製作と維持管理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/22 08:21 UTC 版)
英国 Aerotrope 社が構造設計を行い、高度な溶接技術で知られる Performance Structures, Inc.(PSI)社が製作を担当した。まず PSI 社は縮小模型を作成。カプーアはこの時高密度ポリウレタンフォームを用い、この素材が内部支持部材の設計を含めた最終的な構造デザインまで利用されている。当初 PSI 社は製作と組立てをカリフォルニア州オークランドで行い、パナマ運河とセントローレンス海路経由の水上輸送によってシカゴまで運ぶ計画を立てていたが、ミレニアム・パーク側はリスクが大きいと判断してこれを却下、最終的にはパネルを個別に陸送して現地で組み立てる方針がとられた。この最終組み立て作業は MTH Industries 社が担当することとなった。 製作過程では作品の重量が問題となった。要求される外観の実現に必要な部材の厚みを予測することは困難であり、当初54.4トンと見積もられていた総重量は最終的にその二倍近くになっている。この重量の増大はエンジニアらに構造設計の見直しを迫り、またクラウド・ゲートが設置されるパーク・グリル屋上の架構もこれに耐える設計とする必要が生じた。北側グラント・パークの駐車場とメトラの線路を隔て、さらにレストランの裏手に連なる擁壁が作品の荷重を負担しているが、この擁壁と駐車場の基礎部分には作品の組み立てに先立って構造補強が施されることとなった。またさらなる補強として、クラウド・ゲートの内部構造体には広場下部の水平部材が緊結されている。 クラウド・ゲートの磨かれたシェル内部には作品を保持するための鋼鉄製の構造体が設けられている。2004年2月、最初の構造部材となる二つのステンレス鋼製のリングが現地に設置され、続けてこれらを結ぶようにパイプから構成されたトラスが形成された。これらのトラスは、製作段階で荷重が超過する箇所を除き予期せぬシェルの変形を防止するもので、完成した作品内部には斜材はない。さらに熱で膨張・収縮する作品に追随するような枠状の構造も設置され、作品を支える二つのリングは互いに独立に、また外装シェルはこれらのリングから独立に動く構成にされている。 内部構造の完成後、外装シェルの製作が行なわれた。シェルは厚さ1.0センチメートル、重量450 - 910キログラムのステンレス鋼パネル168枚で構成される。パネルはコンピュータによる三次元モデリングを用いて設計され、板材の成形はイングリッシュ・ホイール(板金加工道具)で行なわれたが、この時にも三次元スキャナーなどが使用されている。パネルの内側には剛性を増すために補強材が溶接されている。内部構造部材の全部およびパネルの三分の一はオークランドで製作された。98パーセントの磨き仕上げを施された板材は保護フィルムで覆った上で陸路シカゴへと輸送され、現地で一体に溶接された。溶接距離は全体で744メートルに及んでいる。板材は組み立て時の調整がまったく不要なほど高精度に製作されており、伝統的な溶接法ではなくレーザーとアーク放電を併用するレーザー・アークハイブリッド溶接によって溶接された。 2004年7月に開始されたシェルの製作段階では現場は大きなテントで覆われ、外からその様子を伺うことはできなくなった。製作は板材が内部の支持材に接合するオンパロス付近から始められ、作品の内部から外装の側へと順次進められた。このため、作品下部が完成した際にはソンブレロのような外観を呈している。 クラウド・ゲートのシェルは2004年7月15日のミレニアム・パークのグランド・オープンを目標にして製作されたが、作業の遅延のためこの時点になってもまだ研磨されておらず未完成であった。7月8日にはオープニングのイベントの一環として覆いが外されたが、カプーアは未完成の作品を公開することに前向きではなかった。さらに、当初は7月24日までの期間はテントを再び設置した中で研磨作業を行う予定だったが、続けての鑑賞を望む声が多かったため、パーク側は数ヶ月間そのままの状態で公開することを決定した。テントが再び設けられたのは、溶接の継ぎ目を研磨する作業が行われた2005年1月のことであった。継ぎ目の切削・平滑化・研磨作業の際には作品周囲に六階分の高さの足場が設置され、手の届きにくい箇所の作業では登山用の装備なども使用されている。2005年8月には上部・側面部の作業が終了してテントが取り除かれ、10月3日時点で覆われていたのは最後の研磨作業が行われたオンパロス部分のみとなっている。 鏡のような表面仕上げを実現するため、クラウド・ゲートの溶接部分は以下に示す五段階の作業を経ている。 段階工程器具やすりの種別(単位はグリット)目的1 粗削り(Rough Cut) 電動グラインダー(2.3 kg, 110 mm) 40 溶接継ぎ目の除去 2 成形初期(Initial Contour) 空気圧式ベルトサンダー(6.8 kg, 51 mm) 80, 100, 120 溶接箇所の成形 3 成形(Sculpting) 空気圧式ベルトサンダー(4.5 kg, 25 mm) 80, 120, 240, 400 溶接箇所の平滑化 4 仕上げ(Refining) ダブル・アクション・サンダー 400, 600, 800 前段階で残っている傷の除去 5 研磨(Polishing) 電動バフ(250 mm) べんがら(4.5 kg) 鏡面仕上げのための研磨およびバフがけ 2005年8月28日に作業は完了、2006年5月15日に公式に披露された。作品の費用は当初の見積では600万ドルだったが、2004年のパークオープン時には1,150万ドル、2006年の最終的な数字は2,300万ドルとなっている。公的な予算は使われておらず、全額が個人や企業の寄付によって賄われた。 カプーアとの契約には作品の将来1,000年間が見込まれている。クラウド・ゲート下部1.8メートル分は一日二回手作業で清掃され、全体は一年に二回、150リットルの洗剤を用いて洗浄されている。日常の清掃には一般的なガラス用洗剤と同種の薬剤、年二回の全体作業には洗濯洗剤の一種(Tide)が使用されている。こうした定期的な保守作業に加え、悪戯の被害からの回復も随時必要とされている。深刻なものとしては2009年2月に北西側面に個人名が彫り込まれた例があり、この時には製作時に研磨作業を担当した企業によって回復作業が行われた。
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