津波被害の態様
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/25 01:19 UTC 版)
津波による水の圧力は非常に大きく、沿岸の広い地域に被害を与える。人的被害は水深30 cmでも発生し、被害の程度は「波高」(浸水高)と「流速」が密接に関係している が、浸水深さが 2 m、4 m、8 m と深くなると被害の様相が大きく変化する事が報告されている。東北地方太平洋沖地震では、宮城県内で2 mを境に流失率が増大し6 mでの流失率は80%程度と報告されている。 浸水高と被害程度の目安(気象庁による資料を改変)津波波高1 m2 m4 m8 m16 m32 m木造家屋部分的破壊 全面破壊 石造家屋持ちこたえる 全面破壊 鉄筋コンクリートビル持ちこたえる 全面破壊 漁船 被害発生 被害率 50% 被害率 100% 防潮林被害軽微 漂流物阻止 津波軽減 部分的被害漂流物阻止 全面的被害無効果 養殖筏被害発生 例として、2 mの普通の波と津波との違いを比較する。2 mの普通の波は、海上で普段から偏西風や低気圧(気流)、月の引力などの影響を受けるため、少なからずデコボコが生じる。このデコボコの差が2 mあるだけで、波長や波を形成する水量は比較的少なく、海岸に達した所で沿岸地域に被害をもたらす事はそう多くはない。これに対し2 mの津波は、地震などによる海底の隆起または沈下により海水面自体が普段より2 m盛り上がり、それがそのまま海岸に向かって伝わっていく。言い換えれば、2 mの急激な海面上昇が起こることに近い。 つまり、2 mの普通の波は海岸に少量の海水をかける程度であるのに対して、2 mの津波は何kl(キロリットル)もの海水が一気に海岸地域を襲い、自動車や多くの人を簡単に飲み込み沖へ引きずり込んでしまう程の威力がある。2 mの「波」の水量は2(m)×波長数(m)×0.5×約0.5×海岸の距離(m)で、海岸1 mに押し寄せる波の水量は波長3 mとして1.5 m3(=1500リットル)、ドラム缶数本分である。一方、2 mの「津波」の水量は2(m)×波長数十km(m)×0.5×0.5×海岸の距離(m)で、海岸1 mに押し寄せる津波の水量は波長10 kmとして5,000 m3(=5,000キロリットル)、競泳用プール2つ分となる(体積の比較参照)。2003年に発生した十勝沖地震では、実際に2 mの津波に飲まれ死亡した人が確認されている。また、陸地に近づくと水流が建造物などを壊しながら内陸部へ進み、それらの瓦礫を巻き込むことによって破壊力を増す。更に、流氷や海氷などの漂流物を伴った場合に被害は増大する。 また津波が引いた後でも、損壊した住宅や市街地、工場、燃料タンクが炎上する津波火災、冷却機能を喪失した原子力発電所からの放射性物質漏れ(例:福島第一原子力発電所事故)といった二次被害が発生する。 人的被害では、津波の水は海底の砂や岩とともに微生物、有害物質などを巻き込んでいるので、津波に巻き込まれて助かった場合でも、骨折や打撲などの外傷だけでなく肺の中に微生物や油脂、砂・泥などを取り込んでしまう「津波肺」 の健康被害が発生することがある。 河口から河川に侵入した津波が数十km上流まで遡上することがある(地理的な要因次第だが、高さ1 mの津波でも5 kmは遡上すると言われる)。河川を遡上する津波は、伝播速度が速くなり、遡上距離が長くなる傾向にある。先端部の形態は砕波段波と波状段波の2種類がある。 1960年5月24日のチリ地震津波では、沖縄県石川市の石川川を遡上した津波が家屋の浸水などの被害をもたらした。2003年9月26日の十勝沖地震では、津波が波状段波を形成しながら北海道の十勝川を遡上する様子が自衛隊により撮影された。この時の津波は、河口から少なくとも11 km上流まで遡上したことが確認されている。2011年東北地方太平洋沖地震による津波は、関東地方でも利根川の40 kmを筆頭に、江戸川3 km、多摩川13 km、荒川28 kmなど、河口から遠い内陸部まで到達した。このことから、海に面していない埼玉県でも地震後、津波の被害に対応する地域防災計画の検討を始めるなどしている。 また、遡上する津波が高い場合は河川の堤防を決壊させて洪水を引き起こすことがある。2011年東北地方太平洋沖地震の津波では、青森県、岩手県、宮城県の計22河川が津波により同時に決壊するという未曽有の被害を生じた。北上川では、河口から49 km離れた旧中田町にまで津波が到達し、農地の大規模浸水が起こっているほか、名取川では仙台市太白区・若林区の、旧北上川や新北上川(追波川)では石巻市の市街地を濁流に呑み込み、甚大な被害を出した。特に石巻市立大川小学校では新北上川の堤防が高台であると考えて避難しようとしていたところ、川を遡上してきた津波が小学校を襲い、児童・教師らが多数死亡するという悲惨な出来事も起きている。津波の河川遡上という現象自体が一般にあまり知られていなかったため、津波の際に人々が海岸から離れることはあっても、河口付近以外で河川から遠ざかろうとすることは当時まれであった。 河川を遡上する津波と似たような物理現象として、潮津波がある。代表的なのは、南米アマゾン川のポロロッカ、中国の銭塘江などで起きる海嘯である。津波が河川に侵入するのを防ぐために、防潮水門などが設けられている川も多い(上写真)。
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