都市遺産
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「ニューアーバンアジェンダ」の記事における「都市遺産」の解説
1998年にユネスコのカンファレンス「21世紀の建築と都市」で初めて都市遺産という言葉が登場し、2005年にはカンファレンス「世界遺産と現代建築 - 歴史的都市景観の管理」において高層建築物景観について研究し、「ウィーン覚書」で現代建築と現代都市の景観に言及。そして2011年に採択された「歴史的都市景観に関する勧告」で、「歴史的及び現代的な建築環境、地上及び地下のインフラ、空地及び庭園、土地利用の形態及び空間的構成、知覚及び視覚的関係並びに都市構造を構成するその他のあらゆる要素が含まれる」と定義され、「情報技術及び持続可能な計画、設計及び建設上の実行といった技術革新がより広範に利用可能となれば、都市地域が改善され、もって生活の質が高まる」と遺産でありながら発展に伴う変貌を認め、「新たな都市の要素とされるもの(例えば、建設された都市の枠組み、開放空間(通り、公共空間)、都市のインフラ(物質的なネットワーク及び設備)など)」も遺産に含めることを示唆した。 一方、世界遺産では古都や歴史地区のような歴史的経緯がある都市はその景観を保持することが求められるが、経済活動を伴い常に変貌を遂げる現代都市の景観を固定することは不可能であり、その更新する様子は流動景観(Flowing landscape)と捉えることができ、現在進行形で歴史が造り続けられる物証となる。そうした現代都市を世界遺産的に扱い評価するのであれば、登録基準(クライテリア)のi.人間の創造的才能を表す傑作、ⅱ.建築・科学技術・記念碑・都市計画・景観設計の発展に重要な影響を与えた、ⅳ.歴史上の重要な段階を物語る建築物、が適用できる。しかし、必要に応じ改修や部材交換され、スクラップアンドビルドが必然的な現代建築は真正性の奈良文書(英語版)での文化資材の真正性(英語版)に欠けることになる。 こうした問題からユネスコはまだ都市遺産について具体的な内容を公表していないが、ユネスコの調査に協力したオランダの文化遺産庁(英語版)・ロッテルダム大学・住宅都市開発研究所(英語版)による研究からその一端が垣間見える。都市遺産では個々の建築物より、都市全体の景観(ランドスケープ・アーバニズム)や都市形態などを重視することになる。その都市景観は純然たる現代都市のみならず、歴史的背景がある都市の一区画に超高層ビルなどが聳えるような混在した景観でも対象になりえ、その具体例としてモロッコの首都ラバトが「近代的首都と歴史的都市をあわせもつ遺産」として世界遺産に登録されている。そこでは空間的不整合(英語版)がない景観調和としてゾーニングや景観接続(英語版)が重要で、都市計画や成長管理(英語版)が問われる。また優れた都市機能(機能主義)があること、都市公園や都市生態系(英語版)の充実など都市環境・社会的環境(英語版)への配慮も重視される。 求められる条件としては、「都市が社会へ利益をもたらしていること(経済的価値)」、「都市自らが遺産を維持するための資金が調達できること」、「遺産科学(英語版)に基づく都市自身による文化遺産の管理(英語版)と文化遺産の保存修復(英語版)および持続可能な保全(英語版)ができること」、「行政による遺産としての都市管理ができること」、「都市内の民間セクターによる遺産としての文化資源の管理(英語版)と有効活用(都市観光など遺産の商品化や遺産の資源利用)ができること」、「都市内に社会的結束や社会的包摂があること」、「遺産としての都市が住民のアイデンティティに影響を与えていること」、「都市に再生可能エネルギーやコジェネレーションなどのエネルギー効率対策が導入されていること」、「都市災害に対する都市の捜査と救助(英語版)があること」など。 なお都市は人工的なものであることから、自然環境との融和は求められない。人間居住科学に基づく造園などでの自然と人間の共生があれば充分。 ユネスコは都市遺産の参考事例として京都を引き合いに出している。しばしば都市化が景観破壊として扱われる京都であるが、都市遺産の観点からすると建築規制や住み分けができており現代社会に適合していると捉えられ、2018年に京都市が発表した「持続可能な都市文明の構築を目指す京都宣言」は新たな指針になりうると注目される。 ユネスコが採用した文化的景観の概念を、日本では重要文化的景観として将来的に工業地帯やニュータウン・団地にまで適用範囲を拡大する試案があり、都市景観が対象となれば都市遺産の法的保護根拠(完全性)にもなりうる。 日本では自治体や大学などが都市内における文化財をもって都市遺産と称している例もあるが、ユネスコが目指す制度とは主旨が異なる。
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