サンズへの復帰とMVP受賞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 14:21 UTC 版)
「スティーブ・ナッシュ」の記事における「サンズへの復帰とMVP受賞」の解説
以前は強豪だったサンズもジェイソン・キッドの移籍で2003-04シーズンは29勝53敗まで成績が落ち込んでいた。ナッシュはその間のエースを務めたステフォン・マーブリーと入れ替わる形でサンズに帰ってきたが、他には目立った補強はなく、2004-05シーズンも厳しいシーズンになることが予想された。 ところがナッシュのサンズ復帰は予想以上の効果をもたらした。前年からサンズの指揮を執り始めたマイク・ダントーニはイタリアのチームで指揮を取っていた時にアップテンポなバスケスタイルで成功を収めており、この戦術はNBAでも成功できると考えていた。そのため、サンズでも機動力を重視したスモールラインアップを敷いて、スリーポイントシュートを多用したラン&ガンオフェンスの構築を求めていた。ダントーニの戦術とナッシュのプレイスタイルは相性が抜群だった。ナッシュはマーベリックス時代もドン・ネルソンが得意とするラン&ガンオフェンスの司令塔を務めていたため、ラン&ガンを展開するのはお手の物であり、さらにナッシュはリーグ屈指のアウトサイドシューターだった。ナッシュは若く身体能力があり、フィニッシュ能力にも優れたチームメイト、アマレ・スタウダマイアー、ショーン・マリオン、ジョー・ジョンソンらのポテンシャルを最大限まで引き出し、サンズのオフェンス力を爆発的に上昇させた。前年のサンズの平均得点は94.2点だったが、ナッシュ一人が加わったこのシーズンのサンズは110.4点。僅か1年で16点以上も向上したのである。ナッシュの移籍はリーグ全体にも影響を及ぼした。当時のNBAはディフェンシブなチーム作りが主流となっており、前年のリーグ全体の平均得点は93.4点だったが、このナッシュのサンズ移籍一つでリーグ全体の平均得点は97.2点に跳ね上がった。サンズの平均110.4得点はリーグでも断トツで、2位のサクラメント・キングス(103.7点)とは約7点もの差をつけており、この数字がいかに衝撃的なものだったかを物語っている。 ダントーニ指揮下でナッシュは持てる力を存分に発揮し、ナッシュ個人の成績も15.5得点11.5アシスト、FG成功率50.2%、3P成功率43.1%と大幅に向上した。特に11.5アシストは2位以下を大きく引き離すリーグ1位となり、初のアシスト王に輝き、さらにオールNBAチームでは初の1stチーム入りを果たしている。リーグトップのオフェンス力とリーグ最高峰の司令塔に率いられたサンズは快進撃を続け、リーグ首位となる62勝20敗を記録。前年の29勝から33勝分を積み上げ、一躍エリートチームの仲間入りを果たした。このシーズンはナッシュと同様にシャキール・オニールが移籍先のマイアミ・ヒートの勝率を大きく向上させており、MVP投票ではナッシュとオニールの一騎討ちとなった。個人成績ではオニールが上だったが、より世間にインパクトを与えたナッシュがMVPを獲得した。ナッシュのMVP受賞はカナダ人選手初であり、外国生まれの選手としてはアキーム・オラジュワンについで2人目、さらにポイントガードとしてはボブ・クージー、マジック・ジョンソンに続く史上3人目であった。また歴代受賞者の中ではドラフト指名時の順位が低かった。さらにダントーニも最優秀コーチに選ばれており、このシーズンのNBAは正にサンズ一色となった。 プレーオフでは1回戦でパウ・ガソルのメンフィス・グリズリーズをスイープで降すと、カンファレンス準決勝で古巣のマーベリックスと対決。勝敗を決した第6戦では試合終盤に16点差を引っ繰り返す活躍を見せ、あわやトリプル・ダブルとなる39点12アシスト9リバウンドをあげてチームを勝利に導いた。ここまで順調に勝ち上がり、ナッシュにとってもサンズにとっても初の優勝が見えてきたが、カンファレンス決勝でスパーズが立ちはだかる。サンズは得点力を上げるかわりにディフェンスを犠牲にしており、平均失点はリーグ最下位の103.3点だったが、試合巧者のスパーズがサンズの脆いディフェンスを突き崩し、サンズはこのシリーズで平均109.2失点を喫し、1勝4敗の完敗を喫した。マーベリックス時代同様、サンズでもこのスパーズがナッシュにとっての厄介の種となる。 充実したシーズンを過ごしたナッシュとサンズだったが、翌2005-06シーズンは一転して試練が訪れる。オフに戦力の流出を止められず、主力のジョー・ジョンソンとクエンティン・リチャードソンがチームを去り、さらにエースセンターのアマレ・スタウダマイアーが膝の故障でシーズンをほぼ全休するという苦難に見舞われた。サンズは明らかな戦力不足で新シーズンの苦戦が予想されたが、ナッシュは18.8得点10.5アシスト、FG成功率51.2%、3P成功率43.9%、FT成功率92.1%の好成績を叩き出し、2年連続のアシスト王に輝くと共にFT成功率ではリーグ1位となった。チームもナッシュの大活躍に、新戦力のラジャ・ベルやボリス・ディアウらはナッシュとプレイすることで大きく才能を伸ばし、またリアンドロ・バルボサもバックアップとしてナッシュの負担の軽減に成功。