軌条 製造

軌条

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/11 07:22 UTC 版)

製造

レールの刻印

製造方法

高温で熱した鋼塊(オレンジから黄くらいの色温度)を、ローラーを組み合わせて作られた圧延機に通して、圧延(熱延)する。圧延機は段階に合わせて数台あり、そこを複数回往復させる複雑な行程を経て製造される。不純物は両端にたまりやすいので、日本では長く作ってから両端を切断する方法がとられている。また、製造時では、レールに対して各種試験[注 2]を行い、レールの品質の確保を行っている。

製造されたレールの腹部には断面形状・質量・製造法・製造者名・製造年月などが刻印される[14][注 3]

材質と性質

材料としては強度・耐磨耗性・耐食性などから高炭素鋼が用いられる[15]。この材質は、刃物ほど硬くはないが、相当の靭性と耐接触疲労性があり、溶接が可能である条件を元に成分が決められている[注 4]腐蝕に対しては無塗装でも比較的良好な状態を保つ。海岸部では、錆の進行を抑える酸化皮膜が塩化物イオンにより破れるので、錆の進行が早くなる。地下水で湿潤なトンネルの中での錆の進行は意外に遅いが、廃線または線路の使用中止により、列車が上を通過しなくなった軌条は、錆の進行が進みやすくなる。これは列車の通過により巻き起こされる風の効果であることが判明している。十分な酸素の供給により不動態化するという説がある。また、車両からのオイルなどが表面を覆って、結果的に腐食を防いでいることもある[要出典]

損傷と寿命

レールの損傷は製造時の材質欠陥などによる先天的なものと、敷設後の車両荷重などによる後天的なものに大別される[14]

レールは輪重を直径10 mm(ミリメートル)を楕円形状した接触面で支えており、1GPa (ギガパスカル)に及ぶ応力が発生してレール表面が変形する中で車輪が通過することで、レールに様々な損傷が発生する[16]。こうした転がり接触によるレールの損傷には「レールシェリング」「きしみ割れ」「空転傷」「摩耗」が発生する[17]。レールの劣化メカニズムを解明するために有限要素法が有用であり、スーパーコンピューターを用いた大規模な並列計算によってシミュレーションする技術の開発が進められている[18]

レールには寿命があり、レールを取替えることでレールの性能を維持させる。50 kgレールでの摩耗によるレールの取替えは、高さで約15 mm、断面積で約20 %を許容限度としている。普通は10年 - 25年を標準として取替えているが、急曲線かつ輸送密度の高い区間では1年足らずで取替える場合がある。また、通過トン数では、2 - 5億トン位がレール交換の目安とされている。

摩耗

曲線で外軌のゲージコーナが車輪のフランジと接触することによる摩耗を「側摩耗」と称し、レール交換の主因となっている[19]。また、レール表面が一定の間隔で摩耗または塑性変形して連続した凹凸が発生する摩耗を「波状摩耗」と称し[19]、この摩耗は列車走行時に振動が発生し、騒音公害や保線上の問題が生じやすくなる[20]

腐食

電位差が大きい、排水が十分にできない場合は微弱電流による腐食(電食)が発生する[20]

トンネル海岸に近い路線では、レールの腐食が早く進行する[20]。特にトンネルの出入口から200 m 付近までのレールは塩分の飛来が起こりやすいが、雨などで流されることが無いため腐食が進みやすいという調査結果がある[21]

歴史

車輪またはソリが発明されて、重量のある物体の輸送が行われるようになると、地面が柔らかい場所では次第に深い轍(わだち)が刻み込まれて、それに沿って輸送されるようになった。轍は、雨が降って泥沼化した場合に輸送の障害となり、また轍と異なる方向へ向きを変える時にも大きな障害となるため、これに対処するために地面側での工夫を必要とした。路面全体に石を敷き詰めて舗装した場合は道路へと発展するが、車輪の間隔が一定のものに統一されている場合には、車輪の下に当たる部分にだけ板や石を敷き詰めるという対処も行われた。これは軌条(レール)の原始的なものと見ることができる。

