各語群での変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/05 07:55 UTC 版)
キチェ語群は音声に関して保守的であり、ほかの語群で滅びた*rが残っているほか、口蓋垂音の*q, *qʼも変化していない。キチェ語群では以下の変化が起きている。 両唇破裂音が *p, *bʼ の2つであることについてはマヤ祖語と同様だが、ポコマム語とポコムチ語では低地マヤ語の影響でpʼが発生している。 硬口蓋音 *ty, *tyʼ は *ch, *chʼ に合流した。 声門摩擦音 *h は大部分の言語で口蓋垂摩擦音 *j に合流した。ただしケクチ語ではjとhの区別が残っている。 軟口蓋鼻音 *nh は大部分の言語で口蓋垂摩擦音 *j に合流した。ただしケクチ語では h に合流し、またウスパンテコ語では声調に影響を及ぼしている。 キチェ語の主要な方言では5母音と長短の区別が残っている。しかしカクチケル語では長短の区別が母音のはり・ゆるみの区別に変化し、また母音が融合して多くは6-9母音になっている。いくつかの言語では長いee ooが二重母音化している。 これに対して西のマム語群では後部歯茎音 *ch, *chʼ がそり舌音 tx, txʼ に変化し、また非喉頭化子音で ty→tz, t→ch, r→t の子音推移が起きた。 さらに西のカンホバル語群では以下のように変化している。 口蓋垂音 *q, *qʼ はカンホバル語、アカテコ語、ポプティ語ではキチェ語群と同様そのまま残っているが、しばしば q が [χ] と発音されたり、qʼ が [kʼ] または [ʔ] と発音され、消失の過程にある。 硬口蓋音 *ty, *tyʼ はキチェ語群と同様に *ch, *chʼ に合流した。 ポプティ語にはそり舌音がある。 *r は y に合流している。 軟口蓋鼻音 *nh はチュフ語、ポプティ語、モチョ語でnhのまま残っている。他の言語ではnに合流している。 母音の長短の区別は大部分の言語で失われた。モチョ語とアカテコ語には長短の区別が残るが、後者はマヤ祖語の長短の区別が残っているわけではなく、二次的に発生したものである。 チョル・ツェルタル語群では、口蓋垂音がなくなり、q qʼ > k kʼ, k kʼ > ch chʼ の子音推移が起きた。たとえばキチェ語のkʼaq「ノミ」にツェルタル語のchʼakが対応する。それ以外では以下のように変化している。 喉頭化した無声両唇破裂音 pʼ が存在する。 硬口蓋音 *ty, *tyʼ は *t *tʼ に合流した。 チョル語では t tʼ n がそれぞれ ty tyʼ ñ に変化した。 *r は y に合流している。 軟口蓋鼻音 *nh は n に合流した。 母音の長短の区別は失われた。西部のチョル語とチョンタル語では中舌母音äが加わって6母音体系になっている。 ユカテコ語群では、以下のように変化している。チョル・ツェルタル語群と同様の変化が多い。 チョル・ツェルタル語群と同様に喉頭化した無声両唇破裂音 pʼ が存在する。 口蓋垂音 q qʼ は、チョル・ツェルタル語群と同様に k kʼ に変化している。 モパン語ではさらに歯茎音でも t tʼ dʼ の三項対立が見られる。 硬口蓋音 *ty, *tyʼ はチョル・ツェルタル語群と同様に t tʼ に合流したが、前舌母音の前または語末ではさらに ch chʼ に変化している。 *r は y に合流している。 軟口蓋鼻音 *nh はチョル・ツェルタル語群と同様に n に合流した。 ユカテコ語ではマヤ祖語と同様の5母音と長短の区別を維持しているが、ほかの言語(ラカンドン語、モパン語、イツァ語)では短い中舌母音äが加わっている。またユカテコ語と南部ラカンドン語で声調が発生している。声調はマヤ祖語のCVC₁C₂型の音節がCVːCに変化する過程で発生したものである。 ワステコ語群では他とはかなり異なった子音変化が起きた。ワステコ祖語ではマヤ祖語の *t *tʼ がそり舌音 [ʈ ʈʼ] に変化し、*ty *tyʼ と *tz *tzʼ が合流して [t tʼ] に変化した。さらに *k *kʼ が *ch *chʼ に合流した。これとよく似た体系をチョントラ方言が持っているが、ベラクルス方言とサン・ルイス・ポトシ方言ではそこからさらに変化している。それ以外では以下のような変化がおきている。 歯茎摩擦音 *s は th [θ] に変化した。 *r は y に合流している。 軟口蓋鼻音 *nh は環境によって h / w / y のいずれかに変化した。 母音はマヤ祖語と同様の5母音と長短の区別を維持している。 これらの音変化のいくつかがチョル・ツェルタル語群と似ていることは、この2つの語群が系統的に近い関係にあると主張する学者のひとつの根拠になっている。
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