東アジアにおける資本と労働力
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/31 03:47 UTC 版)
「東アジア共同体」の記事における「東アジアにおける資本と労働力」の解説
東アジア経済の高い経済成長の要因として第一に挙げられるのが、飛躍的に拡大を続ける貿易である。東アジア諸国が日本から技術や生産財の提供を受け、安い労働力で安価な製品を生産することによって外貨を獲得し、それによって自国の経済発展にとって重要な原材料、機械、技術などの輸入を可能にするというメカニズムが、東アジア諸国では日本が大きな役割を果たしてきた。 世界貿易の約20%に達するそのシェアは、アジア通貨危機後の一時期を除けば、1987-1988年、1994-1995年、2000年という3度の世界経済高成長期に対応した急速な拡大をはじめとして全体的に増加傾向にあり、とりわけ中国については1980年から2003年の間に貿易が20倍以上も増加、2003年の輸出入総額が対前年比37.1%増の8521億1000万米ドルになるなど、その上昇が顕著になっている。また、中国ほどではないものの、いわゆるCLMV諸国 に数えられるカンボジアやベトナムでも貿易の伸びが際立っている。 なお、機械産業や繊維産業などでは、日本から技術や生産財を調達し、生産品を域内内外に輸出するというシステムが構築されており、このため域内の貿易依存度でも輸出より輸入の方が高くなっている。 日中韓3カ国間の貿易関係も、日本が先端技術と資本を輸出し、中国の安価な労働力を使って生産を行うと言う経済構造・貿易構造を反映したものであり、日中間貿易では日本の入超、中韓間貿易では中国の入超、日韓間貿易では韓国の入超という三つ巴関係が成り立っている。 貿易と密接な関係にあり、また地域統合において貿易と同様に重要な役割が期待される投資問題については、最大の労働力を誇る中国が不公正な許認可制度や出資制限を日韓の企業に課していることから、域内にそれほど活発な相互依存関係は見られないのが現状である。 このような現状を受けて、日中韓3カ国は、投資協定の締結に向けた交渉の開始と日中韓自由貿易協定の促進する意思を2007年1月の日中韓首脳会談で一致させている。これは安倍政権の発足による日中・日韓の関係に改善の兆しを受けてのもので、外国企業への不当な差別や規制を撤廃し、現在の2国間協定では不十分となっている内国民待遇を相互に徹底させ、相互の投資を促進させる事を目的としたものである。この交渉では、中国が日韓の企業に課している許認可制度や出資制限などの緩和を協議し、中国において日韓の企業が中国企業と同等の条件で営業できるような規制緩和が求められ、また、知的財産権の保護や紛争処理の手続きにおける規則の整備、中国政府による行政手続きの透明化なども議論された。 直接投資については、日本が域内では支配的な位置を占めている。これは、直接投資を行う際に必要な資金、技術などを先進国が豊富に所有しているためである。東アジアにおける直接投資国は、1980年代から1990年代初めまでは日本のみであった。1990年代以降になるとNIEsがこれに続き、現在では中国やマレーシアも対外直接投資を展開している。このような流れの中で、東アジア3カ国における直接投資流入の世界に占めるシェアは1994年の15.4%から2000年には4.7%へ、直接投資流出の世界に占めるシェアは、1990年の20.4%から2000年には3.4%へと、それぞれ激減している。また、3カ国間での直接投資流出入も活発ではなく、そのシェアは1995年の9.8%から2000年には6.1%へと減少した。通貨危機による影響も無視はできないが、それでも同時期の域内貿易比率と比較すれば、域内投資は極端に少ない。 これらの最大の原因として、東アジアの域内投資の大半は最大の供与国である日本(香港・マカオを除く)に依存しており、日本の東アジアへの直接投資は活発化していない事が挙げられる。これは"失われた10年"とされる日本経済の長期停滞やアジア通貨危機の影響、中国へのリスク感・不信感(チャイナリスク)を背景とする対中投資の不振などに因るものである。
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