部分空間と商空間
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/22 00:46 UTC 版)
詳細は「部分線型空間」および「商線型空間」を参照 ベクトル空間 V の空でない部分集合 W が加法とスカラー乗法の下で閉じている(従ってまた、V の零ベクトルを含む)ならば、V の部分空間であるという。V の部分空間は、それ自体が(同じ体上の)ベクトル空間を成す。ベクトルからなる集合 S に対して、それを含む部分空間すべての交わりは S の張る空間と言い、集合 S を含む最小の V の部分空間を成す。属する元の言葉で言えば、S の張る空間は S の元の線型結合全体の成す部分空間である。 部分空間に相対する概念として、商空間がある。任意の部分空間 W ⊂ V に対して、(「V を W で割った」)商空間 V/W は以下のように定義される。まず集合として V/W は、v を V の任意のベクトルとして v + W = {v + w, w ∈ W} なる形の集合全てからなる。その二つの元 v1 + W および v2 + W の和は (v1 + v2) + W で、またスカラー倍の積は a · (v + W) = (a · v) + W で与えられる。この定義の鍵は v1 + W = v2 + W となる必要十分条件が v1 と v2 との差が W に入ることである。この方法で商空間は、部分空間 W に含まれる情報を「忘却」したものとなる。 線型写像 f : V → W の核 ker(f) は W の零ベクトル 0 へ写されるベクトル v からなる。核および像 im(f) = {f(v), v ∈ V} はともにそれぞれ V および W の部分空間である。核と像の存在は(固定した体 F)上のベクトル空間の圏がアーベル圏(つまり、数学的対象とそれらの間の構造を保つ写像の集まり、即ち圏、であってアーベル群の圏と非常によく似た振る舞いをするもの)を成すことの要件の一部である。これにより、第一同型定理(線型代数学的な言い方をすれば階数退化次数定理) V / ker(f) ≅ im(f) や第二、第三の同型定理が群論における相当の定理と同様な仕方できちんと定式化と証明をすることができる。 重要な例は、適当に固定した行列 A に対する線型写像 x ↦ Ax の核である。この写像の核は Ax = 0 を満たすベクトル x 全体の成す部分空間であり、これは A に属する斉次線型方程式系の解空間に他ならない。この考え方は線型微分方程式 a 0 f + a 1 d f d x + a 2 d 2 f d x 2 + ⋯ + a n d n f d x n = 0 {\displaystyle a_{0}f+a_{1}{\frac {df}{dx}}+a_{2}{\frac {d^{2}f}{dx^{2}}}+\cdots +a_{n}{\frac {d^{n}f}{dx^{n}}}=0} (各係数 ai も x の函数)に対しても拡張できる。対応する線型写像 f ↦ D ( f ) = ∑ i = 0 n a i d i f d x i {\displaystyle f\mapsto D(f)=\sum _{i=0}^{n}a_{i}{\frac {d^{i}f}{dx^{i}}}} は函数 f の導函数が(例えば f''(x)2 のような項が現れないという意味で)線型に現れている。微分は線型である(即ち (f + g)' = f' + g' および定数 c について (cf)' = cf' が成り立つ)から、上記作用素の値も線型である(線型微分作用素と言う)。特に、この微分方程式 D(f) = 0 の解の全体は(R または C 上の)ベクトル空間となる。
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