第一審・前橋地裁
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「群馬女子高生誘拐殺人事件」の記事における「第一審・前橋地裁」の解説
2002年10月21日に前橋地方裁判所(長谷川憲一裁判長)で被告人Sの初公判が開かれ、被告人Sは起訴事実を全面的に認めた。 2002年12月5日の第2回公判ではSが本事件前に起こした前妻の連れ子に対する傷害(児童虐待)事件・強盗事件について罪状認否が行われ、被告人Sは両事件についても起訴事実を認めた。また検察官は同日の公判で被害者Aの同級生たちが書いた作文265人分を情状証拠として提出した。 2003年(平成15年)1月27日に開かれた第3回公判では被告人質問が行われ、被告人Sは逮捕後の調べで「犯罪をするなら完全犯罪できる」と供述していた点を検察官から尋ねられ「真意は『自分はずるい男だから、完全犯罪できる状況でないと罪は犯さない』という意味だ」と述べたほか、弁護人からの質問に対し「学校への立てこもり・女子高生の人質計画を立て行動したのは思い付きだ」とも証言した。また同日の公判で検察官は被害者Aの遺族・友人らが被告人Sへの厳罰を求めて集めた署名約76,000人分を提出したが、証拠採用はされなかった。 2003年3月11日の第4回公判では被告人質問・証人尋問が行われ、検察側の証人として出廷した被害者Aの父親は「犯人Sは反省しているようには見えないが、犯人への怒り以上に娘を亡くした悲しみが大きい」と証言した。同日の公判で弁護人は「被告人Sの人格問題が先天的か否かなどを判断する必要がある」として被告人Sの精神鑑定を申請したが、同年5月8日の第5回公判で前橋地裁(久我泰博裁判長)は鑑定申請を却下した。同公判では被害者Aの母親が検察側の証人として出廷し「事件後、心に穴が開いたようで何も感じなくなった。娘を返してほしいし、Sを死刑にしてほしい」と意見陳述した。 2003年6月19日の第7回公判(論告求刑前最後の公判)では被告人質問が行われ、被告人Sは検察官から「命を奪ったことをどう思うか?」と質問され「事件のことを考えると普通でいられなくなる」と供述したが、吉井隆平裁判官から「本当の反省は自分と向き合うことだ。中途半端なら反省とは言えない」と諭された。また久我裁判長は「最後まで(被害者を)帰さないつもりだったのか?」と質問すると、Sは「とりあえず誘拐しようと思った。今は後悔している」と述べた。 2003年7月29日に前橋地裁(久我泰博裁判長)で論告求刑公判が開かれ、前橋地検の検察官は「人間性の欠片も感じられない凶悪犯罪で矯正は不可能」として被告人Sに死刑を求刑した。群馬県内の刑事裁判における死刑求刑は1994年3月に安中市で交際相手の女性ら3人を殺害した元水道設備業者(当時既に死刑確定済み)以来、約9年ぶりだった。一方、弁護人は最終弁論で「被告人Sは成長段階で思いやりを欠き、自己抑制・忍耐力のない人格が形成された。その生活環境を放置してきた親族や社会・教育にも責任があるのではないか」などと述べた。 2003年10月9日に第一審・判決公判が開かれ、前橋地裁(久我泰博裁判長)は被告人Sに無期懲役判決を言い渡した。前橋地裁は「犯行は冷酷・残忍かつ凶悪でその動機に酌むべき余地はなく、被害者の無念・遺族の処罰感情および社会に与えた衝撃などを鑑みれば被告人Sの刑事責任は極めて重大だ」と指摘したが、その一方で被告人Sに有利な情状として「殺人は被害者が逃走しようとしたことに動揺した被告人Sが咄嗟にそれを阻止しようとした偶発的なもので計画的殺人ではない。略取・監禁や強姦は計画的犯行ではあるが綿密な計画によるものではなく、身代金要求も被害者を殺害した後で思いついたものだ。被告人Sは捜査段階の途中から素直に事実関係を認め、被害者遺族への謝罪の言葉を述べたり、捜査段階の悪態を後悔するような発言もしており、現時点では被害者に対する謝罪の念や、遺族の気持ちに思いを致し真に反省悔悟する気持ちなどが芽生えてきていることも窺われる」とも指摘し、「極刑が真にやむを得ないと言うにはいまだ隔たりがある」と結論付けた。久我裁判長は判決宣告後、被告人Sに「周りの人に『死刑にしなくて良かった』と言ってもらえる人間になってほしい」と説諭したほか、被告人Sの退廷後には被害者Aの両親に対し「納得がいかないと思うが、『犯人が人を殺すのは簡単だが、国家が死刑という判断をするのは大変だ』ということだ」と語りかけた。 前橋地検は「量刑は軽すぎて不当だ」と主張して2003年10月16日付で東京高等裁判所へ控訴したほか、被告人Sも同月21日までに東京高裁へ控訴した。検察官の控訴趣意書論旨は「被告人Sの罪責は重大で死刑をもって臨むことが真にやむを得ない事案であり、無期懲役の量刑は軽すぎて不当」というもので、弁護人の控訴趣意書論旨は「反省の萌芽が芽生えている被告人に対しては生涯にわたり被害者の冥福を祈らせるのが適切で、無期懲役の量刑は維持されるべきだ」というもの(実質的に検察官の控訴趣意に対する答弁)だった。
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