東アジアにおけるFTAと東アジア共同体構想
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/31 03:47 UTC 版)
「東アジア共同体」の記事における「東アジアにおけるFTAと東アジア共同体構想」の解説
東アジアにおける最初のFTAは、1992年に合意、1993年に締結されたインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイの6カ国(90年代後半にはベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスも加盟)によるASEAN自由貿易協定(AFTA)であった。これは中国が主流になりつつあった先進諸国からの投資をASEAN地域に向かわせるため、投資先として地域の魅力を高める必要に迫られてのものであった。AFTAの当初の計画は2007年までに全ての工業品の輸入関税を引き下げ、2008年には5%以下にする事であった。しかしASEANは2003年、従来の計画を5年前倒しする形でこの目標を達成しており、新たな目標としてベトナムを2003年、ラオス・ミャンマーを2005年、カンボジアを2007年までに、それぞれ関税率を引き下げる事を定めた。同時に、2015年の経済統合の実現に向けて、域内の関税の完全撤廃や投資の自由、サービス貿易や看護師など特定の職業への従事者、熟練労働者の移動の自由を進展させる事を、将来的なビジョンとして掲げている。 一方、多角的貿易システムを掲げ地域主義に警戒感の強かった北東アジアにおけるFTAへの動きは、1998年11月に韓国から日本に日韓FTAが提案されたのが始まりであった。韓国はこのほかニュージーランド、シンガポール、ASEAN等とのFTAを検討している。韓国についで積極的なシンガポールも、2002年の日本とのEPA、欧州自由貿易連合(EFTA)とのFTA締結や、2003年の韓国へのFTA提案など、活発な動きを見せている。日本においても、FTAについて、保護主義であるとしていた従来の認識を改め、2000年版の通商白書の中でその価値を認め、積極姿勢に転じた。現在はタイやフィリピン、ベトナムなどとのFTAが検討されているほか、2015年までの締結が予定されている中国・ASEAN間でのFTAに呼応するかのように、2002年に日本・ASEAN包括的経済連携構想を提案し、2002年9月のASEAN+日本・経済閣僚会議において2012年までの締結に関し合意を得ている。日本は東アジアの途上国を中心にFTA展開を進めているが、これは相手国への進出や国内の構造改革の推進、経済支援による途上国の経済・政治・社会的安定を目的としたものである。しかし一方で、貿易自由化による農業分野への損害が懸念される事から、とりわけタイなど農業国とのFTA締結については慎重な姿勢をみせている。中国については、WTO加盟によって世界市場との距離を縮めた後、2010年にはASEANとのFTA(ACFTA)を締結した。中国のみの関税引き下げを先行させる早期関税引き下げ措置(アーリーハーベスト措置)を提示してまでも締結に漕ぎ着けた中国の姿勢からは、貿易自由化だけでなく投資の自由化や経済開発協力など、多分野における協力関係を目指す意図をうかがい知る事ができる。韓国の金大中大統領により提案された東アジア3カ国の経済協力共同研究が根幹とされる日中韓3カ国間のFTAについては、前述の通り2001年の首脳会議で中国の朱鎔基首相が提案したものの、WTOの新規化加盟国である中国のWTOルール遵守の可否が不透明であった事、日本の特定産業への影響が懸念される事などから、日本は積極的な立場は取っていない。 また、最近では東アジア全体を包含するようなFTA(東アジアFTA)も検討され始めた。1998年12月のASEAN+3首脳会議では、有識者によって構成されるEAVGを発足させ、長期的な視点で捉えた協力体制の研究の推進が合意された。EAVGは2001年11月、各国の首脳に対し東アジアFTAを含む提案を行っており、EAVGより引継がれたEASGが2002年11月、東アジアFTAに関してより詳細な提案を行っている。EASGの提案は、各国国内の一部産業からの反発を理由に公式な議題として扱われる事は無かったが、EASGをさらに引き継いで2003年に北京で発足した東アジア・シンクタンク・ネットワーク(NEAT、東アジア研究所連合とも呼ばれる)が東アジアFTAに関する対話継続と相互理解の推進を目的に活動を続けている。NEATに関しては、ASEN+3各国の支持を受けているという点で、EAVGやEASGとは一線を画すものである。 賛否両論あるFTAであるが、その動態的な市場拡大や競争促進の効果、加えて政策革新の効果までも注目され始めており、ASEAN+3の自由化におけるGDPの押し上げ効果は中国の27.7%を筆頭に、マレーシア18.5%、タイ18.4%、シンガポール16.9%、インドネシア13.4%、韓国9.1%、フィリピン8.4%、日本1.0%(日本経済研究センター試算)とされている。また、ASEAN+3を軸に進められている東アジア共同体構想の第一段階として、東アジアFTAが不可欠であるとの見方が強い。現在、日中韓とASEANが一体化した形での共同体が成立するという明確な見通しは立っていないが、経済面において、日中韓が一体となって経済共同体を成立させる事が、東アジア経済が持つ経済規模と成長性を十分に活かすための第一歩と考えられており、外務省のプロジェクト『日中韓3カ国の競争力比較共同研究』などでも、日中韓のFTAが形成されれば、形成されない場合と比較して3カ国全ての経済成長率を上昇させると予測されている。 民主党政権の政策に影響力を及ぼしている姜尚中東京大学教授は、中国と日本の関係から韓国ソウルに首都が置かれるとしている。
※この「東アジアにおけるFTAと東アジア共同体構想」の解説は、「東アジア共同体」の解説の一部です。
「東アジアにおけるFTAと東アジア共同体構想」を含む「東アジア共同体」の記事については、「東アジア共同体」の概要を参照ください。
- 東アジアにおけるFTAと東アジア共同体構想のページへのリンク