恋わずらい
『古本説話集』下-60 大和国の長者邸の門番女の息子・真福田丸(まふくたまろ)が、長者の姫君を見て恋わずらいになり、病み臥す。姫君はそれを知ってあわれがり、「やすきことなり。早く病をやめよ」と言い、密会の手順を真福田丸に教える→〔誘惑〕5b。
『鮫人(さめびと)の恩返し』(小泉八雲『影』) 青年俵屋藤太郎は、三井寺の女人詣での折に珠名という美女を見そめる。しかし家人が宝玉1万の結納を要求し、藤太郎は気落ちして重病になる。鮫人(*→〔龍宮〕2)は紅玉(ルビー)の涙を流すので、藤太郎は、鮫人に故郷龍宮を思い出させて泣かせ、紅玉1万を得る。
『紺屋高尾』(落語) 染物職人の久蔵が、友人に誘われて吉原の花魁道中を初めて見に行き、三浦屋の高尾太夫に心奪われ、恋わずらいになって寝こむ。往診した医師が、「10両あれば、高尾太夫に会うことができる」と教える→〔遊女〕1。
『崇徳院』(落語) ある大家の若旦那がお参りに行き、茶店で見たお嬢さんに一目ぼれして恋わずらいになる。お嬢さんは、崇徳院の和歌の上の句「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の」を書いた短冊を置いて行った。この和歌の下の句は「割れても末に逢はんとぞ思ふ」だから、末は夫婦になろう、との意味だというので、若旦那の家の使用人たちが、お嬢さんを捜し回る→〔歌〕3b。
『ろばの皮』(ペロー) 王子が狩りの帰りに小作地の農家を訪れ、下女「ろばの皮」の美しい姿を見て(*→〔のぞき見〕5)、恋わずらいになる。病臥した王子は、「『ろばの皮』にケーキを作らせて欲しい」と母妃に願う。母妃は愛する1人息子の命を救うため、まわりの反対を押し切って、「ろばの皮」にケーキを作らせる→〔指輪〕3。
『肝つぶし』(落語) 由松が、夢で見た女に恋して病臥する。命を救うには、生まれた年・月・日・刻が、辰とか寅とか1つに揃った女の生き肝を煎じて、由松に飲ませるしかない。かつて由松の亡父から恩を受けた男が、「妹が年月揃った女だから、生き肝を取って恩返しをしよう」と考え、出刃包丁をかまえる。妹が驚くので、男は「芝居の稽古だ」と言ってごまかす。妹「肝をつぶしたわ」。男「ああ。それでは薬にならぬ」。
*寅の年・寅の月・寅の日・寅の刻に生まれた女の血→〔子殺し〕3の『摂州合邦辻』「合邦内」。
*生き肝は、さまざまな病気を治すことができる→〔生き肝〕1。
★2b.老翁の恋わずらい。
『宇治拾遺物語』巻4-8 『法華経』を8万4千余部読んだ、80歳の老僧が、進命婦(しんのみやうぶ)という若い女房を見て欲心を起こし、不食の病になって死に瀕する。それを知った進命婦が老僧の許へ行くと、老僧は「嬉しく来たらせ給ひたり」と喜び、「関白・摂政を産ませ給へ。女御・后を産ませ給へ。大僧正を産ませ給へ」と、彼女を祝福して死んだ。後、彼女は宇治殿(藤原頼通)に寵愛され、京極大殿・四条宮・覚円座主を産んだ。
★3.男が恋わずらいのあげく、死んでしまう。
『今昔物語集』巻30-1 色好みの平中(=平定文)は、本院の大臣に仕える女房・侍従の君に懸想するが、さんざんに翻弄されて、思いを遂げることができない。彼はどうしても侍従の君をあきらめきれず、あれこれと思い悩んでいるうちに、とうとう病気になり死んでしまった。
『対髑髏』(幸田露伴) 華族の若殿が、美女・妙(たえ)を恋するが、妙は遺伝病の家系であり〔*当時、癩病は遺伝病と考えられていた〕、若殿の求愛を受け入れることはできなかった。若殿は恋わずらいのあげく、血を吐いて死んでしまった〔*妙は世を捨て、山にこもって生涯を終える。やがて白骨と化した彼女は自分の身の上を、旅の男である「我(=露伴)」に語る〕→〔髑髏〕2c。
