像 (数学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/20 05:19 UTC 版)

数学において、何らかの写像の像(ぞう、英: image)は、写像の始域(域、定義域)の部分集合上での写像の出力となるもの全てからなる、写像の終域(余域)の部分集合である。すなわち、始域の部分集合 X の各元において写像の値を評価することによって得られる集合を f による(または f に関する、f のもとでの、f を通じた)X の像という。また、写像の終域の何らかの部分集合 S の逆像(ぎゃくぞう、英: inverse image)あるいは原像(げんぞう、英: preimage)は、S の元に写ってくるような始域の元全体からなる集合である。
像および逆像は、写像のみならず一般の二項関係に対しても定義することができる。
定義
「像」という語は、その対象とするものによって互いに関連のある三種類の意味で用いられる。集合 X から集合 Y への写像 f: X → Y に対して、以下のように定義する。
- 元の像
- x が X の元ならば、f(x) = y を元 x の写像 f による像という。
- これは x に写像 f を施した値や、引数 x に対する f の出力などとも呼ばれる。
- 部分集合の像
- 部分集合 A ⊆ X の f による像 f[A] ⊆ Y は、(集合の内包的記法で)
-
単位円のΨMによる像としてのマンデルブロ集合の境界。 単位円の像としての心臓形(カージオイド)。 単位円の像としてのハート型曲線。 - 写像 f: {1, 2, 3} → {a, b, c, d} を で定義されるものとする。
部分集合 {2, 3} の f による像は f({2, 3}) = {a, c} となる。また、元 a の逆像は f−1({a}) = {1, 2} であり、{a, b} の逆像も同じく {1, 2} となる。{b, d} の逆像は空集合 {} になる。
- 写像 f: R → R を f(x) = x2 で定義されるものとする。
部分集合 {-2, 3} の f による像は f({-2, 3}) = {4, 9} であり、写像 f の像は非負実数全体 R+ である。一方 {4, 9} の f による逆像は f−1({4, 9}) = {-3, -2, 2, 3} であり、また負の実数の平方根は実数の範囲には存在しないから、N = {n ∈ R | n < 0} の f による逆像は空集合である。
- 写像 f: R2 → R を f(x, y) = x2 + y2 で定義されるものとする。
- M が可微分多様体で π: TM → M が接束 TM から M への標準射影ならば、点 x ∈ M 上の π に関するファイバーは x における接空間 Tx(M) である。これはファイバー束の例にもなっている。
基本的な結果
写像 f: X → Y と X の任意の部分集合 A, A1, A2 および Y の任意の部分集合 B, B1, B2 に関して
- f(A1 ∪ A2) = f(A1) ∪ f(A2)[3]
- f(A1 ∩ A2) ⊆ f(A1) ∩ f(A2)[3][5]
- f −1(B1 ∪ B2) = f −1(B1) ∪ f −1(B2)
- f −1(B1 ∩ B2) = f −1(B1) ∩ f −1(B2)
- f(A) ⊆ B ⇔ A ⊆ f −1(B)[6]
- f(f −1(B)) ⊆ B[7][6]
- f −1(f(A)) ⊇ A[8][6]
- A1 ⊆ A2 ⇒ f(A1) ⊆ f(A2)
- B1 ⊆ B2 ⇒ f −1(B1) ⊆ f −1(B2)
- f(AC) ⊇ f(X) ∖ f(A)[9]
- f −1(BC) = (f −1(B))C
- (f |A)−1(B) = A ∩ f −1(B).
などが成立する。特に像は三つの関係(∪, ⊆, ⊇)を保ち、逆像は五つの関係(∩, ∪, ⊆, ⊇, C)を保つ[10]。像や逆像に関するこの結果は、任意の部分集合族に対して交わりと結びに関するブール代数をうまく考えることができることを意味しており、部分集合の対だけでなくもっと一般に
なども成立する。ここで S は無限集合でも(もちろん非可算無限でも)よい。
これらのことから、部分集合のブール代数に関して、逆像 は束準同型となるが像 は半束準同型にしかならない(像は交わりを保つとは限らない)ことがわかる。
脚注
- ^ Blyth 2005, p. 5
- ^ Jean E. Rubin (1967), Set Theory for the Mathematician, Holden-Day, p. xix, ASIN B0006BQH7S
- ^ a b Kelley (1985), p. 85
- ^ Munkres 2000, p. 21.
- ^ f が単射ならば等号が成立する[4]。
- ^ a b c ガロア接続も参照。
- ^ Equality holds if B is a subset of Im(f) or, in particular, if f is surjective. See Munkres, J.. Topology (2000), p. 19.
- ^ Equality holds if f is injective. See Munkres, J.. Topology (2000), p. 19.
- ^ f が単射ならば等号が成立する。
- ^ シュヴァルツ 1970, pp. 5–6.
参考文献
- L. シュヴァルツ 著、齋藤正彦 訳『解析学 1(集合・位相)』東京図書、1970年、1頁。全国書誌番号:69022664。
- Artin, Michael (1991), Algebra, Prentice Hall, ISBN 81-203-0871-9
- T.S. Blyth, Lattices and Ordered Algebraic Structures, Springer, 2005, ISBN 1-85233-905-5.
- Munkres, James R. (2000), Topology (2 ed.), Prentice Hall, ISBN 9780131816299
- Kelley, John L. (1985), General Topology, Graduate texts in mathematics, 27 (2 ed.), Birkhäuser, ISBN 9780387901251
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関連項目
- 写像 f: {1, 2, 3} → {a, b, c, d} を で定義されるものとする。
「像 (数学)」の例文・使い方・用例・文例
- ブロンズ像
- その音楽は私の想像力を喚起した
- 戦争がどれほどひどいものか私にはまったく想像もできない
- 彼女はあなたの想像を越えた給料をもらっている
- ブロンズ製の像
- ブロンズ像,銅像
- 木彫りの仏像
- 大理石で像を彫る
- 像を青銅で鋳造する
- その絵はあなたの想像力をみごとに表現している
- まさかそんなことが自分の身の回りで起きようとは想像もしていなかった
- 彼女が彼と結婚するなんて想像できますか
- その悲惨さは想像を絶するものだった
- 写真の現像と焼き付けの仕方を学ぶ
- 画像がたちまち現れた
- こんな場面が想像できる.浜辺に僕ら2人だけ,夕日を眺めている
- 専門家の判定ではこの仏像は200年前のものだ
- 自分の想像力を働かせなさい
- 彼が英語の先生だとは想像できない
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