特徴的な訳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/10/10 14:37 UTC 版)
「ドリトル先生物語全集」の記事における「特徴的な訳」の解説
本全集の翻訳作業は1940年代から1960年代前半に行われたものであり、欧米では一般的だが日本では馴染みの薄い料理や食材の名称を中心に、現代においては馴染まない訳語を使っていることも多い。以下に特徴的な訳を挙げる。 オシツオサレツ 原文は"Pushmi-pullyu"("push me, pull you"のもじり)。ドリトル先生が『アフリカゆき』第10章でアフリカの猿たちを苦しめていた伝染病を終息させたお礼に寄贈された、想像上の動物である2つ頭の有蹄類。白林少年館版『アフリカ行き』では「プシュミプリュー」と音訳されているが、石井桃子の証言によれば井伏は「おしくらまんじゅう」に着想を得て「オシツオサレツ」という和名を考え出し、岩波少年文庫版『アフリカゆき』で全面的に訳を改めた際よりこの名前となった。現在では、井伏訳を代表する妙訳に挙げられている。 オランダボウフウ 原文は"parsnip"。パースニップは豚のガブガブが好物とする白っぽいニンジン状の野菜で、欧米ではポピュラーだが日本では余り知られていない。和名は「サトウニンジン」「アメリカボウフウ」など。南條竹則は「オランダセリ」の和名を持つパセリとの混同(英和辞典では"parsley"の次に"parsnip"が来ることが多い)か、井伏が「アメリカボウフウ」の音韻の悪さを嫌って「アメリカ」を「オランダ」に改変したのではないとかの説を提示しているが、1936年(昭和11年)に刊行された研究社『新英和大事典』では"parsnip"の項に「《植》おらんだばうふう、あめりかばうふう」と記載されており、1941年に白林少年館版『アフリカ行き』が出版される以前から「オランダボウフウ」の和名は存在していたと見られる。 韋駄天のスキマー 原文は"Speedy-the-Skimmer"。『郵便局』や『楽しい家』に登場する世界最速のツバメ。"Jack-the-Ripper"が「切り裂きジャック」であるのと同様、本来は「Speedy」がこのツバメの名前で「Skimmer」は二つ名と見られるが井伏訳では「Speedy」を「韋駄天」と意訳して、もっぱら"Skimmer"(「水面すれすれに飛ぶ」の意)の方を固有名として扱っている。同じくツバメの"Quip-the-Carrier"は「飛脚のクイップ」。 松露 原文は"truffle"。現在で言うトリュフ(和名・セイヨウショウロ)のこと。日本の松露(ショウロ)とは品種が異なりショウロは担子菌門、トリュフ(セイヨウショウロ)は子嚢菌門にそれぞれ属する。 アブラミのお菓子 原文は"a large suet-pudding"。『アフリカゆき』第4章で猫肉屋(マシュー・マグ)が航海に出発する先生に渡した手土産。スエット・プディング(Suet pudding)は、スエット(牛脂)を用いて作ったプディングのこと。 ズングリムックリ・デッカク 原文は"Humpty-Dumpty"。『サーカス』第1部4章でドリトル先生がサーカス団への帯同を申し出た際に団長のブロッサムが咄嗟に、先生の肥満体をマザー・グースの一曲で知られるハンプティ・ダンプティになぞらえて観衆に紹介したもの。『サーカス』の初訳(1952年)当時はルイス・キャロル『鏡の国のアリス』も日本では現在ほど広く知られておらず「ズングリムックリ・デッカク」の部分に注釈で「マザー・グースに登場するハンプティ・ダンプティのこと」と解説されている。 パドルビーのだんまり芝居 原文は"The Puddleby Pantomime"。『サーカス』第5部でドリトル家の動物やサーカス団の犬たちが自主的に練り上げた演目。翻訳当時はパントマイムという演劇のジャンルが余り知られていなかったので「だんまり芝居」と訳されている。劇の登場人物はハリキン(アルレッキーノ)、コロンバイン(コロンビーナ)、パンタルーン(パンタローネ)、ピエロ(ペドロリーノ)などイタリア発祥の即興劇、コンメディア・デッラルテ(Commedia dell'arte)が基になっている。 ウィンドルミアのあん入りまんじゅう 原文は"Wendlemere bun"。『キャラバン』第1部10章で、ウィンドルミアの町の名物として挙げられている。"bun"はマザー・グースの一曲としても知られるホットクロスバン(Hot cross bun)などに見られる、ドライフルーツを入れて砂糖をまぶした菓子パンの総称。イギリスにあんが入ったいかにも日本的な饅頭が存在する訳ではない。なお、ウィンドルミアは架空の地名だが『緑のカナリア』ではリヴァプールにほど近いと述べられており、イングランド北西部・湖水地方のウィンダミア(Windermere)がモデルか。あん入りまんじゅうと共に近隣の町の名物として名前を挙げられているメルトン・モーブレイのパイ(Melton Mowbray pies)とバンベリのケーキ(Banbury cakes)はどちらも実在する町の実在の名物である。 通貨単位 イギリスの貨幣制度は作品の時代設定である19世紀も1962年に本全集が刊行された当時も1ポンド=20シリング=240ペンス(単数形は1ペニー)、また1ギニー=21シリングとする変則的な換算方法が用いられていたが、1971年に中間補助通貨のシリングを廃止して1ポンド=100ペンスとする十進法を採用した補助単位の改正が行われた。また『航海記』第3部ではスペイン領のカパ・ブランカ島で3000ペセタを賭ける場面があるが、スペインの通貨は1998年を以てペセタからユーロへ移行している。
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