バンコマイシン耐性腸球菌感染症とは? わかりやすく解説

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バンコマイシン耐性腸球菌感染症

バンコマイシン耐性腸球菌VRE)は、バンコマイシンVCMMRSAなどグラム陽性菌有効な抗菌薬)に耐性獲得した腸球菌である。健常者場合は、腸管内にVRE保菌していても通常、無害、無症状であるが、術後患者感染防御機能低下した患者では腹膜炎、術創感染 症、肺炎敗血症などの感染症引き起こす場合があるため、欧米では、ICU外科治療ユニットなど易感染者治療する部門問題となっている。

疫 学
1980年代前半欧州最初に分離され1990年代入り欧州米国などで急速に拡大し、現在それらの地域では、ICUなどで分離される腸球菌20%以上がVRE判定されている。
一方我が国では、感染症法に基づく届け出1999年(4~12月)に23例、2000年以後は1~12月)に36例、2001年41例(暫定データとなっているが、それらの多くはvanC型であり、欧米様相大きく異にしている。また、便や尿からの分離例で、いわゆる定着例と考えられる事例も多い。
院内感染対策重要なvanAやvanB型が血液腹水などから分離されるVRE感染症」の症例は、未だ少数である。しかし、我が国でも今後欧米のようにVRE分離例が増加する事は十分予想される
前述如く国内でのVRE分離未だ稀であり、適切な対策や行政的施策などを実施するため、その全数把握する事が不可欠となっている。したがって感染症法ではVRE感染症症例全例について報告義務課せられている。

病原体
腸球菌属は健常者回腸口腔外陰部などからしばしば分離される常在性のグラム陽性球菌であり、病原性が非常に弱い点が特徴である。乳酸発酵をするため広義には乳酸菌」の一種 とも考えられチーズなどの乳製品製造用いられる事があり、また、一部整腸剤にも加えられている。したがってVRE生物学的な特徴一般腸球菌何ら変わらず健常者に「感染症」を引き起こす事は極めて稀であり、一部マスコミ等で「最強バクテリア」と紹介されたが、 この点は全くの誤解である。しかし、腸球菌一種であるEnterococcus faecium などは術後心内膜炎などの原因菌となりうることが指摘されており、その意味では全くの非病原菌ではない。
VREとして臨床問題にされ、院内感染対策対象となっているのはvanAまたはvanB遺伝子保有する腸球菌である。一方、vanC型VRE今のところ欧米でも重篤感染症引き起こしたとの報告は稀であり、また、健常者でも入念に検査した場合少なくとも数%から分離されると 言われており、「常在菌」的性格強く院内感染対策対象はなっていない。しかし、感染症法では、vanC型のVREによる重症感染症発生状況正確に把握するため、血液髄液など通常無菌的あるべき臨床材料からvanC型VRE分離され場合には報告求められている。
最近国内VCM高度耐性のvanD型VRE分離され報告されているが、海外から報告されているvanE, vanG型のVRE臨床分離例も少なく、それらの臨床的な意義動向十分に把握 されていない

既に厚生労働省の調査結果から、海外から輸入されている鶏肉一部vanAVRE汚染されていたことが明らかとなっており、国内でのVRE対策上無できない問題となっている。したがって厚生労働省から鶏肉生産国輸出国対し家畜へのアボパルシン使用制限飼 育環境衛生上の改善などの申し入れが行われ、事態改善図られている。

バンコマイシン耐性腸球菌感染症


臨床症状
VRE健常者感染防御機構正常な患者腸管内に感染または定着しても、下痢腹痛などの症状呈することはなく、無症状である。事実国内多く分離例が無症状者の便や尿な どから偶然に分離されたものである。したがってそのような場合無症状保菌者となり、長期間わたってVRE排出し続け周囲患者VRE感染させていた事例海外でしばしば報告されている。
VREにより術創感染症や膿瘍腹膜炎敗血症などを生じた症例では、患部発赤などの炎症所見発熱などの全身所見など一般的な細菌感染症の症状見られる
しかし、VRE血液などから分離されるような感染防御能が全般的に低下した状態の患者では、MRSA緑膿菌大腸菌など病原性の強い他の細菌同時に混合感染起こしていること も多く、それらのによる症状前面に出る場合が多い。


病原診断

薬剤感受性試験
感染症法では、各医療施設において日常的に実施されている分離同定試験薬剤感受性試験法により、腸球菌であってVCM対す判定結果が、MIC値で≧16μg/mlと判定され症 例について届け出求めている。ただし、NCCLS(米国臨床検査標準化委員会)の判定基準では、VCMMICが≧32μg/mlを「R:耐性」としているが、この基準では一部vanAやvanB型VRE を見逃す可能性があるため、感染症法では暫定的にVCMMIC値が≧16μg/mlである腸球菌についての報告求められている。
PCRによる判定
VCM耐性を示す腸球菌で、vanA、vanB遺伝子特異的なプライマー用いたPCR検査により、特異的なバンド検出され場合
[註]Disk拡散法によるVRE型別推定方法PCR具体実施方法については、<http://idsc.nih.go.jp/others/vre2.html#van>に紹介されているので、参考されたい
市販VRE選択培地分離試みた場合VCM生来耐性を示す、Leuconostoc 属、Pediococcus 属、Lactobacillus 属なども分離されることがあり、VREとの鑑別が必要である。

治療・予防
VREが便や尿から分離されたのみで症状を呈さない、いわゆる定着例と判断される症例に対しては、VRE除菌する目的での抗菌薬投与通常行わない
VREによる術創感染症や腹膜炎などの治療は、抗菌薬投与とともに感染巣洗浄ドレナージなどを適宜組み合わせて行う。
抗菌薬選択に関しては、薬剤感受性試験結果参考に、国内入手が可能で有効性期待できる抗菌薬の中から患者症状基礎疾患などを考慮し、最も適切な薬剤選択するまた、VRE同時にMRSA緑膿菌大腸菌肺炎桿菌などが分離される場合で、それらが症状主因考えられる場合には、それらの対す治療優先することも必要である。
予防手段としては、感染者保菌者)、排菌者からの伝播防止することを第一とする。VRE排菌している患者介護処置などの際に、汚染されている便や尿、ガーゼ喀痰、膿などの 処理に特に留意し医療職員や介護者の手指や医療器具などが汚染されないよう注意する
VRE排菌している患者擁する医療施設では、「排菌者の隔離」というよりは、手術などを予定しているハイリスク患者VRE伝播させないため、「ハイリスク患者の逆隔離」的な対策も重 要である。

感染症法における取り扱い2003年11月施行感染症法改正に伴い更新
バンコマイシン耐性腸球菌感染症は5類感染症全数把握疾患定められており、診断した医師7日以内最寄り保健所届け出る報告のための基準以下の通りとなっている。
診断した医師の判断により、症状所見から当該疾患疑われ、かつ、以下のいずれか方法によって病原体診断なされたもの
1)vanA、vanB型
病原体検出
 血液腹水胸水髄液など通常無菌的あるべき臨床検体から分離され当面は、便や尿から分離されるなど定着例が疑われるものを含む)で、以下の検査室での判断 基準満たすもの
バンコマイシンVCM)のMIC値が≧16μg/ml、あるいは分離におけるvanA、vanB遺伝子検出
なお、バンコマイシン生来耐性を示すLactobacillusPediococcus、Leuconostoc、Lactococcus などとの鑑別が必要である。
2)vanC型
報告対象
 ・血液腹水胸水髄液など通常無菌的あるべき臨床検体から分離されであって、vanC型遺伝子検出されたもの


国立感染症研究所細菌第二部 荒川宜親)





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