軌条の登場

原始的なレール(軌条)を使って動物や人に荷車をひかせる方法は紀元前から行われていたとされ、ドイツ・フライブルクにあるフライブルク大聖堂のステンドグラス(1350年製作)にもその光景は残されている。16世紀のイギリスには無数の馬車軌道(ワゴンウェイ、Wagonway)があったとされている[22]

その後レールは鉱山地帯における輸送に広く用いられ、次第に改良が進められていった。当初はが貴重品であったための木が用いられていたが、磨耗が激しく保守担当者の悩みの種となっていた。1738年カンバーランドにおいて初めて鋳鉄を利用したレールが登場したが、これは木材の基盤の上に薄い帯状の鉄を貼り付けただけのもので[注 5]、しかもカーブなど磨耗しやすい場所にだけ用いられていた。1750年代頃になると、カーブだけではなく全ての区間で鋳鉄の板を取り付けることが一般化した。しかし鋳鉄は曲げに弱く、脱線事故も多発し続けた。

1767年、コールブルックデールの製鉄所技師、リチャード・レイノルズは、生産量が増加して余剰気味になってきた鋳鉄の使い道として、トロッコに使う目的のレールの生産を開始し、この時にレールにフランジが取り付けられた。レールの両側につばが取り付けられて、車輪の脱落を防ぐ仕組みとなっていた。しかしレールと車輪がきしみあってうまく走れず、また雨水や落ち葉などが溝に溜まるという問題があった。

1776年、ベンジャミン・カーがこの欠点を解消するために片方のつばを取り除いた、L字形のレールを発明した。これにより車両の走行は格段に容易となった。

フランジ付きの車輪

1789年、土木技師のウィリアム・ジェソップは、車輪側にフランジを取り付けて、レールの上面は平らにする方式を発明した。魚腹形と呼ばれる下側が膨れたレールを使用している。これにより大幅に脱線の確率が減少し、安定的に鉄道輸送を行うことが可能になった。このためジェソップは「鉄道軌道の父」と呼ばれている。

依然として鋳鉄によって製造されていたレールの折損が問題となっており、1803年にニクソンが錬鉄のレールを発明したが、技術面、コスト面の問題から使用されなかった。

蒸気機関車の登場

それまでは鉱山における資材輸送用のトロッコに用いられていただけであったレールは、蒸気機関車が登場することによって近代的な交通機関の一翼を担うことになった。初期には、平らなレールの上を鉄製の車輪を持った機関車で牽引しようとすると車輪が空転すると考えられており、1812年にジョン・ブレンキンソップによってラックレールが考案されたが、実験の結果、よほどの急勾配でない限りラックは不要であることが判明した。

初めての実用的な蒸気機関車を利用した鉄道である、リバプール・アンド・マンチェスター鉄道は、1830年に鋳鉄製のレールを使用して開業した。このため磨耗によりレールは頻繁に交換する必要があった。

様々なレールの発明

1831年、アメリカのロバート・スティーブンスが平底の現在用いられているのと同じようなレールを発明した。これは犬釘を用いることで簡単に枕木に固定することができるという長所があり、世界中に普及して現在のレールの原形となった。

1837年、イギリスのジョセフ・ロックが双頭レールを発明した[23]。レールをチェアくさびによって固定するもので、レールが上下が同じ形をしているためひっくり返すことでどちらも走行用に使用することができるというものであった[23]。しかし、チェアと底部の接触箇所で摩耗が生じ、ひっくり返しても円滑な走行面が得られなかった[23]

鋼鉄製レール

1856年、イギリスのヘンリー・ベッセマー転炉に空気を吹き込むことで鉄から炭素分を除去して鋼鉄を生産する方法を発明した。同年シーメンス兄弟が平炉を発明し、さらに1864年、フランスのピエール・マルタンが改良して工業化に成功し、シーメンス・マルタン法による鋼鉄の生産が可能となった。1877年、イギリスのシドニー・トーマスがベッセマー製鋼法を改良してリンを取り除くことができるようになった。これらの鋼鉄の生産に関する技術進歩を受けて、鋼鉄製のレールが一般に普及していった。

