家事調停の沿革 (日本)
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「家事調停」の記事における「家事調停の沿革 (日本)」の解説
日本では、1898年(明治31年)7月に民法第四編(親族)、第五編(相続)が施行されたが、政府は、1919年(大正8年)7月に臨時法制審議会に対して、日本古来の淳風美俗に即した改正要綱を諮問した。同審議会は、1922年(大正11年)6月に「家庭の争議を訴訟の形式によって判断していては、古来の美風を維持できない。道義を本として温情をもって円満にこれを解決する制度を設けるべきだ。」との趣旨の中間的答申を提出した。 これ以来、家事審判所を創設して家事紛争を非訟手続や調停で解決することが検討され、1927年(昭和2年)10月には家事審判法案が仮決定されたが、実体法である親族法・相続法の改正作業が進まないために、家事審判所の創設も進まなかった。 しかし、1937年(昭和12年)7月に日華事変が発生し、戦没将兵の遺家族間で恩給、扶助料等を巡る紛争が続出したことは、調停制度導入にとっては追い風となった。つまり、家庭内の紛争を速やかに解決することが重要な戦線支援の一つであるとの説明 が説得力を増したことにより、1939年3月(昭和14年)に人事調停法が成立し、同年7月に施行された。 人事調停の年間の新受件数は、施行初年の半年間で5200件余りに達し、その後減少を続けたものの、1944年(昭和19年)に年間3736件の新受があり、1946年(昭和21年)でも年間3851件の新受があった。事件類型をみると離婚事件が圧倒的に多く、女性からの申立てが全体の7割近くを占めていたと推測され、女性の調停委員も選任されていた。第二次世界大戦の影響で市民が紛争を起こす余裕さえ失っていたことを考えると、人事調停制度は相当活用されていたと言えよう。つまり、人事調停法は、少なくともその建前においては、法令や個人の権利よりも「古来の美風」を優先する紛争解決を志向するものであり、前近代的な家族観から民法を批判する勢力にとっても受け容れやすい制度設計がされていたが、実際には司法による紛争解決を合理化する方向で運用されていたといえる。 第二次世界大戦終結後、大日本帝国憲法の改正作業が進み、1946年(昭和21年)11月3日に日本国憲法として公布された。これに伴って親族法・相続法の改正作業も加速し、臨時法制調査会及び司法法制審議会が家事審判制度の創設を促したことを受けて、家事審判法及び同法施行法が国会で成立し、1948年(昭和23年)1月1日から施行された。 これらの法律により、地方裁判所の特設支部として家事審判所が創設されるとともに、人事調停制度に代えて家事調停制度が創設された。そして、家事審判法は、家事調停制度が「個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図ることを目的とする」と規定し(同法1条)、家事調停は名実ともに新たな家族法秩序の実現を志向する制度であることを明らかにした。 裁判所法の改正により、1949年(昭和24年)1月1日、家事審判所と少年審判所とを統合して家庭裁判所が創設されると、家事調停の運営も家庭裁判所に移管された。また、1951年(昭和26年)4月1日に家庭裁判所調査官(1954年(昭和29年)6月1日の改称前は家事調査官)制度が創設された。家庭裁判所調査官は、医学、心理学、社会学、経済学などの専門的知識を活用した事実の調査を行い、家庭裁判所に調査結果及び意見を報告するとともに、家事調停の期日に出席して意見を述べることができるとされた(家事審判規則7条の2~7条の4)。 1974年(昭和49年)には調停委員の高齢化や新陳代謝の不活発による弊害に対応することを目的として、任命資格や手当に関する改正が行われ、2003年(平成15年)には家事調停官の制度が導入された。 2013年(平成25年)1月1日に家事審判法及び家事審判規則が廃止されるとともに、家事事件手続法が施行された。家事調停に関する主な変化を挙げると、家事審判法の規定の構造(家事審判法が民事調停法を準用し、民事調停法が非訟事件手続法を準用していただけでなく、家事審判規則にも重要な規定が散在していた。)を改めて、家事事件手続法及び同法3条に基づく最高裁判所規則(家事事件手続規則、平成24年最高裁判所規則第8号)で家事調停に関する基本的規定を網羅している。また、家事事件手続法は、申立書の写しを相手方に送付することを原則とすると定めるほか、電話会議システム及びテレビ会議システムを利用する調停手続を公認している。これは、家事調停においても当事者の手続保障(各当事者に主張立証の機会を公平に保障すること)を重視する趣旨の規定である。さらに、家事事件手続法は、手続行為について行為能力(自己の名前と判断で法的意味を持つ行為を有効に行えること)の制限を受けた者のために手続代理人の制度を新設している(23条1項、2項、252条1項)。これも、家事調停により重大な影響を受ける者の手続保障を重視する趣旨の規定である。
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