ネオニコチノイド系
ネオニコチノイド系
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/18 09:26 UTC 版)
「蜂群崩壊症候群」の記事における「ネオニコチノイド系」の解説
ネオニコチノイド系殺虫剤の農薬成分には、イミダクロプリド、アセタミプリド、ジノテフランなどがあり、農薬には日本の住化武田農薬(現住友化学)が開発したクロチアニジン(2001年日本で農薬登録)、ニテンピラム(1995年販売)などがあり、バイエルクロップサイエンスと共同で欧州市場で展開した。 蜂群崩壊症候群の発生以降、ミツバチの大量消失とネオニコチノイド系農薬殺虫剤との因果関係について研究がされ、オランダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリアなど、ヨーロッパの多数の国家で、予防原則を適用し使用が禁止された。 イミダクロプリド(Imidacloprid)は土に撒かれ、花粉や蜂蜜といった植物の組織に吸収される。ミツバチをはじめとする昆虫に見られるイミダクロプリドの効果は、CCDの症状と一致する。例えば、シロアリへのイミダクロプリドの効果は免疫系に影響を与え、方向感覚を喪失させる。ヨーロッパでの「ミツバチの死亡」現象とイミダクロプリドの関係については議論と研究が蓄積されてきている。 欧米における調査と規制 1994年にフランスでイミダクロプリドによる種子処理(種子のコーティング)が導入された後、ミツバチ大量死事件が発生。1999年1月にフランス政府はイミダクロプリドによるヒマワリ種子処理を全国的に一時停止し、調査に着手。 2000年にはオランダがイミダクロプリドの開放系栽培での使用を禁止し、デンマークでもイミダクロプリドが販売禁止された。 2002年にミツバチ全滅事件(蜂群崩壊症候群)発生。 フランス世界環境基金(FFEM)の研究機関Comité Scientifique et Technique (CST)は、イミダクロプリド(フランスでの商品名GAUCHO(ガウチョ))のフランスにおける部分的禁止を提言し、2003年にフランス農業省の委託を受けた毒性調査委員会はイミダクロプリドの種子処理によるミツバチへの危険性を警告する政府報告書が発表された。同2003年にはスクロースに溶けた致死量に近いイミダクロプリドは、ミツバチの帰巣本能と摂食活動に影響を与えると指摘され、また働き蜂と農地に与えられた致死量に近いイミダクロプリドは飛翔活動と嗅覚機能を減少させ、嗅覚機能による学習能力の減少が生じたと研究発表された。 2004年にフランス農業省はイミダクロプリドを活性成分とするネオニコチノイド系殺虫剤であるバイエル社の農薬「ガウチョ」の許可を取り消した。またイミダクロプリドによるトウモロコシの種子処理も禁止された。 2005年、ボローニャのイタリア国立養蜂研究院は、イミダクロプリドが付いた種から得られた花粉は致命的なレベルの殺虫剤を含むことを発見し、汚染された花粉はミツバチのコロニーを死に導きかねないと発表した。トウモロコシとヒマワリにおけるイミダクロプリドが付いた種の解析では、多量の殺虫剤がミツバチのコロニーに再び運ばれていくことを示唆している。働き蜂に与えられるスクロースに溶けたイミダクロプリドは数時間でミツバチのコミュニケーションを減少させる。 2006年にネオニコチノイド系農薬のクロチアニジンがドイツで市場に出回ると、ハチの大量死・大量失踪が初めて報告された。2007年にはアメリカでもネオニコチノイド系農薬がミツバチに被害を与えると指摘された。カナダの養蜂家も消失現象を経験しているが、彼らはネオニコチノイドの農薬を散布している。 欧州連合では2013年12月より、ネオニコチノイド系農薬のうちクロチジアニン・イミダクロプリド・チアメトキサムの3種に対する使用規制が導入された。ただし、開花時期以外での散布、温室ハウス内での散布、ミツバチのこない作物への使用、この3種以外のネオニコチノイド剤の使用は、禁止対象外である。 フランスでの禁止 2006年4月、フランス最高裁の判決を受け、ネオニコチノイド系農薬ガウチョは正式に使用禁止となる。フランスでの禁止に対して2006年に欧州連合科学者委員会は「モニター研究は主にフランスで行われており、EUの加入国は自分の国の環境とこれらの研究結果の関係を考える必要がある」と述べた。 2016年7月、フランス国民議会はネオニコチノイド系農薬の使用禁止などを盛り込んだ生物多様性法案を可決。2018年9月からネオニコチノイド剤は一部の例外を除き使用禁止となる。2020年7月からは例外使用規定が廃止され、全面禁止となる予定である。 ドイツ・イタリアでの禁止 2008年に被害が深刻化したことや研究報告を受けてドイツ連邦消費者保護・安全局(BVL)は、イミダクロプリドとクロチアニジンの認可を取り消し、ネオニコチノイド系農薬7種類を販売禁止。同2008年、イタリア農水省もイミダクロプリドやクロチアニジンによる種子処理を禁止。 日本におけるCCD発生 2009年には日本の長崎県の壱岐、五島、平戸、的山大島などでミツバチの大量死が発生し、三井化学アグロのスタークルメイトでは蜂の3分の1は生き残り、住化武田農薬のダントツでは全滅すると報告された。 日本では、残留ネオニコチノイドの許容基準値が、欧州連合よりも大幅に緩く、アセタミプリドの場合、EUでは0.01ppm以下に規制されるのに対して、日本では500倍の5ppmが許可されている。 2012年4月5日には、ハーバード公衆衛生大学院は蜂群をイミダクロプリドに晒す実験を行い、23週間後に16のうち15の蜂群において崩壊が起きた事を発表した。2012年4月20日の『サイエンス』で、イギリスのチームはマルハナバチをイミダクロプリドにさらした結果、対照群と比較しハチの体が小さくなり、女王バチの誕生数が85%減少すると発表した。 2012年3月29日、米国の科学誌サイエンスはネオニコチノイド系殺虫剤が低用量でもハチには多大な影響を与えるという英仏のチームによる2本の論文を掲載した。 2013年には、金沢大学教授山田敏郎の研究で、ネオニコチノイド系農薬によって蜂群が最終的に消滅することが確認された。実験で使用された農薬は、三井化学アグロの「スタークルメイト」(ジノテフランを10%含有)と住化武田農薬の「ダントツ」(クロチアニジンを16%含有)であった。実験では高濃度から低濃度(100倍に希釈)までの農薬を餌に混ぜて、セイヨウミツバチ1万匹8群に投与したところ、濃度にかかわらず成蜂数が急激に減少し、群は最終的に絶滅した。 山田は、慢性毒性によりミツバチは帰巣能力を失ったのではないかとし、また毒性が強くても従来の有機リン系農薬の場合は、時間経過とともに蜂は回復するとしたうえで、ネオニコチノイド系農薬は「農薬というより農毒に近い」もので、「このまま使い続け、ミツバチがいなくなれば農業だけでなく生態系に大きな影響を与える」と警告した。
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