部分群とは? わかりやすく解説

部分群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/26 18:14 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

G の部分集合 HG部分群: subgroup)であるとは、 HG演算に関して群になることである——より正確に表現すると、 HG の部分群であるとは、G 上の演算を制限して得られる H 上の演算に関して H が群になることである。この関係は通常、

という記号で表現され[1]、「 HG の部分群である」と読む。

G真部分群: proper subgroup)とは、部分群 HG真部分集合である(つまり HG である)ことであり、この関係は H < G という記号で表現される。任意の群 G に対し、G 自身と単位元のみからなる集合 {e} は常に G の部分群である。 HG の部分群であるとき、 GH の拡大群であると表現する場合がある。

G が任意の半群であるときも、G の部分群の定義はそのまま通用するが、本項では群の部分群についてのみを扱うにとどめる。群 G は順序対 (G, ∗) として記述されることもあるが、このように書くのは普通、G を台となる集合としてその上に演算 "∗" が代数的構造(あるいはもっとほかの構造)を定めるということを強調するためである。

以下では、通常の慣習に倣って ∗ を省略し、積 ab を単に ab と表記する。また、群の演算を単に「積」と表記する場合もある。

部分群の基本的な性質

  • H が群 G の部分群であるということは、 H が空集合ではなく、演算と逆元に対して閉じているということを意味する(「閉じている」というのは「 H に含まれる任意の元 a および b について、 ab および a−1H に含まれる」ということである。なおこの2つの条件は、同値な1つの条件にまとめることができる。「 H に含まれる任意の元 a および b について、 ab−1H に含まれる」という条件である)。 H が有限集合の場合、 H が部分群であるということは、 H が積に関して閉じているということと同値である(この場合、 H の任意の元は、 H の有限巡回部分群を生成する。そして a の逆元は、 a の位数が n ならば a−1 = an − 1 となる)。
  • 上記の条件は準同型の言葉で書き換えることができる。つまり HG の部分群となる必要十分条件は、HG の部分集合で、H から G への包含写像(任意の aH に対して i(a) = a となる写像)が準同型を与えることである。
  • 部分群の単位元は群の単位元と等しい。つまり、GeG を単位元とする群で、HeH とする G の部分群ならば eH = eG でなければならない。
  • 部分群のある元の逆元は、もとの群におけるその元の逆元と等しい。つまり H が群 G の部分群であり、a, bH の元で ab = ba = eH を満たすならば ab = ba = eG が成り立つ。
  • 部分群 AB共通部分はまた部分群になる。一方、部分群 AB和集合が部分群になるのは、 AB の一方が他方を包含している場合のみに限られる[2]。たとえば、2 と 3 はともに加法群としての 2Z と 3Z の和集合に含まれるが、それらの和である 5 はこの和集合には属さない。別の例では、平面上のX軸とY軸(加法について考える)がある。それぞれは部分群をなすが、それらの和集合は部分群にならない。ついでながら、これら二つの部分群の共通部分は、単位元である原点のみの部分群となる。
  • SG の部分集合ならば S を含む最小の部分群が存在する。これは S を含む部分群すべての共通部分をとることによって求められる。これを記号 〈S〉 で表し、「 S から生成される部分群」とよぶ。 G のある元が 〈S〉 に含まれるという事は、その元は S の元および S の元の逆元の有限個の積で表されるという事である。
  • G の任意の元 a巡回群a〉 を生成する。 〈a〉 が適当な正の整数 n に対する Z/nZ同型であるならば、nan = e を満たす最小の正整数である。この na位数 (order) という。もし 〈a〉 が Z と同型ならば、 a は無限位数を持つ、あるいは a の位数は無限大であるという。
  • 与えられた群の部分群全体の成す集合は、包含関係に関して完備束になる。これを部分群の束と言う(この束の下限は通常の集合論的な意味での共通部分だが、上限は集合論的な意味での和集合ではなく、それから生成される部分群である)。G の単位元を e と書けば、単位群 {e} が G の最小の部分群であり、また最大の部分群は G そのものである。

可換群 G をその元が

で与えられ、8を法とする加法を群演算とするものとする。その乗積表は以下のようになる。

+ 0 2 4 6 1 3 5 7
0 0 2 4 6 1 3 5 7
2 2 4 6 0 3 5 7 1
4 4 6 0 2 5 7 1 3
6 6 0 2 4 7 1 3 5
1 1 3 5 7 2 4 6 0
3 3 5 7 1 4 6 0 2
5 5 7 1 3 6 0 2 4
7 7 1 3 5 0 2 4 6

この群は、二つの自明でない群を持つ。 J = {0, 4} および H = {0, 2, 4, 6} である。 J はまた H の部分群にもなっている。 H の群表は、 G の群表の左上1/4の部分である。 G巡回群であり、また部分群も巡回群である。一般に、巡回群の部分群はやはり巡回群になる。

剰余類とラグランジュの定理

G に関し、部分群 H と元 a が与えられたとする。このとき剰余類をこのように定義する: aH = { ah : hH } 。 a は可逆元であるため、 φ(h) = ah で与えられる写像 φ : HaH は全単射である。さらに、 G の任意の元は、 H の左剰余類のどれか1個のみに含まれる。H に関する左剰余類は、「 a1a2 となるのは a1−1a2H に属するとき、かつそのときに限る」という同値関係から定まる同値類である。H の左剰余類の個数を、 G における H指数と言い、 [G : H] で表す。

ラグランジュの定理により、有限群 G とその部分群 H について以下のことが言える。

|G| と |H| はそれぞれ GH の位数を表す。特に、 G の任意の部分群の位数(および G の任意の元の位数)は、 |G| の約数である。

右剰余類も同様にして定義できる。: Ha = { ha : hH } 。これもまた、適切な同値関係を適用する事によって同値類になる。その個数は [G : H] である。

G に含まれるすべての a について aH = Ha であるとき、 H正規部分群と言う。指数 2 の部分群は必ず正規部分群である(実際、部分群 H の指数が 2 であるということは、H に関する左剰余類の全体も右剰余類の全体もともに、部分群 H とその補集合で尽くされる)。より一般に、有限群 G の位数の約数の最小の素数 p に対して、指数 p の部分群は(存在すれば)正規である。

脚注

  1. ^ Robinson, Derek J. S. (1996). A Course in the Theory of Groups (Second ed.). p. 8. ISBN 978-1-4612-6443-9. Zbl 0836.20001 
  2. ^ Jacobson (2009), p. 41

参考文献

関連項目


部分群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/04/04 01:10 UTC 版)

一般化置換行列」の記事における「部分群」の解説

すべての成分が 1 であるような部分群はまさしく置換行列であり、それは対称群同型である。 すべての成分±1あるような部分群は符号付置行列であり、それは超八面体群(英語版)である。 成分が m 次の冪根あるような部分群は、一般化対称群英語版)と同型である。 対角行列の部分群はアーベル群であり、正規であり、極大アーベル部分群である。その商群対称群であり、この構成実際一般線型群ワイル群英語版)を導く。すなわち、対角行列一般線型群極大トーラス(そして、それら自身中心化群)であり、一般化置換行列はこのトーラス正規化群であり、商 はワイル群である。

※この「部分群」の解説は、「一般化置換行列」の解説の一部です。
「部分群」を含む「一般化置換行列」の記事については、「一般化置換行列」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「部分群」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「部分群」の関連用語

部分群のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



部分群のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの部分群 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaの一般化置換行列 (改訂履歴)、自由アーベル群 (改訂履歴)、群 (数学) (改訂履歴)、交代群 (改訂履歴)、実数 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS