第一審・千葉地裁
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「館山市一家4人放火殺人事件」の記事における「第一審・千葉地裁」の解説
千葉地方裁判所(土屋靖之裁判長)で開かれた公判では千葉地検が「未必の故意」による殺人罪の成立を主張した一方、被告人Tとその弁護人は放火の事実こそ認めたが殺意は否認したため、殺人罪についての「未必の故意」の有無が争点となった。 2004年4月22日に初公判が開かれ、同日は起訴状朗読・起訴事件7件中6件の罪状認否が行われた。同日までに計7件の事件で起訴されていた被告人Tは罪状認否で一家4人が焼死した本事件を含め6件について放火の起訴事実を認めたが、本事件については「人が住んでいることを認識しており、強い西風が吹いていたから『住人が逃げ遅れて死ぬかもしれない』と思っていた」などという捜査段階の供述から一転し、「ごみ・新聞紙などを燃やそうと思ったが率先して家を燃やそうとしたわけではない。『人が寝ているかな?』とは思ったが殺意はなく、死なせるつもりもなかった」と述べ、殺人罪について否認した。また、最後に起訴された2003年9月の現住建造物等放火事件については「起訴後間もないため認否は留保する」と述べ、同事件の罪状認否および起訴事実の詳細に言及する検察官の冒頭陳述は次回公判(2004年6月15日以降)へ持ち越される格好となった。弁護人も被告人Tと同じく「住人が就寝していた可能性は認識していたが未必の故意はなかった」と主張し、千葉地検と対立する姿勢を明らかにした。同日の公判を傍聴していた被害者遺族は捜査段階から一転して被告人Tが殺人罪を否認したことに対し「1998年2月の『クリフサイド』放火事件で1人を死亡させているのだから再び放火を行えば死者が出ることは予見できたはずだ。それにも拘らず被告人Tは強風下で再び放火を行っており、今なお殺人罪を否認しているから反省の色がない」と怒りを露わにした。 2004年6月15日に第2回公判が開かれ、検察官・弁護人の双方が冒頭陳述を行った。検察官は「被告人Tは『クリフサイド』放火事件で1人が死亡したことを知っており、2003年の事件でも住人が就寝していることを認識していた。仮に放火すれば住人が死亡する危険性があったことは身をもってわかっていながら『死んでも構わない』と思いながら放火した」と指摘して「未必の故意」による殺人罪の成立を主張した。被告人Tは起訴事実7件すべての事件について放火の事実を認めたが、弁護人は冒頭陳述で「被告人Tはごみなどに火を点けて燃やすことで快感を覚えていたが、その関心はあくまで火がライターから物へ燃え移ることで、その後の結果には無関心だった。『クリフサイド』火災でも火がゴミに燃え移る光景が見たかっただけで、一家4人が焼死した本事件でも新聞紙・紙くずなどに点けた火が建物へ燃え広がる可能性は認識していたが『(住人が)死んでも構わない』などとは考えておらず、殺意はなかった」と主張して殺人罪成立を否認した。 2004年12月14日に論告求刑公判が開かれて結審し、千葉地検の検察官は被告人Tに死刑を求刑した。その主張要旨は以下の通り。 「被告人Tは家人の存在を認識しており『家屋に火が燃え移って家人が死亡しても構わない』と思いながら放火した。未必の故意を認めた捜査段階の供述は合理的で信用できる」 「灼熱地獄の中で死亡した被害者の苦痛は想像を絶し遺族の処罰感情も峻烈だ。被告人Tの反社会性は顕著で更生の余地はない」 「殺意は確定的ではなかったが、犯行の悪質性では確定的な殺意に基づく犯行と遜色なく、自己の満足・快感のため繰り返し放火したことは身勝手で酌量の余地はない」 一方で弁護人は同日の最終弁論で「被告人Tは新聞紙などに点火することだけを考えて放火しており、建物を全焼させたり人を死なせることまで考えてはおらず殺人罪は成立しない。放火はストレスに由来するもので更生は可能だ」と反論して死刑回避を求めた。また被告人Tは最終意見陳述で「被害者・遺族に大変申し訳ないと感じる。一生をかけて罪を償いたい」と発言したが、公判を傍聴した被害者遺族は「今までの公判では被告人Tから反省の態度は感じられない。本当に罪を償う心を持っているなら犯行前に気付くはずだ」「謝罪の言葉はまったく心に響かない。死刑以外に考えられない」と被告人Tの態度・発言を非難した。 2005年(平成17年)2月21日に判決公判が開かれ、千葉地裁(土屋靖之裁判長)は千葉地検の求刑通り被告人Tに死刑判決を言い渡した。千葉地裁は判決理由で「建物の外観・犯行時刻から『住民が寝ており火災で死亡するかもしれない』と認識しながらあえて放火した」と事実認定し、「被告人Tの『人が死ぬとは思わなかった』という公判における供述は不自然・不合理で、初公判における『人が寝ているかなと思った』という供述以外は信用できない。未必の故意は優に認めることができる」と殺意を認めた。その上で「勤務先・経済的苦境への不満・鬱憤を晴らすため深夜の市街地で無差別の連続放火に及び、まったく落ち度のない尊い人命を奪った。危険かつ凶悪な犯行で矯正は非常に困難であり、再犯の恐れも否定できず極刑はやむを得ない」と量刑理由を説明した。 被告人Tの弁護人は「結果の重大性から逆算して未必の故意を認識してしまった判決で、放火と殺人の線引きが明らかにされていない」と主張し、判決を不服として同日中に東京高等裁判所へ控訴した。
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