艦体形状
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/03 05:51 UTC 版)
大和型戦艦の艦型の母体となったのはYourkevitch船型である。艦型試験を繰り返しこれを軍令部の要求した戦艦向きに仕立て上げる事で大和型の艦体が計画された。竜骨下端から最上甲板舷側までの深さは18.965mで、10層の甲板が重なっている。構造は、最上甲板、上甲板、中甲板、下甲板、最下甲板、第一船倉甲板、第二船倉甲板、船倉甲板、艦底(二重底)となっている。牧野茂(大和型設計者の一人)は「大和型戦艦は一見平甲板に見えるが、実質的には最上型重巡洋艦の形状といえなくもない。大和の中央切断面は最上と非常に似ている」と評した。 球状艦首 日本艦艇では翔鶴型航空母艦に次いで球状艦首(バルバス・バウ)を採用した。これは、船体が水を押しのける時の波と球状艦首が作った波が相互干渉して、造波抵抗を減衰させる効果を持つ。これを採用した事で、有効馬力で速力27ノット時で8.2%程度の抵抗を減らし、排水量換算で約300t、水線長で3m艦体を短くする効果を得た。これは、軸馬力に換算すると11,000馬力出力が大きい機関を搭載したのと同じ効果をもたらした。さらに、シャフトブラケットの船体取付角度、ビルジキールの船体取付位置と角度を検討した結果、バルバス・バウの効果と併せて15,820馬力の節約となった。これは排水量に換算すると1,900トンの節約となり、大型駆逐艦1隻の排水量に匹敵した。球状艦首は25mmの甲板の二重構造で、甲板を三次元的に鍛造で曲げる事で一体に作られている。 同時期に設計された翔鶴型航空母艦のものと大きさがかなり異なるが、これは翔鶴型では34ノット、大和型では27ノットで造波抵抗が最小になるよう最適化されているためである。 なお、球状艦首の艦底には、潜水艦対策で水中ソナーが設けられていた。これは30個の水中マイクを長径約4m、短径約3mの長円形に配列したもので、その中には海水が満たされていた。性能としては、大和が全力航行中に主砲射撃試験を行った際に、30,000 - 40,000mで砲弾が水面に衝突した時の音を探知できたという。ただし、艦内各部から発生する騒音により、聞き取りにくくなることも多く、特に主砲塔回転時の水圧機の騒音は妨げになったと言われている。また、この水中聴音機装備により、水線下の艦首部よりの艦底部が「蛇が蛙を飲み込んだような形状」となったことで、最高速力が0.3ノット程度低下したとされている。 主副舵の構成 通常の2枚舵は並行に設置されている。従来の日本戦艦も長門型戦艦に至るまでこの方式である。これではドイツ戦艦ビスマルクのように魚雷1本を被雷しても操舵不能に陥る可能性がある。これを避けるため、当初は舵の1枚を艦首に装備する案(実験結果は不良)もあったが、結局艦の中心線上に前後に15mの間隔を開けて主舵と副舵を設置した。金剛型などでも並列2枚舵の前例はある。原勝洋は、舵の形状が英巡洋戦艦フッドに極似していたと指摘している。 両舵を同時に使用した成績は良好であった。しかし、副舵だけだと一応旋回は可能だが、大和型の惰力は予想以上に大きく、当舵が全く利かないので艦を直進に戻すことができず、操艦は不能であった。艦首部に引き込み式の平衡舵を追加装備する対応策が考えられたが、戦局悪化と検証不足のために工事は行われなかった。海軍技術研究所造船研究部は戦艦用ダブルスケグの研究も行なっていたが、こちらも大和型には装備されなかった。沖縄特攻時には、巨大な応急舵を搭載していた。能村副長によれば、沖縄特攻時の大和は戦闘中に操舵装置が故障したため、舵取機室からの応急操舵に頼っていたという。舵取機室が魚雷命中で全滅すると、大和は左旋回しか出来なくなったとされる。このように通常は電源稼動だが、電源喪失時には蓄電池、人力での操舵も可能である。 運動性能 艦船の基本的な操縦性能は次の3つの観点から評価されることが多い。追従性:操舵に対する船の回頭の容易さ(タイムラグと考えてよい) 旋回性:定常旋回の円運動が小さい円を描き早く旋回するか 針路安定性:少しの間当て舵をとらなくても舵中央のままで船が直進する「すわりの良い船」か 大和型戦艦は大きな排水量に対し、相対的に短い全長、広い船幅という肥大船型である。旋回性は列強の戦艦中最良の部類に属するが、舵に関する研究が十分でなかった為、追従性に関しては最低レベルであり、肥大船型故に針路安定性も本質的には良い方ではない。「大和型はずんぐりした船体からは想像もつかないほど良好な運動性能を発揮した」というのはもっぱらこの旋回性について述べられた物である。海軍では旋回性能の標準を「旋回直径÷艦の水線長」で現している。この数値には縦と横で若干の違いがあり、横の旋回性能標準は戦艦3、大型巡洋艦4、軽巡洋艦5、駆逐艦6、縦で戦艦3、大型巡洋艦3.5、軽巡洋艦4、駆逐艦4.5とされていた。大和型の旋回性能は、横で2.43、縦で2.23と優れたものだった(一般に、同一排水量の場合、細長い船体のほうが旋回性能は悪化するとされている)。 また、旋回半径自体も他の戦艦より優れていた。大和型の旋回直径は26ノットで横640m、縦589m(横2.43、縦2.23)である。長門型戦艦は横530m、縦631m(横2.36、縦2.81)、金剛型戦艦は横826m、縦871m(横3.7、縦3.91)だから、船体の大きさを考えるなら、非常にコンパクトな旋回性能を持っていた。さらに、旋回時の船体の傾きも大和型9度、長門型10.5度、金剛型11.5度であり、安定性も優れていた。
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