方式より機首への搭載の自由度は増し、大口径、あるいは多数の機銃の配置がしやすい。この方式は夜間戦闘機において採用例が多いが、ひとつには観測難度が大きいため、前述の主翼装備の欠点が大きかったからである。 なお、上述の通り戦闘機の機銃装備は、前方に固定装備が主流であるが、少数派ながらそれ以外の方式も存在する。 旋回機銃 初期は単座戦闘機にも旋回機銃はあったが、基本的には複座戦闘機、あるいはそれ以上の規模の機体の装備である。第一次大戦における複座戦闘機ブリストル ファイターは成功したと言える。またこの成功体験から後継機のホーカー・デモン等も作られ、さらには第二次大戦直前にはブラックバーン ロック・ボールトンポール デファイアントの2機種が開発され、実戦に投入された。一次大戦でのブリストル機の成功は単座戦闘機に匹敵する速度と運動性、前方固定機銃を備えた上での旋回機銃装備にあったが、ロックとデファイアントで取られた4連装動力旋回銃塔のみという前方火力の欠如と重量過大な後方火力は襲撃機動の困難さと運動性低下を招き失敗に終わった。 斜銃/シュレーゲムジーク 夜間戦闘機で行われた特殊な装備方法として、日本の夜間戦闘機の斜銃、ドイツの夜間戦闘機のシュレーゲムジークがある。日独で別個に発想されて同じような装備に至ったものの、仰角に違いがある。 いずれにせよ、プロペラと機銃の問題は、ジェット機への世代交替によって解決を見る。
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