伝奇ロマン・架空戦記
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1973年にノン・ノベルを発刊した祥伝社の伊賀弘三良に、S-Fマガジン編集長だったの森優の推薦で半村良の『黄金伝説』のような伝奇推理の執筆を依頼されて『空白の十字架』を執筆し、以後伝奇ロマン作品を数多く発表した。一方で、スペースオペラ「ビッグウォーズシリーズ」やジュブナイルSF「時間監視員シリーズ」などを執筆する。荒巻も2度のインド旅行で仏教、ヒンドゥー教に関心を持ち、渡辺照宏の『不動明王』を読んで不動明王とシヴァ神の説話にヒントを得て『殺意の明王』を執筆した。続編の『悪魔の議定書』では日本的な伝奇ロマンに対して舞台の国際化を目指し、新書版に合った創作手法として劇画のプロット構成法を参考にし、ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ『化学の結婚』の構成を指標として執筆した。さらに、シリーズ3作目『妖獣王子』では世界情勢と近未来的問題を組み入れるという試みで土地高騰現象と経済恐慌を題材にした。 1986年に当時の米ソ対立の中で、シミュレーションゲームから着想を得たシミュレーション小説を構想し、在住している北海道を舞台に箱庭的な世界を作ろうとして、ニセコ山系を舞台に選んだ近未来戦記『ニセコ要塞1986』三部作を執筆。続いて十和田、阿蘇、琵琶湖を舞台にした連作長編となった。これを皮切りに、架空戦記を執筆するようになり、1990年代以降の架空戦記小説ブームの始祖とも言える作品であった。1994年には、架空戦記作家宣言とも言える評論『シミュレーション小説の発見』を発表する。「世界模擬実験装置としてのシミュレーションにこそ、小説の未来がある」として、以降、架空戦記小説を多数発表する。一時期は、日本SF作家クラブをも脱退していた。 2001年の「富嶽要塞Ver.1」の完結以降、架空戦記の新作は発表されずに経済シミュレーション小説『プラグ』(2002年)や、アトランティスを舞台にしたSFファンタジー・シリーズ『アトランティス大戦』『火星のアトランティス』等を書いていた。 2007年8月に行われた世界SF大会 Nippon2007では、「スチームパンク/歴史改変」パネルに参加(他の参加者は、荒巻のほかに高野史緒、宇月原晴明、永瀬唯、新戸雅章)。また、2007年12月に翻訳家の増田まもるが創設したサイト「speculative japan(ニューウェーヴ/スペキュレィティヴ・フィクション・サイト)」にはメンバーの一員として参加し、盛んにSF評論を発表している。2008年12月から2011年12月にかけて日本SF作家クラブ主催で行われている日本SF評論賞の第4回から第7回の選考委員長を務め、石和義之、岡和田晃、高槻真樹らを輩出した。 「SFへの回帰」が目立っていたが2010年5月、10年ぶりの架空戦記小説の新刊『ロマノフ帝国の野望』が発売され、話題を呼んでいる。巻末には最新の地政学関係の文献がリストアップされている。 荒巻は60年安保の挫折を経た後に、建築の仕事の経験によって職人の技術や身体の延長としての道具を文学にするという考えを持ち、それを「術の小説論」にまとめており、マニエリスムを志向していると述べている。美術を素材とした作品に、ボスの『快楽の園』のような惑星への旅を描く『神聖代』、エッシャーの絵のような都市を舞台にした『カストロバルバ』などがある。伝奇ロマンとしては、超古代史をテーマとする『空白の十字架』などの「空白シリーズ」、『ソロモンの秘宝』を始めとする秘宝シリーズ、『古代かごめ族の陰謀』などの「陰謀シリーズ」、「埋宝シリーズ」などのSFミステリーがある。高校時代からヴァン・ダインを愛読しており、黄金シリーズを読んだ山村正夫から推理小説を描くように勧められ、浦島伝説を題材とした伝奇推理小説『天女の密室』、フリーメイソンを扱った『石の結社』を執筆、これらは画家の條里嶋成を主人公として、美術に関する造詣も生かされている。澁澤龍彦の影響が大きいと自身で語っており、そのマニエリスム志向はヨーロッパにおける神秘思想・秘教に代わって、超古代文明などをテーマとした伝奇SFとして表されていると笠井潔も指摘しており、巽孝之も、荒巻の架空戦記もまたマニエリスム的作品と評している。 なお、荒巻は長く「札幌時計台ギャラリー」のオーナーを務め、北海道の美術家の作品を多数所持する美術コレクターとしても著名であり、コレクションの多くは札幌芸術の森美術館に寄贈されている。 2014年11月より月刊のペースで、彩流社より入手困難な初期SF作品を集成した『定本 荒巻義雄メタSF全集』(全7巻+別巻)が刊行開始された。編集委員はSF評論家で慶應義塾大学教授の巽孝之が、SF研究家で元北海道新聞文化部長の三浦祐嗣がそれぞれ担当した。
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