性器(女)
『古事記』上巻 アマテラスが天の岩屋戸に閉じこもり、高天原も葦原中国も闇夜になった。八百万の神々は、アマテラスを岩屋戸の外へ出す方法を相談する。アメノウズメが神がかりになり、乳房も性器も露出して舞い踊り、神々は大声で笑う。アマテラスは不思議に思い、岩戸を少し開ける〔*女神が裸になって太陽神を誘い出す『古事記』とは逆に、→〔太陽〕9の『イソップ寓話集』「北風と太陽」では、太陽が照りつけて男を裸にする〕。
*美女を裸にして雨乞いをする、という物語もある→〔雨乞い〕2の『夜叉ケ池』(泉鏡花)。
『沙石集』巻10末-12 和泉式部は藤原保昌に捨てられ、貴布禰神社で夫婦和合の修法を行なう。老巫女が赤い幣を立て巡らせ、鼓を打ち性器を露出し、たたいて3度回る。「同じようにし給え」と言われた和泉式部は、顔を赤らめてこれを断り、「ちはやぶる神の見る目も恥づかしや身を思ふとて身をや捨つべき」と詠歌する。藤原保昌は彼女のふるまいに感心し、愛情が復活する。
★2.女であることを示すために性器をあらわす。
『古事談』巻2-58 源頼光が四天王らを遣わして清監を打たせた時、清監の妹清少納言が同宿していた。男法師のように見えたので殺そうとしたところ、清少納言は、尼であることを示そうと、自ら性器をあらわした。
★3.女性器を露出して敵や魔物に対抗する、あるいは退治する。
『鬼餅』(沖縄の民話) 乱暴な男が、鶏や山羊や豚を盗んで食っているうちに、鬼になってしまった。男には、27歳になる美しい妹がいた。妹は、兄の鬼の歯をくじいて征伐すべく、瓦を砕いて餅に入れ、食べさせる。固い餅に歯が立たず、兄の鬼が困惑していると、妹は着物のすそをまくって見せる。兄の鬼「お前の下に、ひげの生えている口は何だ?」。妹「私の上の口は、固い餅を食べる口。下の口は、鬼を噛み殺す口」。びっくりした兄の鬼は、断崖から足をすべらせ、海へ落ちて死んでしまった(沖縄本島)。
『史記』「周本紀」第4 周の厲(れい)王の代。神龍の吐いた沫(あわ。=龍の精気)を納めた匱が開かれ、沫が宮庭に流れ出た。王の命令で、全裸の女たちが沫にむかって大騒ぎすると、沫はトカゲと化して後宮に入りこみ、7歳ほどの少女と出会った。少女は15歳頃になって、夫なしで身ごもり、女児を産んだ〔*沫は精液、トカゲは男性器を意味するのであろうか〕→〔子捨て〕1a。
『日本書紀』巻2・第9段一書第1 ニニギノミコトが高天原から葦原中国へ降臨しようとした時、その道すじに、1人の怪しい神が立ちふさがった。アメノウズメが、乳房と性器を露出してその神に向き合い、名を問うた→〔笑い〕1a。
*乳房を露出して敵を追い払う→〔乳房〕2の『赤毛のエイリークのサガ』。
*→〔傷あと〕7の『カター・サリット・サーガラ』・『パンタグリュエル物語』は、女性器を見せて魔物を追い払う物語が笑話化したもの。
*女性器をあらわして鬼を笑わせる→〔笑い〕1cの『鬼が笑う』(昔話)。
*女性器をあらわして女や女神を笑わせる→〔笑い〕3bの『デメテルへの讃歌』・『ペンタメローネ』(バジーレ)「序話」。
★4.女性器の絵を刺青にするのは、魔よけ・弾丸よけの意味があるのかもしれない。
『黒地の絵』(松本清張) 朝鮮戦争で戦死した黒人兵の腹に、赤色で女性器を描いた刺青があった。死体処理作業に従事する歯科医香坂は、「こんな刺青を彫ってしまったら、軍務を終えて帰郷した後で人前に出られず、後悔するだろう。そこまで考えが及ばない無知な男だったのか」と思う。しかしすぐ「いや、そうではない」と香坂は考え直す。この兵士は、戦場から生きて帰れないことを覚悟して、女性器の刺青を彫ったのだ→〔暴行〕6b。
