レキシントンの炎上
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 02:18 UTC 版)
第17任務部隊を発見した翔鶴索敵機(菅野機)は帰投中に日本軍攻撃隊69機と合流し、反転して攻撃隊を第17任務部隊へ誘導した。菅野機は増槽を装備しておらず、燃料切れを覚悟の行動であった。午前9時15分 (11:05)、日本軍攻撃隊69機は母艦を発進して約2時間後に第17任務部隊を視認した。第17任務部隊は日本軍MO機動部隊とは対照的に、それぞれの空母を中心に2つの輪形陣を形成している。「レキシントン」のレーダーは20分前から日本軍攻撃隊を捉えていたが、戦闘機隊との連携ミスで有効に生かせなかった。この時、第17任務機動部隊上空にF4Fワイルドキャット8機があり、空母2隻の飛行甲板で合計9機が待機、艦隊に残されたSBDドーントレス23機のうち16機(ロジャー・ウッドハル大尉)が空中待機している。SBDは雷撃隊阻止のために海面付近に配備されていたが、日本軍雷撃隊の速度をTBDデバステーターと同じ程度と想定しており、TBDより高速の九七艦攻が頭上を通過するのを見送るしかなかった。雷撃隊の阻止に失敗したウッドハル隊は零戦隊と交戦、零戦4機撃墜を主張し、SBD 4機が撃墜された。 最初に瑞鶴の雷撃隊8機が空母ヨークタウンを、翔鶴の雷撃隊10機が空母レキシントンを狙った。瑞鶴雷撃隊はF4F 2機に攻撃され、第二中隊から井手原機が撃墜され、第二中隊はヨークタウンを攻撃できなかった。ヨークタウンは嶋崎少佐以下4機の九七艦攻を迎撃、対空砲火で樋渡機を撃墜し、投下された魚雷4本も全て回避した。樋渡機は「敵軽巡に突入」と記録されたが、実際は海面に激突している。瑞鶴雷撃隊のうち、井出原機を失った第二中隊3機は米艦隊の位置関係が変化してレキシントンに目標を変更、翔鶴雷撃隊10機と合流、13機でレキシントンを雷撃することになった。レキシントンは瑞鶴第二中隊から山田機を5インチ主砲で撃墜、翔鶴雷撃隊から3機を撃墜した。このうち被弾炎上した矢野機はレキシントンの一番砲塔の下部に体当たりしている。一方、投下された魚雷は左舷に2本が命中(日本軍は魚雷9本命中と誤認)、速力25ノットに低下、左に7度傾斜し、第2・4・6ボイラー室が浸水使用不能となった。 続いて午前9時15分、翔鶴艦爆隊19機がレキシントンを、瑞鶴艦爆隊14機がヨークタウンを攻撃した。アメリカ軍第2戦闘機中隊4機(フレッド・ボリスJr大尉)と第42戦闘機中隊2機(アーサー・J・ブラスフィールド中尉)は翔鶴零戦隊に阻まれて翔鶴艦爆隊の阻止に失敗、ブラスフィールドは零戦1機・艦爆1機撃墜を主張した。ヨークタウン所属F4F(フラットレイ機)は九九艦爆と九七艦攻2機以上を撃墜し、続いてSBD隊を掩護して零戦1機の撃墜を主張した。クロメリン機は零戦3機撃墜を主張し、自らも被弾して不時着水した。瑞鶴零戦隊は9機中1機が帰投中デボイネに不時着、ドーントレス14機を含む29機撃墜を主張した。翔鶴零戦隊は9機全機が母艦に帰投し、ドーントレス6機を含む31機撃墜を記録した。 上空で激しい空中戦が繰り広げられる中、レキシントンは午前9時18分 (11:18) から (11:30) まで12分間の戦闘で魚雷2本、250キロ爆弾2発命中、至近弾5発を受けた。この時爆弾命中による5インチ砲弾誘爆を目撃した日本軍機は、午前9時25分 (11:25) に「サラトガ撃沈」と発信した。だが、レキシントンは未だ健在であり、浸水を食い止め火災も鎮圧した。一方、被雷によって漏れだしたガソリンが気化して引火、大爆発を起こして消火不能となった。レキシントンは駆逐艦フェルプスの雷撃により自沈した(詳細は後述)。 