各論者の批判の基盤と姿勢
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/15 06:47 UTC 版)
「ファシズム批判」の記事における「各論者の批判の基盤と姿勢」の解説
長谷川如是閑の場合基盤紙=公紙『我等』『批判』『経済往来』『中央公論』『改造』 公の批判書=『日本ファシズム批判』(大畑書店、1932年) 姿勢=マルクス主義者かと思わせる、鋭利な社会的分析により、ファシズム批判をリードする。初期において最初でかつ本格的な体系的分析と批判を行うものの、中期以降は沈黙する。この姿勢により、批判者よりも抵抗者である、とも評されるし、あるいは批判者・抵抗者から大勢順応主義者へ「転向」したのだ、との説も出ることになる。 批判の結果=1933年共産党シンパ事件に巻き込まれ、以降国法の範囲内で行動することの表明を余儀なくされた。 桐生悠々の場合基盤紙=公紙『信濃毎日新聞』(1928年1月-33年9月)、個人紙『他山の石』(1934年12月-41年8月) 公の批判書=なし 姿勢=五・一五事件批判、関東防空大演習を嗤う、日支再戦せば、第二次世界大戦の予言、国体明徴より軍勅明徴、清算期がきたのだ、新体制批判、日米もし戦うならば(以上、太田雅夫) 批判の結果=『信濃毎日新聞』を追放され、名古屋で『他山の石』で食い繋ぐことになる。 石橋湛山の場合基盤紙=公紙『東洋経済新報』 公の批判書=なし 姿勢=二・二六事件批判、日中戦争批判、三国軍事同盟批判、大東亜共栄圏構想批判(以上、増田弘)、特殊権益の否定、間接利益論、国際協調の努力、ブロック経済論批判、東亜新秩序との対決、満州無用論、個人主義(以上、姜克實)。ただし、その論調は既成事実を認めたり、批判のトーンが鈍ったりした。それをどう評価するかは分かれるところである。営業紙を守るために譲歩をした、「戦術上(表面上)の退歩」と見る向きがある一方、批判でもなく抵抗でもないと見る向きもある。 批判の結果=『東洋経済新報』用の紙の量を落とされるなど、営業上の制約を受けたが、終戦まで発禁にもならず、営業を持続する。 河合栄治郎の場合基盤紙=公紙『帝国大学新聞』『中央公論』『改造』『経済往来』、河合栄治郎事件以降は依拠すべき基盤紙なし(実質執筆禁止) 公の批判書=『ファッシズム批判』(日本評論社、1934年)、『時局と自由主義』(日本評論社、1937年) 姿勢=五・一五事件批判、二・二六事件批判、国家社会主義の批判、国家主義の批判、国際的不安の克服、独裁主義(非議会主義)批判(以上、論文の名称より)。批判論者の中では、現実的批判と理論的批判の両方にわたって、最も体系的、最も構造的に批判した。 批判の結果=著書四書が発禁処分を受け、自身も東京帝国大学から追放される(河合栄治郎事件)。 矢内原忠雄の場合基盤紙=公紙『中央公論』、個人紙『通信』(1932年11月-37年12月)、矢内原忠雄事件以降は個人紙『嘉信』(1938年1月-61年12月) 公の批判書=『満州問題』(岩波書店、1934年)、『民族と平和』(岩波書店、1936年) 姿勢=国家至上主義批判(矢内原伊作)。キリスト者の立場から、ファシズム思想を断罪するものである。 批判の結果=東京帝国大学から追放される(矢内原忠雄事件)。 清沢洌の場合基盤紙=個人日記『暗黒日記』(1942年12月-45年5月) 公の批判書=なし 姿勢=帝国主義外交批判、日本の中国政策を批判、太平洋戦争を予感、ドイツとの連携に警告、統制主義批判、官僚主義批判、教育批判(以上、江口敏) 批判の結果=『暗黒日記』以外には公では批判しなかったため、表だった弾圧はなかった。 正木ひろしの場合基盤紙=個人紙『近きより』(1937年4月-49年10月) 公の批判書=なし 姿勢=中国旅行での、日本軍将兵による中国人抑圧状況を活写した。また、東条英機首相批判、首なし事件などを記載した。 批判の結果=『近きより』はたびたび廃刊圧力を受けるが、終戦まで長らえる。 生方敏郎の場合基盤紙=個人紙『古人今人』(1935年-1945年) 公の批判書=なし 姿勢=自由主義者、ユーモリストとして、軍部や戦時体制下社会を批判した。 批判の結果=警戒されていなかったせいか、『古人今人』も個人もさしたる弾圧は受けなかった。 『世界文化』同人の場合同人=中井正一、久野収、武谷三男、真下信一、和田洋一など 基盤紙=私団体紙『世界文化』(1935年2月-37年10月)『土曜日』(1936年7月-37年11月) 公の批判書=なし 姿勢=西洋の人民戦線運動の紹介 批判の結果=治安維持法違反で同人が相次いで検挙され(京都人民戦線事件)、『世界文化』も廃刊に追い込まれた。
※この「各論者の批判の基盤と姿勢」の解説は、「ファシズム批判」の解説の一部です。
「各論者の批判の基盤と姿勢」を含む「ファシズム批判」の記事については、「ファシズム批判」の概要を参照ください。
- 各論者の批判の基盤と姿勢のページへのリンク