新たな腕時計の模索
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/25 04:41 UTC 版)
1980年代なかばから、完全にコモディティ化した方式の針式や液晶デジタル表示の腕時計に替わる、新たな付加価値を模索する動きが始まった。以下に各社の動向などを記す。 セイコーは復権をかけ、高級機械式腕時計として1960年代に名声を博した「グランドセイコー」などを復活させるなど、機械式腕時計に再度力を入れた。機械式ばかりではなく、ビスカススイープ・キネティック・スプリングドライブなど新方式の研究も進め、実用化している。2000年代に入ってからはクレドールブランドの超高価格帯製品「スプリングドライブ ソヌリ」などや「セイコー・スペクトラム」のような新コンセプトのモデルも作っている。 ビスカススイープはクォーツ腕時計で音叉時計のようなスイープ運針を、ダンパとばねにより実現した方式であったが、採用したムーブメントは1988年の5S21と90年の5S42にとどまった。 キネティック (AGS) は1988年にセイコーが発売した、世界初の自動巻き発電クォーツ腕時計「セイコー オートクオーツ」のムーブメントに使用された方式である。発売時は機構名をAGS (Automatic Generating System) としていたが1997年にキネティックに変更された。キネティックは自動巻き時計と同様にローターを内蔵し、腕の振りによって発生したローターの回転を歯車で約100倍に増速し発電した電力をキャパシタに蓄える電池交換不要のクォーツ腕時計である。装着していない時には省電力のため針の動きが自動的に停止し、再び装着され振動が与えられるとそれを感知して自動的に現在時刻に復帰するオートリレー機能を組み込んだ「キネティックオートリレー」、小の月だけでなくうるう年においても正しい日付を示すパーペチュアルカレンダーの「キネティックパーペチュアル」、手巻き充電にも対応し、パワーリザーブ表示機能を持つ「キネティック・ダイレクトドライブ」もある。 スプリングドライブは1999年にセイコーがリリースした、機械式ムーブメントに水晶振動子を使用した調速機構を組み込み、動力源にぜんまいを使用しながらクォーツ時計と同等の高精度を実現したものである。手巻きあるいは自動巻きによって巻き上げられたぜんまいは針を動かすと同時に発電を行い、その電力によって水晶振動子を備えた調速機構を動作させる。このため機械式調速機構で使用されるテンプや、クォーツ時計で使用される電池が不要である。セイコーではこのスプリングドライブを「メカニカル式とクオーツ式に並び立つ第三の駆動機構」と位置づけている。 シチズンの「エコ・ドライブ」は光発電によって駆動する。また外気温と装着者の体温の差を利用しゼーベック効果によって発電した電気エネルギーを動力源にする「エコ・ドライブ サーモ」の腕時計もあった(現在、エコ・ドライブ サーモを適用した腕時計は販売していない)。 カシオ計算機は「腕時計は床に落とせばたやすく壊れる」という常識に反し、2〜3階から落としても壊れないという耐衝撃性能を備えたタフな腕時計、G-SHOCK(Gショック)を1983年から発売した。このGショックはその頑丈さを買われ、過酷な状況にある湾岸戦争やイラク戦争などの戦場で兵士たちに愛用されていたという。最初はデジタルウォッチのみの展開であったが、1989年には「デジアナ」ウォッチもラインナップに加えた。日本ではそうした堅牢性を重要視されることはほとんどなく、耐衝撃を考慮したやや厚めのサイズと無骨なデザインということもあって発売早々ヒットとはいかなかったが、90年代に映画作品などで登場したり(販売推進部の策として、登場させたり)、また商品収集ブームも視野に入れ、「限定商品」を多数投入する販売推進策も採用し、それによって一人が多数購入するようにしむけた結果、販売数の大躍進に至った。 G-SHOCKの大ヒットした限定品の一例。初代デジアナモデルをベースにスケルトンである。 スウォッチは、安価なクォーツ時計に鮮やかな色彩、有名アーティストによるデザイン、少数限定販売という付加価値を与えることでコレクションアイテムとしての性格を備え、ユーザーの支持を集めた。デジタル表示腕時計の生産に踏み切った際は、ニコラス・ネグロポンテの協力を得てインターネットタイムを提唱したが普及には至っていない。 2010年ごろにおいて、壁時計では秒針の音を避けるなどの目的でスウィープ運針のものも多いが、クォーツ腕時計は、セイコーの超高級ラインのスプリングドライブ機を除き全て秒刻みの運針であった(壁時計ではリズム時計工業がサイレントステップという新しい方式を発表している(製品はシチズンブランド))。シチズンの技術により傘下のブローバから、毎秒16回駆動のクォーツ腕時計が発売された。シチズンとブローバは以前に音叉式腕時計で提携し、ブローバからの技術導入でシチズンが国産化した、という経緯がある。 また、機械式腕時計における、脱進機の新機構の考案も続いている。スイスの老舗メーカーであるユリスナルダンが2001年に発表した「フリーク」は新しい脱進機の導入により、潤滑油を不要としている。オメガはジョージ・ダニエルズが発明した「コーアクシャル」と呼ばれる新機構を導入し、機械式時計の心臓部である調速機構との動力伝達を果たす脱進機機構(アンクル爪、ガンギ歯)における摩擦の大幅な低減に成功している。さらに近年では「フリーク」「コーアクシャル」に追随するように独自の脱進機を開発したり、ガンギ車やアンクル、ヒゲゼンマイにシリコンや新たな特殊合金などの先端素材を採用したりして、オイルフリーや精度向上を目指す動きもあり、さながら脱進機革命とも呼ぶべき状況が生まれつつある。 2013年5月のBaselworld(バーゼル・フェア)において、スウォッチはSistem51を発表し、同年末ごろ発売を開始、日本では翌2014年春ごろから販売している。Sistem51は通常10万円以上するような機械式自動巻き腕時計と同程度の性能を持ちながら、スウォッチの発表によれば完全機械化された製造工程と「51」の由来である部品数など現代的な再設計により、スウォッチの他のクォーツ式と同様のファッショナブルなスタイリングと同程度の価格帯における新しいコンセプトとしての機械式を提案した腕時計である(トラディショナルなスタイリングで廉価な機械式としてはセイコー・ファイブなどがある)。
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