ヨークタウンは九七艦攻3機、九九艦爆14機に襲撃されて艦攻1機・艦爆2機を撃墜し「艦攻9機に襲撃され8機を撃墜、艦爆5機を撃墜した」と記録した。日本軍の命中主張9発に対し、実際の命中弾は250kg爆弾1発だけであったが、艦首至近距離の海面に自爆1機、至近弾3発が船体の接合部を緩めてしまい、燃料が漏れ出した。命中した250kg爆弾は飛行甲板を貫通後、1.5インチ鋼鉄装甲の第4甲板で爆発、火災による黒煙とガスで機関科ボイラー員は持ち場から脱出した。3つの罐室が損傷するも、決死隊の応急措置によりヨークタウンは24ノット発揮可能となった。応急処置で燃料漏れはおさえたものの、給油艦ネオショーを失っていたヨークタウンは、5月10日にトンガタプ島に投錨した時点で保有燃料を使い果たしていた。ヨークタウンはこの地で英国商船から燃料を補給してもらい、乾ドックで本格的修理をするために真珠湾へ向かった。 燃料切れを覚悟で味方攻撃隊を誘導した、菅野兼蔵飛曹長の翔鶴索敵機(九七艦攻)は未帰還となった。アメリカ軍によれば、ヨークタウン隊のF4Fワイルドキャット2機(ウィリアム・S・ウォーレン中尉、ジョン・P・アダムス少尉)は単独でMO機動部隊へ向かう九七艦攻を発見して撃墜したが、この機が菅野機である可能性が高い。同じように翔鶴の佐藤機・石川機もF4Fに襲われ、石川機は「瑞鶴」着艦後に投棄処分、佐藤機は不時着して搭乗員3名は海上に脱出したものの駆逐艦白露の捜索でも発見できず、行方不明となった。高橋赫一少佐機は単独で帰投中、SBDドーントレス1機とウィリアム・N・レオナルド中尉のF4Fに襲われた。アメリカ軍戦闘機が接近しても回避行動をとらず後部機銃で反撃しなかったことから、高橋少佐と野津特務少尉/後部銃座手の両者は既に重傷を負っていた可能性がある。 第17任務部隊は直衛戦闘で零戦22、爆撃機11、雷撃機31撃墜、合計66機撃墜と主張。実際には、日本軍攻撃隊は69機が出撃し、不時着機や処分機をふくめ約半数を喪失した。瑞鶴は艦爆2機、艦攻5機を戦闘で失った。翔鶴は高橋少佐を含む艦爆7機、艦攻5機を戦闘で失った。瑞鶴は零戦8、艦爆12(2機使用不能)、艦攻4を収容後、翔鶴隊の零戦9、艦爆7、艦攻6を収容した。さらに着艦後に12機を海中投棄した。また飛行甲板前部を大きく損傷した翔鶴に着艦した零戦1、艦爆1は、発艦不可能のため戦力とはならない。他に、零戦6、艦爆7、艦攻1が不時着して救助されている。即時使用可能兵力は8日午後6時の報告で、零戦24、艦爆9、艦攻6、修理後使用可能零戦1、艦爆8、艦攻8、9日午後には零戦24、艦爆13、艦攻8である。戦闘詳報では以下の戦果を報じた。 (イ)サラトガ型空母撃沈、ヨークタウン撃沈確実。 (ロ)戦艦1雷撃に依り重油流出すると共に大火災を生ず。 (ハ)巡洋艦1の後部に艦攻1機魚雷を抱きたるまま衝突発火、火災、左に傾斜。 (ニ)敵機撃墜機数:味方部隊に依り敵機第一次30機(雷爆)、第二次35機(雷爆)、第三次10機中グラマン戦闘機13(内2不確実)、カーチス爆撃機及ダグラス雷撃機15(内1不確実)。 (ニ)敵上空にて空戦に依るもの:グラマン戦闘機32(内2不確実)、カーチス爆撃機17(内3不確実)。 日本軍攻撃隊は、サラトガ(レキシントン)に爆弾10発・魚雷9本命中、ヨークタウンに爆弾8発・魚雷3本以上命中撃沈確実とアメリカ軍と同じように戦果を誤認、他にも米戦艦1隻と巡洋艦に魚雷命中と報告しているが、対応する艦は存在しない。実際のアメリカ軍の損害は、MO機動部隊上空(不時着機のぞく)で「F4Fワイルドキャット戦闘機8、SBDドーントレス爆撃機3、TBDデバステーター雷撃機1」撃墜、第17任務部隊上空で「ワイルドキャット6、SBDドーントレス15」合計33機である。
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