トンネル
『ギルガメシュ叙事詩』 不死を求めて旅をするギルガメシュは、山の地下を通る何十里もの長いトンネルを抜けて、宝石の実をつけた木々のある美しい楽園に到る。彼はそこからさらに遠くへ踏み込み、不死を得た唯ひとりの人間であるウトナピシュティムのもとに、たどり着く。
『今昔物語集』巻5-31 天竺の人が不思議な牛のあとを追って岩穴に入り、4~5里ほど進むと広い野原があって、美しい花々が咲き果実が実っていた→〔石〕2。
『捜神後記』巻1-5 漁夫が桃林の奥をきわめようとして、谷川をさかのぼる。林の尽きたところに峰があり、山腹に狭い洞穴があって、中はぼんやり光っている。漁夫は洞穴に入り、数十歩進むと突然視界が開け、村里があった→〔異郷訪問〕2。
『雪国』(川端康成) 無為徒食の島村の乗った汽車は、国境の長いトンネルを抜けて雪国に到る→〔異郷訪問〕9。
*トンネルに「長さ」がなければ、「輪」になる。輪をくぐって異郷へ行く→〔輪〕3の『スターゲイト』(エメリッヒ)。
『かいま見た死後の世界』(ムーディ)2「死の体験」 瀕死の「私」に、医者が臨終を宣告する。耳障りな大きな音が聞こえはじめ、長くて暗いトンネルの中を高速度で通り抜けていく感じがする。突然、自分の物理的肉体から抜け出たのがわかる。すでに死去している親戚や友人の霊がそばにおり、「私」は光の生命に出会う。
『地獄穴訪問』(アイヌの昔話) 2人の老人が山へ狩りに行き、獲物を追って洞穴へ入る。洞穴を進むと、向こうにはコタン(=村里)があった。犬が吠えついてきたが、コタンの人々には、2人の姿が見えないようであった。2人が引き返そうとすると、いつのまにか、着物の裾に人がたくさんぶらさがっている。2人はそれらをむしり取り、洞穴から外へ出た。家へ帰ってから、1人は「いいコタンだった」と懐かしがり、まもなく死んだ。もう1人は「いやな村だった」と言って、長生きした。
『御先祖様万歳』(小松左京) 昭和38年(1963)、S県T郡蹴尻村の小さな山の洞窟が、突如として百年前、文久3年(1863)の世界とつながった。昭和の調査団が洞窟を抜けて江戸時代へ行き、侍たちが洞窟を抜けて20世紀を見物にやって来る。政府の要人が江戸城内で老中酒井忠績と会談するとか、諸外国から「洞窟を国連の管理にせよ」と圧力がかかるなど、たいへんな騒ぎになった。しかし1年ほどして、洞窟はふさがってしまった。
*『御先祖様万歳』は「別冊サンデー毎日」1963年10月号に掲載されたが、雑誌発売直後から、「あれはどこであった話なのか?」という問い合わせの手紙が何通も来たという。
★1d.抜けられないトンネル。
『トンネル』(デュレンマット) 24歳の太った男がいた。彼は、何か恐ろしいものが肉体の穴から体内へ入り込むことを恐れ、口に葉巻をくわえ、眼鏡の上にサングラスをかけ、耳に綿栓を詰めていた。日曜の午後、彼はいつもの列車に乗った。列車はトンネル(=山に開けた穴)に入ったが、トンネルはどこまでも続き、列車はどんどん速度を上げ、地球の中心に向かって墜落して行った。
*地獄まで降りるエレベーター→〔エレベーター〕4の『地獄へ下るエレベーター』(ラーゲルクヴィスト)。
『赤毛連盟』(ドイル) 著名な犯罪者ジョン・クレーは、スポールディングという偽名を使って、質屋の店員となる。彼は主人ウィルスンを、赤毛連盟事務所に毎日通わせ(*→〔髪〕8c)、主人が留守の間に仲間を引き入れて、質屋から銀行の地下金庫までトンネルを掘る。ねらいは、金庫の中のナポレオン金貨3万枚だった。ホームズはスポールディングに会った時、ズボンの膝に注目する。何日もの穴掘りの結果、膝頭は、すり切れ、しわだらけで、汚れていた。
★2b.愛人の住む城までトンネルを掘る。
『七賢人物語』「妃の語る第七の物語」 騎士が王妃に恋し、王妃の住む城のすぐ隣に家を建てる。騎士は石工に命じて城壁に秘密の穴を掘らせ、そこを通って王妃のもとへ行き、関係を結ぶ→〔瓜二つ〕4・〔指輪〕2a。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)16 シャトー・ディフ(悪魔島)の暗牢に入れられたファリァ神父は、ベッドの金具でのみを作り、壁を掘り抜いて脱獄をはかる。海に面した城壁に出るはずが計算を間違え、15メートルも堀った穴は、エドモン・ダンテスのいる牢の方へ向いていた〔*その後、ダンテスとファリア神父は力を合わせてトンネルを掘るが、神父は死に、ダンテスはトンネルとは別の方法で脱獄した〕→〔脱走〕2。
★2d.壁のトンネルを、ポスターで隠す。
『ショーシャンクの空に』(ダラボン) 銀行の副頭取アンディは、妻と間男殺しという無実の罪で、終身刑になる。収監されたショーシャンク刑務所では、所長が不正蓄財に励んでいた。経理に詳しいアンディは所長のために、不正をごまかす書類を作成してやる。そのおかげで、アンディが独房の壁に映画女優の大きなポスターを貼っても、所長は咎めなかった。20年近くたったある朝、アンディは独房内から忽然と消えた。ポスターをはがすと、壁にトンネルが掘られていた。
『恩讐の彼方に』(菊池寛) 主殺しの大罪を犯し、盗賊に成り下がった市九郎は、やがて半生を懺悔し、出家して名を「了海」と改め、諸国を行脚する。豊前国山国川の鎖渡しの難所で、毎年何人もの犠牲者の出ることを知り、了海は岩を掘り抜き人馬の通れる道を造ろうとする。村人から嘲られながらも、21年かけてついに洞門は貫通する。
『春雨物語』「捨石丸」 陸奥の長者の雇人・捨石丸は、主殺しの汚名を着せられて江戸へ逃げ、さらに豊前まで赴いて暮らすうち、疔を病んで腰が抜ける。腕力は人一倍あるので、捨石丸は罪滅ぼしに岩山に隧道を掘り抜き、在地の人の行路の難を除こうと志す。長者の子小伝次が仇討ちに来るが、彼も捨石丸に協力する。何年か後に隧道は完成し、まもなく捨石丸は病没して、捨石明神として祀られる。
★4.トンネルに出る幽霊。
『現代民話考』(松谷みよ子)3「偽汽車ほか」第3章の1 鎌倉市の名越トンネルには、夜12時頃におばあさんの幽霊が出る。車で走りぬけようとすると、おばあさんの幽霊も車と一緒に走り、窓に顔がへばりついたり、トンネルの上から血の雨が降ったりする。トンネルを抜けると、おばあさんは消えてしまう。今から5年ほど前にも、「私」の息子の友達の友達が助手席に乗っていた時、おばあさんの顔だけが車と一緒に走った、と聞いた(東京都)。
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