南関東の特殊性と高いリスク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/18 13:43 UTC 版)
「南関東直下地震」の記事における「南関東の特殊性と高いリスク」の解説
山手線内側の鉄道主要駅の地震増幅率増幅率の低い(地盤の強い)駅増幅率の高い(地盤の弱い)駅順位駅名増幅率順位駅名増幅率1位 東新宿駅 1.31 1位 秋葉原駅 1.85 1位 代々木駅 1.31 1位 水道橋駅 1.85 3位 池袋駅 1.32 3位 浜松町駅 1.74 4位 新宿駅 1.33 4位 東京駅 1.74 5位 四ツ谷駅 1.34 5位 神田駅 1.69 マグニチュード7級の地震が時折発生するという点では、南関東も日本の他の地域も同様である。しかし、南関東では以下のような理由により地震の頻度が高く、また被害の程度が顕著になると想定されることから、地震学・地質学の研究においても防災の観点においても注目され、重要視されている。 まず、関東地方には日本の他の地域と同様に地表近くに活断層が存在すると同時に、地下では相模トラフ付近だけではなく、群馬県南部・栃木県南部までプレートの境界が存在し、そこでも地震が発生する。北関東では震源が深いため揺れが減衰されるが、南関東では震源が浅いため強い揺れが起こる。しかも、南関東では地表を覆う大陸プレート(北アメリカプレート, NA)の下に南から海洋プレート(フィリピン海プレート, PHS)が沈み込み、さらにその下に東から海洋プレート(太平洋プレート, PAC)が沈み込んでいる複雑な構造であり、関東付近におけるプレート間の相対運動速度はNA-PHS間が約3cm/年、NA-PAC間が約8cm/年、PHS-PACが約5cm/年と世界的にも比較的速いため、必然的に地震の確率は高くなる。 また、関東平野は群馬南東部、栃木中北部以南、埼玉北部・中部・東部、東京中部・東部、神奈川東部、千葉北部・中部、茨城中北部以南・西部まで広がっており、第四紀以降の堆積物に厚く覆われていて(最も深い東京湾付近で3,000m程度)揺れが反射・増幅されやすく、政府発表の「表層地盤のゆれやすさ全国マップ」(2005年)においても南関東の大部分が揺れやすい地域とされている。特に、東京湾岸や荒川・利根川流域などは揺れの増幅率(表層地盤増幅率)が高い地域に分類されており、都心部でも東側は地盤が弱い(表参照)。 南関東直下地震は、M8クラスの相模トラフ巨大地震や東海地震に比べれば想定される震災被害の範囲は小さいが、プレート間地震が内陸で起こる「直下型」であるため震源付近では甚大な被害が発生すると考えられる。 世界最大の再保険会社であるミュンヘン再保険が2002年に発表した、大規模地震が起きた場合の経済的影響度を含めた世界主要都市の自然災害の危険度ランキングでは、東京・横浜が710ポイントと1位で、167ポイントで2位のサンフランシスコと大差がつき、首都圏での震災を含めた災害リスクの高さが表れている。 また東京は江戸時代より日本の中心として都市機能を集約しており、戦後の高度経済成長によって日本が国際的な位置を確立し始めた時には、東京は日本だけでなく世界経済の中枢としても重要な位置を確立した。現在でも国内主要企業の本社のほとんどが集中する経済の中心地、また国会や中央省庁が集まる政治の中心地ゆえ、直下型地震によって経済活動や国家の安全保障に甚大な被害を及ぼす事態も予想されている。また、周辺を含めた首都圏にも横浜市・川崎市・相模原市・千葉市・さいたま市などの大都市があり全体的に人口密度が高く、京浜工業地帯・京葉工業地域・鹿島臨海工業地帯などの工業地域、横浜港・川崎港・千葉港などの重要港湾機能がある。このように人口や機能の集中する首都圏において大地震が発生し、その機能が麻痺状態に陥った場合のリスクは極めて高いものと想定されており、これが他地方への首都機能移転を主張する意見の一根拠にも用いられている。 首都近郊での大地震は近代より注目されている。地震学者今村明恒は、1891年濃尾地震を受けて設置された震災予防調査会がまとめた地震記録から関東地方の地震の周期性を見出し、「50年以内に東京で大地震が発生する」という趣旨の雑誌寄稿を1905年に行った。これは社会問題化したがやがて批判へと変わり、地震への警鐘は一時的なものとなってしまった。その後1921年、1922年とM7級の地震が発生するなど南関東で中規模地震が多発する中、1923年にM7.9の関東地震が発生し甚大な被害をもたらした。戦後、河角廣が発表した「南関東大地震69年周説」は1978年 - 2004年の間に南関東で再び大地震が発生するというもので再び大きく取り上げられたが、これは鎌倉における歴史地震(古地震)の記録をもとにしたもので地震の震源域や規模が明確ではなく、相模トラフ巨大地震の周期性も解明されたことから後に否定された。その後1980年代より南関東地震活動期説が唱えられているが、支持・反対の意見に分かれている。
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