ガソリンカーの一般化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 02:46 UTC 版)
「日本の気動車史」の記事における「ガソリンカーの一般化」の解説
不況期のガソリンカー需要の増加による市場拡大を背景に、1927年の日本車輌製造を皮切りとして大手・中堅・零細車両メーカー各社が、次々とガソリンカー製造に参入するようになる。 しかし、メカニズムやデザインに定見のある時代ではなかっただけに大手製品ですら初期には試行錯誤の連続であり、加えて鉄道車両を製作したことのないメーカーの参入も見られたため、奇妙な設計による失敗作も多かった。 その一方で、新技術の導入も見られ、1927年から1928年にかけて、両側運転台車、ボギー車、半鋼製車体などが実用化されている。最初の両運転台式気動車は、1927年6月梅鉢鉄工場製の南越鉄道ガ1で、これは日本における1,067 mm軌間地方鉄道向けガソリン動車の第1号でもあった。ボギー式ガソリンカーは1928年7月松井車輌製の鞆鉄道キハ3、半鋼製車体は1927年2月日本車輌製造製の井笠鉄道ジ1・2がそれぞれ最初と見られる。 エンジンの搭載位置も当初の車輛端から振動軽減のため床下両軸/両台車間搭載が主流となり、搭載方法も両方の車軸で支える方法から、より振動の少ない釣り掛け式や吊り下げ式へと進歩している。このような技術改良はメーカー側の創意工夫によるところが多く、しかも梅鉢鉄工場や松井車輌といった中小メーカーが先鞭をつける例も少なくなかった。 日本車輌(本店)は、単端式気動車の拡販に成功して一気にシェアを拡大したが、これに対し他の後発メーカーは両運転台式でより大型の車両に開発の重点をおいていた。結果、日本車輛は両運転台式気動車の開発で他社に出遅れ、他メーカーが実用的な両運転台車を生産する中で試行錯誤をすることになる。 しかし日車本店は、1920年代末にはこの状態を脱して実用的な両運転台式ガソリンカーの開発に成功した。輸入大型エンジンで出力を確保するとともに、ボギー式気動車の動力伝達レイアウトについて一つの完成形を確立したことによる。 その基本レイアウトは、機関とクラッチ・変速機のセットを車体吊り下げの機関台枠にまとめてマウントし、逆転機は変速機から別体として台車に搭載、ユニバーサルジョイント付のプロペラシャフトで結んで駆動するというものである。類似構造は他社にも見られたが、日車式の最大の特徴は逆転機の搭載方法にあった。最終減速用ギアボックスと一体構造のベベルギアによる逆転機を台車のトランサム(横梁)に2本の平行リンクで結合することで、推進軸の回転トルクによる逆転機本体の転動を抑止したのである。 日本車輌方式の逆転機搭載(保持)法は、構造的に無理が少なく、信頼性も高かったことから、以後の日本のボギー式気動車において、事実上の標準となった。鉄道省もキハ36900形以降この方式に追従し、戦後キハ90系で1台車2軸駆動を実現するために変速機に逆転機を内装するようになるまで、機械式・液体式の時代を通じて長く標準採用し、この方式は現在も日本の気動車の多くで使用され続けている。日車はこの搭載法の特許を取っており、競合メーカー各社は特許回避のため独自の方式を工夫したが日車特許の搭載法には及ばなかった。 さらに軽量車体や軽量な菱枠式台車(鋼板を切断して製作した細い部材を組み立てて構成されるペデスタル支持式軸ばね台車。最小限の部材で構成されており軽量となる)などの開発も進めた。特に菱枠式台車は、日本車輌製造での原型は大正時代中期に簸上鉄道向け客車に装備された「野上式弾機装置三号型台車」にまで遡るが、気動車用として成功した1930年以降、1950年代まで日本の気動車用台車の主流となった。この結果、日本車輌製造は、1930年頃から比較的大型で安定した性能の気動車を生産することが可能となり、以後戦前を通じて日本の気動車業界をリードし続けた。1931年には江若鉄道向けとして中型電車に匹敵する18 m級120人乗りガソリンカー・C4形を開発している。 そのため1930年代以降、技術力や営業力に劣る中堅・零細メーカーは次々と撤退・淘汰され、日本車輛を筆頭とする大手メーカーを中心に実用性を持った気動車が製造されるようになった。戦前の日本における私鉄気動車の両数は、1935年頃には全国で400両を超え、湯口徹によるとのべ653輌(客車等からの改造車、未認可車を含み、移籍による重複は除く)に達したとされる。その大半はウォーケシャやブダなどの大型自動車・定置動力用、あるいは量産自動車のフォードなど、アメリカを中心とする海外メーカー製のガソリンエンジンを搭載していた。
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