ヒュペルボレイオスとは? わかりやすく解説

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ヒュペルボレイオス

(ヒペルボレイオス から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/07 02:02 UTC 版)

ヒュペルボレイオス古代ギリシア語: Ὑπερβόρειος, Hyperboreios)は、ギリシア神話において、極北の地に住むという伝説上民族[1]。「北風ボレアース)の彼方(ヒュペル)に住む人々」を意味する[2]複数形ヒュペルボレイオイ[3]ヒュペルボレイオス人[1][3]ヒュペルボレオス[3]ヒュペルボレオイ[3]とも呼ばれる。

アポローンを篤く崇拝する民族として知られ、彼らの住む地(国)は一種の理想郷と捉えられていた。ギリシア人は極北の地を「トゥーレ」と呼んで人は住めないと考えていたが、一方では緑の楽園を夢見ていた。

概説

ヘーロドトス歴史』第4巻32~36章、 大プリーニウス博物誌』で詳細に語られる。

彼らが住むところは「トラーキアスキュティアよりも」遠い極北の、プリーニウスによれば天に最も近い、世界の蝶番のような場所で、宇宙の中心にある地球の「星の運航の極限」であり[4]、一年中が春で、穏和な気候に恵まれ、一日中が夜の無い昼である。永遠の光、光明、に包まれた、幸福に満ち溢れた地(国)で、彼らは自由に空を飛び、病気・労働・心配も知らず、1000年に至る寿命と至福の生を送り、平和に暮らしているという。土地は肥沃で実りは豊か、山は蝶、川は魚、森は一角獣に溢れる。

しかし、この地(国)に通じる海峡にある、女性の形をした、岩だらけの絶壁は、夜になると生命が宿って、通りかかる船を全て破壊する。その為、プリーニウスによれば、この地へは昼の間に行くべきだという。

また、陸路については、極寒の北風ボレアースの他、この地方の南部、「羽毛のような雪」が降ると言われる地方にリーパイオス山(山頂にはグリュプスとアリマスポイ族が住む)という山があって、交通の要害となっている[5]

デーロス島アルテミスとともに生まれたアポローンは誕生の際に、ゼウスの命令に背き、デルポイに赴く前に、先ず、白鳥の引く車に乗り、ヒュペルボレオイ(ヒュペルボレイオス)の住む地(国)にやって来て、逗留したとされる。また彼らの母レートーがかの地の出身だという説がある。

以後、毎年冬の間は、白鳥の引く車に乗り、デルポイを離れ、この地(国)へ行って暮すと信じられた。

前5世紀の歴史家ヘーロドトスが、アポローン誕生の聖地デーロス島の住民の話として伝えるところによれば、「かつてヒュペルボレオイ(ヒュペルボレイオス)は、2人の乙女ヒュペロケーとラーオディケーにアポローンへの供物を持たせて、デーロス島へ送り出したが、乙女たちが帰国しなかったため、以後は、麦わらに包んだ供物を国境まで運んで隣国人に渡し、それをまた次の隣国人に転送してくれるように、と頼んだ」とされる。

このヘーロドトスが説く、スキュティア~隣国から隣国へ~アドリア海~ドードーネー人~マーリス湾~エウボイア島~町を経めぐり~カリュストス~テーノス~デーロスに至る供物を渡すルートは、青銅器時代の古代ギリシアにおける琥珀の道とその交易の記憶が神話として残っている可能性がある[6]

政治

神聖統治で、アポローン神官のボレアースの3人の息子が王として支配している。

また、ヘーロドトスによれば、アポローンの敬虔な信徒であるここの王アバリスは、アポローンから授かった「例の矢」に乗って、各地で託宣を述べ伝えたなどと言われる。

場所

「ヒュペルボレイオイ」は「極北」と訳される。ただし、この語には「山の彼方」「商品を運ぶもの」[7]という意味があるという。

ストラボーンの地図には、アジアの大部分がヒュペルボレイオイ人の国となっている[8]

アトランティスの候補」としてかの地が挙げられる点を紹介するジュディス・A・マクラウド[9]は、モデルに関しスウェーデン辺りの可能性を示唆[10]し、ロドスのアポローニウスが描くエーリダヌス川を、「地熱が活発なアイスランド」に似ると指摘している[11]

神話での登場

また、アポロドーロスは、『ギリシャ神話』第2巻5章11節で「アトラースが立っているヘスペリスの野」をこことし、1巻4章5節でオーリーオーンがアルテミスに殺されたのは、彼がこの地出身のオピスという女性を乱暴に犯したため、という説を上げている。

脚注

  1. ^ a b 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店、1960年。ISBN 9784000800136 208頁。
  2. ^ 地底世界への入口、ついに発見か!? 人類滅亡回避のカギは「サーミ族」の伝説にあった!”. エキサイトニュース (2016年4月1日). 2019年11月21日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b c d 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。 ISBN 9784876989256 992頁。
  4. ^ 『博物誌』第1巻197頁
  5. ^ J・A・マクラウド 271頁
  6. ^ 『世界大百科事典』平凡社、24巻90頁、水谷智洋執筆の記事。
  7. ^ 『ギリシア・ローマ神話事典』425頁
  8. ^ ジュディス・A・マクラウド、34頁。
  9. ^ ジュディス・A・マクラウド、287頁
  10. ^ J・A・マクラウド、270頁
  11. ^ J・A・マクラウド、272頁

参考文献

関連項目



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