★4a.恋わずらいして死んだ男が、神になる。
『じゅりあの・吉助』(芥川龍之介) 昔、「べれん」の国の若君「えす・きりすと」が、隣国の「さんた・まりあ」姫に恋し、焦がれ死にした。「えす・きりすと」は「われと同じ苦しみに悩むものを救おう」と思い、神になった。浦上村の某家の下男吉助は、主家の娘への叶わぬ恋に苦しみ、紅毛人から「えす・きりすと」の話を教えられて、切支丹宗門の信者となった。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)100「雪の三タ丸屋(サンタマルヤ)」 るそんの国の王様が、貧しい大工の娘・丸屋に求婚したが、丸屋は天へ去ったので(*→〔雪〕7)、王様は恋い焦がれて死んでしまった。一方、丸屋は天からまた地上へ降り、イエス・キリストを産んだ後に(*→〔蝶〕6)、再び天へ昇った。神様が仲だちをして、るそんの王様と丸屋は、天で夫婦になった。
★5.娘が恋わずらいして、死ぬ。
『三尺角』(泉鏡花) 豆腐屋の娘お柳は、叶わぬ恋の悩みで床に臥し、明日をも知れぬ容態だった。そこへ、男から「そこらの材木に枝葉がさかえるようなことがあったら、夫婦になってやる」との手紙が届く。折しも、外では木挽(こびき)の与吉が、「材木に葉が茂った。枝ができた」と叫び(*→〔あり得ぬこと〕3)、お柳は微笑んで頷(うなず)く。今や死のうとするお柳の耳に、与吉は福音を伝えたのである。
『振袖』(小泉八雲『霊の日本』) 江戸時代の初め頃。金持ちの商人の娘が、祭礼に出かけた。娘は群集の中に1人の美しい若侍を見そめるが、すぐに見失う。娘は、若侍が着ていたのと同じ紋・同じ色模様の振袖を作らせる。それを着て出かければ、何かの折に若侍の注意を引くことができるかもしれない、と思ったのである。しかし娘は2度と若侍と出会うことなく、やつれはて病気になって、死んでしまった。
『闇桜』(樋口一葉) 園田良之助は某学校の学生で22歳、隣家の中村千代は女学校へ通う16歳。2人は幼なじみで、兄妹のように仲が良かった。2人が摩利支天の縁日に出かけた時、女学校の友人たちが千代の背中をたたいて「おむつましいこと」と、からかう。千代は良之助への恋心を自覚して、恥ずかしく悩ましく、たちまち病に臥す。下女の訴えで、良之助が千代の恋心をようやく知った時、彼女の命は尽きようとしていた。
★6.娘が恋わずらいして、熱病になる。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)2~3 水島寒月がある会合へ出て、某家の令嬢○○子さんの病気のことを聞かされる。○○子さんは2~3日前、寒月に会ったその晩から急に発熱して、いろいろな譫語(うわごと)を口走る。その譫語のうちに、寒月の名が時々出てくるという。寒月は○○子さんの身の上を案じ、暗い気分になる〔*「○○子さん」は、金田家の令嬢富子のこと。これは富子の母鼻子が、寒月の気を引くためにこしらえた作り話だった〕→〔身投げ〕2。
『鹿の子餅』「恋病」 年頃の娘が、物思いにふけって病臥する。乳母が「恋わずらいに違いない」と推量して、「相手は誰じゃ。隣の繁さまか? 向かいの文鳥さまか?」と問う。娘は「いいえ」と首をふる。乳母「いったい誰じゃ?」。娘「誰でもよい」。
*息子が母を恋して病床に臥す→〔母子婚〕2の『故郷へ錦』(落語)。
*倩娘は、恋人王宙との仲を裂かれて病臥するが、その分身は王宙のもとへ行く→〔分身〕2の『離魂記』(唐代伝奇)。
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