現代のテーマと発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/25 16:17 UTC 版)
1990年代と2000年代の幾何学的群論の注目すべきテーマと発展には、次のものがある。 群の擬等長の性質を研究するためのグロモフのプログラム。 この分野で特に影響力のある広大なテーマは、大尺度(large scale)な幾何学によって有限生成群を分類するグロモフのプログラム である。正確には、これは語距離(英語版)を入れた有限生成群の擬等長(英語版)類を分類することを意味する。このプログラムには以下が含まれる。 擬等長(英語版)の下で不変である性質の研究。有限生成群のこのような性質の例には、次のものがある。有限生成群の増大度(英語版)。有限表示群の等周関数(英語版)またはデーン関数(英語版)。群のエンドの数。 群の双曲性(英語版)。双曲群のグロモフ境界(英語版)の同相型; 有限生成群の漸近錐(英語版)(asymptotic cone)(たとえば 参照)。有限生成群の従順性 ;実質的に(en:virtually)アーベルである(つまり、有限位数のアーベル部分群をもつ)こと;実質的にべき零であること。実質的に自由であること。有限表示できること。語問題(英語版)が解ける有限表示群であること。など 擬等長不変量を用いて、群に関する代数的結果を証明する定理。例えば、グロモフの多項式増大定理(英語版); スターリングスのエンド定理; モストウの剛性定理。 擬等長剛性定理。つまり、与えられた群または距離空間に対して、擬等長であるすべての群を代数的に分類するもの。この方向性は、ランク1格子の擬等長剛性に関するシュワルツ(en:Richard Schwartz (mathematician))の研究 と、バウムスラッグ・ソリター群(英語版)の擬等長剛性に関するベンソン・ファーブ(英語版)とリー・モーシャーの研究により始められた。 語双曲群(英語版)と相対双曲群(英語版)の理論。ここで特に重要な発展は、1990年代のジル・セラ(英語版)の研究により、語双曲群の同型問題が解かれたことである 相対双曲群の概念は、もともと1987年にグロモフによって導入され 1990年代にはファーブ とブライアン・ボウディッチ(英語版) によって洗練された。相対双曲群の研究は2000年代になって注目を浴びるようになった。 数理論理学との相互作用と自由群の一階理論の研究。特に、セラ やオルガ・ハランポビッチ(英語版)、アレクセイ・ミアスニコフ の研究により、有名なタルスキ予想(en:free group)に重要な進展があった。極限群(limit group)の研究や、非可換代数幾何学の言語や道具の導入が進んだ。 計算機科学、複雑性理論、形式言語の理論との相互作用。このテーマは、オートマティック群(英語版) の理論の発展によって例証されている。この概念は、有限生成群の積をとる操作に特定の幾何学的・言語論的条件を課すものである。 有限表示群の等周不等式、デーン関数とその一般化の研究。特にジャン=カミーユ・ビルジェ、アレクサンドル・オリシャンスキー、エリヤフ・リップス(英語版)、マーク・サピル(英語版) の研究は、有限表示群のデーン関数としてありうるものを本質的に特徴づけており、分数次数のデーン関数を持つ群の明示的な構成を与えている。 有限生成群・有限表示群に対するJSJ分解理論の展開。 幾何解析(英語版), 離散群に関連する C*-環 の研究、自由確率論との関係。このテーマは、特にノビコフ予想(英語版)とバウム・コンヌ予想(英語版)に関するかなりの進歩と、それらに関連する群論的な概念(位相的従順性、漸近次元、ヒルベルト空間への一様な埋め込み可能性、急減衰(rapid decay)条件など)の発展や研究に代表される (例えば を参照). 距離空間上の擬等角解析の理論との相互作用、特に2次元球面に同相なグロモフ境界(英語版)を持つ双曲群の特徴付けに関するキャノンの予想との関係。 en:Finite subdivision rules, キャノンの予想(英語版)にも関係する。 様々なコンパクト空間上の離散群の作用や群のコンパクト化を研究する際の位相的力学系(英語版)の相互作用、特に収束群(英語版)の方法 R {\displaystyle \mathbb {R} } -樹(en:real tree)の群作用の理論の発展(特にRips machine)とその応用。 CAT(0) 空間とCAT(0)立方複体への群作用の研究 。これはアレクサンドロフ幾何学のアイデアに動機づけられている。 低次元トポロジーや双曲幾何学との相互作用、特に3次元多様体群の研究 (例えば 参照)。曲面の写像類群、ブレイド群 および クライン群. 「ランダムな」群論的対象(群、群の要素、部分群など)の代数的性質を研究するための確率論的手法の導入。ここで特に重要な発展は、確率論的手法を用いて、ヒルベルト空間に一様埋め込み不可能な有限生成群の存在を証明したグロモフの研究 である。他の注目すべき発展としては、群論的アルゴリズムや他の数学的アルゴリズムに対するen:generic-case complexity の概念の導入と研究、ジェネリックな群の代数的な剛性の結果 などがある。 根を無限個もつツリーの自己同型群の群としてのオートマタ群や反復モノドロミー群(英語版)の研究。 特に、中間増大度をもつグリゴルチュク群(英語版)とその一般化がこの文脈に登場する。 測度空間上の群作用の測度論的性質の研究、特に測度同値と軌道同値の概念の導入と発展、モストウ剛性の測度論的一般化。 離散群のユニタリ表現とカジュダンの性質(T)(英語版)の研究 Out(Fn) (自由群の階数 n の外部自己同型群) と自由群の個々の自己同型の研究。ここで特に顕著な役割を果たしたのは、カラー(Culler)とフォートマン(Vogtmann)のouter space と自由群の自己同型群のための線路(en:train track)の理論 の導入と研究である。 バス・セール理論の発展(英語版)、特に多くの accessibility の結果 とツリーの格子の理論。群の複体の理論などバス・セール理論の一般化。 群上の ランダム・ウォークとそれに関連する境界の理論の研究、特にポアソン境界の概念 (例えば 参照)。 従順性と、従順性が不明な群の研究。 有限群論との相互作用、特に subgroup growth の研究の進展。 S L ( n , R ) {\displaystyle SL(n,\mathbb {R} )} などの線形群や、他のリー群の、部分群と格子を、幾何学的方法 (例えばビルディング)、代数幾何学的ツール (例えば 代数群 と表現多様体)、解析的手法 (例えば ヒルベルト空間上のユニタリ表現) 、数論的手法などで調べる研究。 代数的・位相幾何学的手法を用いた、群のコホモロジー。特に 代数的位相幾何学との相互作用や組合せの文脈でのモース理論的な考え方の利用を含む; 大尺度, あるいは粗ホモロジーあるいはコホモロジー。 (たとえば を参照) Burnsideの問題, コクセター群やアルティン群の研究など、伝統的な組合せ群論のトピックの進展(これらの問題を研究するために現在使用されている方法は、幾何学的・位相幾何学的なものが多い)。
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