『わらいおおかみ』撤収要求事件とは? わかりやすく解説

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『わらいおおかみ』撤収要求事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/26 03:34 UTC 版)

さねとうあきら」の記事における「『わらいおおかみ』撤収要求事件」の解説

絵本『わらいおおかみ』(さねとうあきら文・井上洋介画)は、1973年ポプラ社より刊行された。佐々木喜善の『聴耳草紙』に収められた「あさみずの里」と「石」を典拠に、作者自由に発想した創作民話だった。 死助にあったという「どろぼう」に、旅人が一旦迷い込んだら、生きて出られなかった。夜のうちに村人殺され遺体谷間放棄されて、の餌になった。ある時、このハンセン病老婆やってくるが、さすがに身ぐるみ剥ぐ気も起こらず集まってくる廃寺追い払うその夜廃寺のあたりからの声が聞こえ老婆の姿は見えなくなったが、その日を境に、人家を襲うようになる怒った村人たちが、狩り敢行すると、狼の巣には老婆がいて、「だって助けてくれたのに、人は自分殺そうとする」と弾劾しながら、巣の中の子を守るため、全身銃弾受けて死ぬ。「お前たちは、人の皮をかぶったけだものだ!」と、その所行哄笑浴びせつつ……。 1974年11月、この絵本対し福岡県部落解放同盟田川地協子供会対策部より、作者画家出版社三者対し即時撤収要求書状送られてきた。その理由は この物語背景となった地理的条件」は被差別部落酷似している。谷間の陽もあたらない耕作出来ない劣悪な条件。「ひとごろし」「どろぼう」「人間の皮をかぶったけだもの」は、古来部落民投げかけられ言葉客観的にこの本が社会中に与える「部落は悪」という影響はかりしれない死助谷の人々部落民想定し死助谷の人々おおかみより悪と強調している。 『わらいおおかみ』の即時撤収要求したいが、どうか およそ以上であった。それに対し三者代表して作者が「回答書」を作成、 この作品のテーマは、村里から疎外された者同士(ハンセン病老婆)の連帯差別への怒り表現したもので、地理的条件酷似しているからといって部落民悪人決めつけるのには飛躍がある。 一人老婆犠牲的行為によって、殺人略奪生業とする村人行い自省生まれ、より人間性根ざした変革に至る過程描いており、長年いわれなき差別苦しんだ被差別部落人々にこそ、深く理解されるだろうと想定して明確な反差別」の視点描かれている。 ただし「客観的な悪影響」の具体例として、部落外の一般の人々がこの絵本読んで、「部落民どろぼう」といった偏見助長させてしまったら、作者としても等閑視してはいられないそれなりの措置(「撤収」を含む)をとるのにやぶさかでない と、制作者側の立場明らかにした上で、「即時撤収要求」については、著作者としていささか疑義があり、次の逆質問状」を送付した出版物撤回要求は、実質的な発禁処分」につながるが、部落解放同盟いかなる根拠で「表現出版の自由」を侵す権限があるのか 仮に撤回要求正統事由があったにせよ、それは部落解放同盟中央本部によってなされるのが筋で、一支部一部会の判断で行うのは、憲法保障され民主的権利対す冒涜ではないのか。また著作者側との慎重な討議の後に、撤収要求最終的措置として行使されるべきではないか。 『わらいおおかみのようなアクチュアルテーマは、今日児童書出版界において異端扱い受けて排除されやすい。部落解放同盟撤回要求により、このような作家作品抹殺されるのは必定であろうが、こうした措置部落解放運動発展如何に寄与するのか、あきらかにされたい と、部落解放同盟福岡県連に回答求めたのであるその後、およそ10ヶ月わたって文書による著作者部落解放同盟との論争続いた部落解放同盟福岡県連は調査団岩手県派遣して伝承にある「あさみずの里」が被差別部落ではなかったか、それを突き止めるべく仔細に調べ、また著作者側も刊行物安易に発禁とされるのを免れるため、部落解放同盟による撤収要求正当性(「不当」と訴えたことは皆無だった)を確認するために、数次督促状送付した1975年9月30日解放教育研究所事務局長中村拡三斡旋で、『わらいおおかみ』の作者部落解放同盟福岡県連をはじめ関係三団体との直接討論実現し6時間に及ぶ真摯な話し合いによって、双方納得の行く合意成立した部落解放同盟側は 全体的討議経ないで「撤収要求」を出したのは、遺憾であった今後公刊物撤回要求する場合は、十分な内部討議経てからとする。 さねとうあきら氏の創作方向性支持する。ただし、一般人かりそめにも部落=悪」と誤解しないよう、慎重な配慮期待したい著作者側は、『わらいおおかみ』の「あとがき」などを工夫して作意曲解されぬよう十分配慮すると約束して全面的に和解するところとなった。(「合意文書」は「解放教育」誌、1975年12月号に掲載されている) その後、「被差別部落現状を、肌身理解してほしい」との要望応えさねとうあきら福岡・熊本長崎などの部落解放同盟支部歴訪、その成果を「創作民話」の形にして、部落解放同盟機関紙解放新聞」に連載、『宮参り』(1988年 明石書店)『おおかみがわらうとき』(1997年 明石書店)『福餅天狗餅』(2005年 解放出版社)などに収めて上梓。また解放教育研究所編集人権読本にんげん』に「ばんざいじっさま」「ふたりのデェデラ坊」「つるの便り」等のさねとう作品採用され解放教育推進する有力な教材として、広く活用された。なお、絵本『わらいおおかみ』は、論争終結後増刷されることなく、現在は絶版になっている

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