卵
『水晶の珠』(グリム)KHM197 魔法使いが、自分の魂である水晶の珠を、卵黄の代わりに卵の中に入れ、その卵を鳥の腹に入れ、その鳥を牛の腹にしまいこんで守る。若者が牛と戦い、鳥を追い、卵を見つけて、そこから水晶の珠を取り出して魔法使いにつきつける。魔法使いは自分の術が破られたことを認める。
『火の鳥』(ストラヴィンスキー) イワン王子は悪魔コスチェイの魔法で石にされそうになるが、火の鳥が飛来して王子を救う。火の鳥は、コスチェイが自分の魂を卵の中に入れ、その卵を鉄の箱に入れて庭の木の根もとに隠していることを教える。王子は卵を探し出して割り、コスチェイは消える。
*壜(びん)の中に魂を隠す→〔瓶(びん)〕2の『子不語』巻5-125。
*大事なものを安全な場所に隠して身を守る→〔藁人形〕1cの『人形』(星新一『ノックの音が』)。
★2.金の卵を産む。
『イソップ寓話集』(岩波文庫版)87「金の卵を生む鵞鳥」 ある男が、金の卵を生む鵞鳥を神から授かった。彼は、御利益が少しずつ現れるのが待ちきれず、「鵞鳥の中身は丸ごと金だろう」と思いこんで殺したが、中身は普通の肉だった。
*身体から食べ物を出す女神の体内を見ようと思って殺す→〔食物〕11の穀物の神・矮姫(サヒメ)の伝説。
*琴の中に美しい音色があるだろうと思って、琴を壊してしまう物語もある→〔琴〕7aの『大般涅槃経』。
『ジャックと豆の木(豆のつる)』(イギリスの昔話) 天上に住む人食い鬼の持つ鶏は、純金の卵を産む。天上を訪れたジャックは、人食い鬼が眠るすきに、鶏を盗んで逃げ帰る。ジャックが「産め!」と言うたびに、鶏は黄金の卵を産んだ。
★3a.卵から幼い子が生まれる。
『海道記』 昔、採竹(たけとり)の翁という者がいた。翁宅の竹林で鶯の卵から女児が生まれて、巣の中にいた。女児は翁に育てられ美しく成人して、「かぐや姫」とも「鶯姫」とも言われた。彼女は前世に人間として翁に養われ、天上界に生まれ変ってから、前世の恩を返すために竹林中に化生したのだった。
『三国史記』巻1「新羅本紀」第1・第1代始祖赫居世居西干前紀 楊山の麓の林の中に大きな卵があり、割ると幼児が出てきた。この子は13歳で即位して、新羅の始祖赫居世となった。
『シャタパタ・ブラーフマナ』 太初、宇宙はすべて水であった。そこから黄金の卵が出現し、1年後に黄金の卵から創造神プラジャーパティが生まれ、彼が天と地・季節・神々や阿修羅などを造った。
*卵から天地が生まれる→〔天地〕1aの『カレワラ』(リョンロット編)第1章。
★4.人が卵を産む。その卵から一人あるいは多数の子供が生まれる。
『今昔物語集』巻2-15 天竺舎衛国の須達長者の末娘蘇曼女は、叉利国の王子に略奪されその妻となって、10の卵を産んだ。卵からは10人の立派な男子が生まれた。蘇曼女と10人の子は、前世においても母子だった。
『今昔物語集』巻2-30 波斯匿王の后毘舎離は32の卵を産み、そこから32人の立派な男子が生まれた。しかし彼らは成長後、大臣の讒言のために、父王の手で殺された。32人の首は1箱に入れ、封をして母毘舎離のもとへ送られた。
『今昔物語集』巻5-6 般沙羅国王の后が産んだ5百の卵が、箱に入れて河へ棄てられた。隣国の王が箱を見つけ、王宮に持ち帰ると、5百の卵から5百人の男児が生まれた。王は喜んでこれを養育し、彼らは成長して5百人の武士となる。この国と般沙羅国は敵どうしだったため、王の命令で、5百人の武士は般沙羅国へ攻め入った→〔乳房〕8。
『三国史記』巻1「新羅本紀」第1・第4代脱解尼師今前紀 多婆那国王の妃は、妊娠して7年たって大きな卵を産んだ。妃は絹の布で卵を包み、宝物とともに箱に入れて海に流した。その卵から新羅王脱解尼師今が生まれた→〔箱船(方舟)〕3。
『捜神記』巻14-4(通巻343話) 昔、徐国の後宮の婦人が卵を産み、河原に捨てたが、犬が卵をくわえて戻って来た。やがて子供が生まれ、その子は徐国の後継ぎになった。
★5a.卵を食べた罪。
『今昔物語集』巻9-27 周の武帝は鶏卵が好きで、食事の度ごとに多くの卵を食べた。そのため武帝は、死後、地獄で咎めを受けた。牛頭人身の獄卒が、鉄の床に伏す武帝の身体を、前後から鉄の梁で押す。武帝の身体の両脇は裂け、そこからおびただしい数の鶏卵がこぼれ出て、うず高く積み上がった。
『卵』(三島由紀夫) 毎朝生卵を呑んでいた5人の学生が、卵の化身である警官たちに逮捕され、巨大なフライパンの底にある裁判所へ連行される。裁判官も傍聴者も皆、卵だった。卵を破壊して食用にした罪で、5人は死刑を宣告される。5人は逃げ、フライパンの柄にぶら下がったので、フライパンはひっくり返る。数千の卵が地面に落ちて割れ、黄身と白身が交じり合って池になる。5人は卵の池から卵焼きを作り、毎朝食べることになった。
『二百十日』(夏目漱石)3 碌さんと圭さんが、肥後の宿屋で半熟卵を注文する。下女が「半熟」を知らないので、「半分煮るんだ」と教える。すると下女は、4つの卵を2つはゆでて、2つは生のまま持って来た。
『セレンディッポの三人の王子』1章 インドの女王陛下が、セレンディッポ(=セイロン)の3王子の末弟に謎を出す。「5つの卵を割ることなく、私と大臣とあなたと、3人に平等に分けよ」。王子は卵3つを女王の前に置き、1つを大臣に渡し、1つを自分が取る。「大臣と私はズボンの中に卵を2つ持っておりますので、これで平等に分けたことになります」。処女である女王は顔を赤らめつつも、この答えに満足した。
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