前年より10勝減となったものの、52勝30敗で2年連続でディビジョン優勝を果たした。ナッシュは自身も会心の成績を残し、戦力不足のチームを支え、さらにチームメイトの能力を引き出したことが高く評価され、2年連続のMVPを受賞(ポイントガードとしてはマジック・ジョンソンにつぐ史上2人目)。プレーオフではロサンゼルス・レイカーズ、ロサンゼルス・クリッパーズを破って2年連続のカンファレンス決勝に進出。再び古巣マーベリックスと対決したが、スタウダマイアー抜きではここまでが限界となり、2勝4敗で破れ、夢のNBAファイナル進出はならなかった。 2年連続のMVP獲得とカンファレンスファイナル出場を果たし、残すはチャンピオンリング獲得のみとなった。チームはより充実さを増し、スタウダマイアーも復帰したことで、2006-07シーズンはファイナル制覇最大のチャンスと言われた。サンズは期待通りの快進撃を続け、ナッシュはさらに個人成績を向上させ、18.6得点11.6アシストのアベレージを残し、3P成功率ではリーグ2位となる47.0%を記録。MVPは元チームメイトであり友人でもあるマーベリックスのダーク・ノヴィツキーに譲ったものの、リーグ1位の勝率だったマーベリックスがプレイオフ1回戦で敗れたことにより、勝率2位だったサンズの優勝の可能性が一気に高まった。しかしカンファレンス準決勝、因縁のスパーズとのシリーズでは多くの災難がナッシュを襲った。第1戦では、スパーズのトニー・パーカーとの接触で鼻から出血、ナッシュは止血が追いつかず、試合終盤の大事な場面にコートに立つことを許されず、結果サンズは大事な初戦を落とした。第2戦ではスタウダマイアーがブルース・ボウエンのプレーに対し、「スパーズはダーティなチーム」と発言したことでシリーズは大荒れの兆候を見せると、第4戦ではナッシュはロバート・オーリーに体当たりに近いファウルを受ける。普段非常に温厚なナッシュもこの時ばかりはオーリーに掴みかかったが、その場面にベンチに居たスタウダマイアーとボリス・ディアウはベンチから離れた。本人達に乱闘に参加する意思があったかは定かではないが、この行為が乱闘を助長する行為として、規定により1試合の出場停止処分を受ける羽目となる。インサイドの主力選手2名を欠いたサンズは第5戦を落とし、そのまま連敗してシリーズ敗退となり、ナッシュのチャンピオンリング獲得の夢は打ち砕かれた。 この頃から「強豪」サンズの歯車が狂いだした。2007-08シーズンにはナッシュの相棒的存在だったショーン・マリオンを放出して大物センター、シャキール・オニールを獲得するが、以前からナッシュとオニールには不仲説が囁かれていたこともあり、好守両面で噛み合わず、期待されたほどの効果はなく、プレーオフでは1回戦でまたもやスパーズに完敗を喫する。そしてオフにはチームの大改革が始まり、マイク・ダントーニはついにヘッドコーチを解任され、新たにテリー・ポーターが就任。オフェンシブなチームからディフェンシブなチームへとチーム方針の180度転換を目指した。シーズン中にもナッシュと苦楽を共にしたラジャ・ベル、ボリス・ディアウらが放出され、チームの姿は変貌していくが、急激な舵取りはチームに混乱をもたらし、2008-09シーズン46勝36敗に終わったサンズはプレーオフ進出すら逃した。ダントーニ体制下では思う存分能力を発揮したナッシュもコーチの交代と戦術の大幅な変更で若干成績を落とし、このシーズンは15.7得点9.7アシストに終わるが、サンズでの優勝を目指すため、オフには契約の2年延長を決めた。 2009-10シーズンは、シーズン開幕からラン&ガンオフェンスが冴え渡り、チームは好調。プレーオフにも返り咲いた。カンファレンスセミファイナルでは因縁のサンアントニオ・スパーズと対戦。これまでスパーズに苦汁をなめられていたが、持ち前のラン&ガンオフェンスでスパーズを翻弄。第3戦では控えのゴラン・ドラギッチやチャニング・フライらが活躍し、第4戦ではナッシュが怪我で途中退場するアクシデントがあったが、スイープでスパーズを下し、2005-06シーズン以来のカンファレンスファイナルに駒を進めた。カンファレンス決勝では、王者ロサンゼルス・レイカーズ相手に善戦するも、2勝4敗で惜敗した。 2010-2011シーズンにはナッシュと苦楽を共にしたスタウダマイアーがFAでサンズを去りニューヨーク・ニックスへ。そしてベンチの補強に12月にはトレードで大物ベテランSGのヴィンス・カーターを獲得。サンズはチームの再建を試みるが、スタウダマイアーの抜けた穴は予想よりもはるかに大きくサンズは勝率を5割を下回り、40勝42敗でシーズンは終了。プレイオフ進出には至らなかった。 2011-2012シーズンもサンズはスタウダマイアー以上の選手を獲得できず、以前のようなピック&ロールが展開できずシーズン開幕からチームは連敗を記録。しかし、ナッシュ自身の成績はとても38歳とは思えない13得点、11アシストで自身8回目のオールスター入りを果たす。38歳以上のオールスター入りは現在、3人しか成し遂げていない。
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