最初に鋼鉄製のレールが使用されたのは、イギリスのミッドランド鉄道ダービー地区で、ベッセマー製鋼法が発明されたすぐ翌年の1857年のことであった。それまで3ヶ月ごとに交換を必要としていた区間で、16年間交換なしに使用することができたとの記録がある。

現在のレールはスティーブンスの平底レールを鋼鉄を用いて作っているもので、材質や重量の増大などの点での進歩はあるが、基本的には19世紀に完成された技術で成り立っている。


注釈

  1. ^ ロングレールを積載した貨車は半径300 m程度のカーブを苦もなく通過するが、このことと安定した軌道を構成できることは全く別の問題である。
  2. ^ 引っ張り試験、荷重試験、破断面試験、曲げ試験、硬度試験、磨耗試験、腐食試験、顕微鏡試験を行う。
  3. ^ 日本の普通レールはJIS E 1101 により、レール腹面に鋼塊又は鋳片の頭部方向、レールの種類の記号、製鋼炉の記号、製造業者名又はその略号、製造年月又はその略号 について浮き出し表示を求めている。また逆の腹面には、鋼塊又は鋳片の順位番号、鋼塊注入順位記号、製鋼番号、作業組の記号、炭素含有量、マンガン含有量(60N、70S、80Sに限る)、鋼の種類(種類 AR は無表示)を刻印することを求めている。
  4. ^ 成分は、C 0.60-0.75%、Si 0.10-0.30% Mn 0.7-1.1% P≦0.035% S≦0.040% 引っ張り強さ≧80Kgf/mm2 伸び≧8%である。
  5. ^ 日本においても茅沼炭鉱軌道木道社藤枝焼津間軌道で木道が使用された。

出典

  1. ^ 西亀ら 1980, p. 121.
  2. ^ 高橋 2006, p. 519.
  3. ^ a b 天野ら 1984, p. 16.
  4. ^ 片岡 2007, p. 24.
  5. ^ 片岡 2007, p. 25.
  6. ^ JIS E 1101:2001 普通レール及び分岐器類用特殊レール. 日本規格協会. (2001/6/30) 
  7. ^ レール | 鉄道用語辞典 | 日本民営鉄道協会”. www.mintetsu.or.jp. 2020年1月10日閲覧。
  8. ^ 稲田 隆『鐵道工学 上巻』誠文堂〈総合工学全集2・土木工学科、13巻の7〉、1937年10月18日、299頁。
  9. ^ 天野ら 1984, p. 22.
  10. ^ “世界最長となる鉄道用 150mレールの製造・出荷体制を整備” (プレスリリース), 新日鐵住金, (2014年4月16日), http://www.nssmc.com/news/20140416_100.html 
  11. ^ 西亀ら 1980, p. 147.
  12. ^ 西亀ら 1980, p. 147,149.
  13. ^ “接着絶縁レールの継目構造とその製造方法” (pdf). RRR (鉄道総合技術研究所): 38-39. (8 2011). http://bunken.rtri.or.jp/PDF/cdroms1/0004/2011/0004005484.pdf 2017年11月6日閲覧。. 
  14. ^ a b 天野ら 1984, p. 19.
  15. ^ 片岡 2007, p. 27.
  16. ^ 名村ら 2007, p. 6.
  17. ^ 名村ら 2007, pp. 6-7.
  18. ^ 高屋 2015.
  19. ^ a b 名村ら 2007, p. 7.
  20. ^ a b c 天野ら 1984, p. 20.
  21. ^ 小代ら 2012, p. 986.
  22. ^ クリスティアン・ウォルマー著 安原和見・須川綾子訳『世界鉄道史』河出書房新社、2012年、p.28-29
  23. ^ a b c 片岡 2012, p. 28.
  24. ^ 佐伯ら 2013, p. 19-20.
  25. ^ 佐伯ら 2013, p. 20.
  26. ^ 西野ら 1982, p. 30.




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