*→〔千〕7の『現代民話考』(松谷みよ子)6「銃後ほか」第2章の2の、千人針に女性の陰毛を用いるという話も、女性器が魔よけ・弾丸よけになる、ということなのであろう。
★5.貞操を守る紐も、女性器同様に、化け物を退治する力を持つ。
『物知り老人』(アイヌの昔話) 檻の中のミントゥチ(=河童の化け物)が暴れ出し、その家の2人の女(*→〔口〕6d)を取り殺そうとする。物知り老人の教えで、2人の女はラウンクッ(=女の貞操を守る紐。夫以外の者は絶対に手を触れることができない)をほどき、2本の紐をつないで檻をしばる。物知り老人が呪文を唱えると、ミントゥチは、見えない紐で首をしめられるごとく苦しみ、死んでしまった。ラウンクッには化け物を殺す力が備わっているから、常に身につけているべきだ、と言われる。
★6.歯牙のある女性器。ヴァギナ・デンタータ。
『耳袋』(根岸鎮衛)巻之1「金精神(こんせいじん)の事」 津軽での出来事。娘の陰部に鬼牙があって、交合の折に男根を傷つけたり喰い切ったりするので、何人もの婿が、逃げ帰ったり死んだりした。1人の男が黒銅製の男根を用いると、陰部の牙はことごとく砕けて抜け、以後は普通の女になった。その地方では、黒銅で男根の形をこしらえて「カナマラ大明神」と呼び、今でも神体として尊崇している。
『夢日記』(スウェーデンボルグ) 「私」は、あまりきれいでない女と寝ていた。「私」はその女を好いていたので、彼女に触れたが、その入口には歯が並んでいた(1744年4月13~14日)。石炭の火が赤々と燃えている所で、「私」は女たちと一緒になった。女たちは、「私」が入って行きたいと思う箇所に歯をはやしていて、「私」が入ろうとするのを妨げた(同年10月9~10日)。
*入れ子構造の女性器→〔入れ子構造〕2の『女体消滅』(澁澤龍彦『唐草物語』)。
★7.女性器と口。
『聴耳草紙』(佐々木喜善)89番「狸の話(狸の女)」 大正7年(1918)冬。宮古の山中で、爺と2人の若者が小屋に泊まっていた。そこに若い女が来て、宿を請う。女は炉端に座るが、だんだん姿勢が崩れ、赤い腰巻や性器をチラチラ見せて、若者を誘惑する。そのうち囲炉裏の暖かさで、性器があくびをする。爺と若者たちは女を捕らえて叩く。それは2匹の狸が首乗りに重なって、1人の女に化けていたのだった。
★8.女性器を傷つける。
『古事記』上巻 アマテラスが忌服屋(いみはたや)にいて、神に奉る衣を織らせていた時、スサノヲが服屋(はたや)の屋根に穴をあけ、天の斑馬を逆剥ぎにして落とし入れた。天の機織女(はたおりめ)は驚き、梭で陰部を突いて死んだ〔*『日本書紀』巻1・第7段本文ではアマテラスが梭で身を傷つけた、一書第1ではアマテラスの子とも妹ともいわれる稚日女(ワカヒルメ)が梭で身を傷つけて死んだ、と記す〕。
『播磨国風土記』揖保の郡萩原の里 神功皇后の従者たちが、米をつく女たちの性器を交接して断ち切った。それゆえ陰絶田(ホトタチダ)と言う。
*火の神を産んで女性器を火傷する→〔火〕1aの『古事記』上巻。
『ヰタ・セクスアリス』(森鴎外) 「僕(哲学者・金井湛)」が10歳の時のこと。それまで、女の身体のある部分を見たことがなかったので、「僕」は一計を案じ、同年くらいの勝(かつ)という娘に、「縁の上から飛んで遊ぼう」と言った。「僕」が着物の尻をまくって庭へ飛び降ると、無邪気な勝は同じように尻をまくって飛んだ。「僕」は目を円(まる)くして覗いたが、白い脚が2本、白い腹に続いていて、何も無かった。「僕」は大いに失望した。
*男女が性器を隠す→〔裸〕3。
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