身売り
『仮名手本忠臣蔵』3~6段目 早野勘平はお軽と逢い引きしていたため、主君塩冶判官の刃傷を阻止できず、武士の面目をつぶす。やむなく勘平は、京都山崎のお軽の実家に身を寄せて、猟師となる。お軽は、勘平が再び武士となり仇討ちに参加できるよう、祇園一力茶屋に身売りして、百両の金を作る。しかしその半金50両を受け取って帰るお軽の父与市兵衛は、夜道で斧定九郎に殺され、50両を奪われる→〔財布〕1。
*『ヴィヨンの妻』(太宰治)の「私」は、小料理屋・椿屋で働いて、夫の借金を返済しようと考える(*→〔夫〕1a)。椿屋の亭主は「奥さん、とんだお軽だね」と言い、「私」たちは声を合わせて笑う。
『文七元結』(落語) 佐官長兵衛は博打に夢中になり、家計は火の車で年が越せない。1人娘お久が見かねて、吉原の佐野槌(または角海老)へ行き、身売りを申し出る。感心した佐野槌の女将は、お久を女中として預かり、長兵衛に説教して50両を貸す。しかし長兵衛は帰り道で、身投げする男を見て、50両を与えてしまう→〔身投げ〕1b。
『もう半分』(落語) 天秤棒をかついで野菜を売り歩く老人がいる。娘が、老父にちゃんとした八百屋の店を構えさせてやりたいと思い、その資金を作るために吉原に身売りして50両を得る。しかし老人は、行きつけの居酒屋に50両入りの財布を忘れ、それを居酒屋夫婦が自分たちのものにしてしまう→〔誕生〕7。
『柳田格之進』(落語) 浪人・柳田格之進は、碁が縁で、質両替商・萬屋源兵衛と知り合い、懇意にしていた。8月15夜の晩、源兵衛宅で50両が紛失し、番頭・徳兵衛は柳田を疑った。柳田は、あらぬ疑いをかけられたことに憤り、切腹しようとする。柳田の娘・19歳のお絹がそれを止め、吉原に身売りして50両を作る→〔碁〕3a。
『有難う』(川端康成) 晩秋。定期乗合自動車に乗って、15里離れた町の遊郭へ、母親が娘を売りに行く。運転手は、馬車や荷車を追い越す度に「ありがとう」と声をかける、評判の良い運転手だった。娘は運転手のことが好きになり、母親は運転手に頼んで、娘と一夜を過ごしてもらう。翌朝。娘に泣かれ、運転手に叱られて、母親は娘を売るのを春まで待つことにする。
★3.身売りする娘を買い戻す。
『血槍富士』(内田吐夢) 貧しい百姓藤三郎は5年前、娘おしなを女郎屋へ売った。以来、藤三郎は生野の銀山で命がけで働き、身請けに必要な30両を作って、女郎屋を訪れる。しかし「おしなは2年前に死んだ」と聞かされ、藤三郎は嘆き悲しむ。折りしも、また新たに村娘が1人、30両で売られて来た。藤三郎は自分の30両を女郎屋の亭主に叩きつけ、村娘を買い戻して親元へ帰してやる。
『自然居士』(能) 亡父母追善のため、少女が人買いに身を売って小袖に替え、それを施物として自然居士に供養を請う。自然居士は人買いを追い、「少女を解放せよ」と要求する。人買いは、少女を返す条件に自然居士に様々な芸をさせ、なぶりものにしようとする。自然居士はそれを承知で、曲舞・ささら・羯鼓など芸を尽くして少女を救う。
『まつら長者』(説経)初段~4段目 母と2人貧しく暮らす16歳のさよ姫は、亡父京極殿の十三年忌の費用を作るため、奥州から上京したごんが太夫に身を売り、陸奥の安達の郡へ下る。「養子にして大名家へ奉公に出す」と、姫は聞かされたが、実は、大蛇のいけにえにされるのであった。
佐渡おけさの伝説 猫好きの老婆が、生活に困窮する。長年飼われていた老猫が美しい娘に変身し、「江戸から人買いが来ているから、私を売り、その身のしろ金で楽に暮らして下さい」と、老婆に言う。やがて江戸の深川に「おけさ」と名乗る遊女が現れ、彼女の歌う「おけさ節」が評判になり、流行した(新潟県両津市・佐渡郡)〔*後に1人の船頭が、おけさの正体を猫と知り、それを口外したので、おけさに取り殺された〕。
『大般涅槃経』(40巻本「光明遍照高貴徳王菩薩品」) 貧しい男が自分の身体を金5枚で売り、その金で仏陀への布施物を買って届ける。男の身体を買った人は悪性の病気で、薬として人肉150グラムを毎日食べねばならない。男は毎日、自分の肉を切って病人に与えるが、仏陀から教わった詩偈を念じていたので、痛みを感じなかった。病人は人肉を1ヵ月間食べて治癒した。男の身体の肉を切り取った傷も、跡形なく消えた。
★7.女児を売る。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)6 迷亭の話。「明治の初年頃まで静岡では、女の子を唐茄子のように籠へ入れて、天秤棒で担いで売り歩く商売があった。僕が6つくらいの時、おやじと散歩していると、人売りが『仕舞物だから安くまけておきます。買っておくんなさい』と言う。籠の中には、前に1人、後ろに1人、2歳ばかりの女の子が入れてある・・・・」。この話を聞いて寒月は、「この頃の女は、学校の行き帰りや合奏会や慈善会や園遊会で、『ちょいと買ってちょうだいな、あらおいや?』などと、自分で自分を売りに歩いています」と言った。
品詞の分類
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