熱 記法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/21 05:31 UTC 版)

記法

熱伝達で移されるエネルギー総量(amount of heat[10])は一般に Q で表され、一般に熱量と呼ばれる。その正負は、ある物質(熱力学系)が外界に熱を放出する場合を負(Q < 0)、ある物質が外界から熱を吸収する場合を正 (Q > 0)とするように定義される。

単位時間当たりの熱流 (heat transfer rate) は熱量の時間微分として表される。

熱流束 (heat flux) は単位面積の断面を通過する単位時間当たりの熱流と定義され、q と表記される。

内部エネルギー

熱に関連する内部エネルギーという用語は、物体の温度を上げることで増加するエネルギーにほぼ相当する。

は系の内部エネルギー とその系がなす仕事 とに関係し、熱力学第一法則によれば次のようになる。

すなわち、系の内部エネルギーは仕事によっても熱力学的系の境界を越えた熱流によっても変化する。より詳細に言えば、内部エネルギーとは系内の微視的形態のエネルギーの総和である。それは分子の構造や分子の活動度と関連し、分子群の運動エネルギーと位置エネルギーの総和と見なすことができる。それは次のような種類のエネルギーで構成される[11]

乱雑な分子の並進運動のエネルギーと分子内の回転・振動運動のエネルギー、分子間の相互作用によるエネルギーや原子核エネルギーなどの和を、物質の内部エネルギーと呼ぶ。

定圧の理想気体に対して熱の形でエネルギーが流入すると、内部エネルギーが増大し、体積が制限されていなければ体積の変化(系の境界に対する仕事)が起きる。第一法則に立ち返り、系がなす仕事を「境界 (boundary) に対する仕事」と「その他 (other) の仕事」に分けると、次のようになる。

エンタルピー であり、熱力学ポテンシャルの1つである。エンタルピー と内部エネルギー は共に状態関数である。熱機関のような循環過程では、1サイクルが完了すると状態関数が初期値に戻る。一方 も系の属性でないとき、循環のステップ上で総和が0になるとは限らない。熱の無限小の表現 は、仕事に関する過程の不完全微分を形成する。しかし、体積が変化しない過程などでは 完全微分を形成する。同様に(熱の移動がない)断熱過程では、仕事の式は完全微分を形成するが、熱の移動を伴う過程では不完全微分となる。

エンタルピーと内部エネルギー交換

ある物体(系)の温度変化とそれに要するエネルギーの比を熱容量と呼ぶ。また、単位質量、単位物質量、または単位体積あたりの熱容量を比熱容量と呼ぶ。

定積熱容量と定圧熱容量

ピストン内の気体のような単純な圧縮可能な系では、エンタルピーと内部エネルギーの変化はそれぞれ定圧熱容量と定積熱容量とに関連付けることができる。体積を一定に保つ(定積)条件の下では、初期温度 T0 から最終的な温度 Tf に変化させるのに要する熱 は次の式で表される。

一方、圧力を一定に保つ(定圧)条件の下では、熱は次の式で表される。

圧縮できない物質

定圧過程において系の体積変化を無視できる場合、外界へ仕事がなされず、内部エネルギーとエンタルピーの変化は一致する。このとき、 は等しくなる。

比熱容量

比熱容量とは、単位質量当たりの熱容量である。熱容量は注目している系全体のエネルギーと温度の関係を示したものだが、比熱容量は系を構成する物質やその結晶構造の性質を示す。

十分低温な液体では、量子効果が重要になる。例えばヘリウム4のようなボース粒子の挙動がある。その場合、ボース=アインシュタイン凝縮点を境として比熱容量は不連続に変化する。

固体の振る舞いは、古典的にはデュロン=プティの法則によって説明されるが、これは比較的高温の領域でのみ成り立つ。低温の固体の振る舞いはデバイ模型によって説明できる。金属のように伝導電子の寄与がない場合、比熱への寄与は格子振動によるものが主となる。デバイ模型において、デバイ温度より十分低温の領域では比熱容量は温度の3乗に比例する。 一方、金属中の伝導電子の挙動を考慮する場合、第二項としてフェルミ分布関数などを必要とする。

モル熱容量と比熱容量

単位物質量当たりの熱容量をモル熱容量と呼ぶ。モル熱容量と比熱容量は、体積や分子数といった示量変数ではなく系の内部自由度に依存している。一方、熱容量は系の分子数に依存する示量変数である。

熱容量は質量 比熱容量 の積で表される。

あるいは、モル数とモル熱容量 から次のようにも表される。

エントロピー

1856年、ドイツの物理学者ルドルフ・クラウジウス熱力学第二法則を定義し、そこで熱 Q と温度 T から次のような値を考えた[12][13]

そして1865年、この比をエントロピーと名付け、S と表記するようにした。

従って、熱の不完全微分 δQTdS という完全微分で定義されることになる。

言い換えれば、エントロピー関数 S は熱力学的系の境界を通る熱流の定量化と測定を容易にする。


  1. ^ Discourse on Heat and Work - Department of Physics and Astronomy, Georgia State University: Hyperphysics (online)
  2. ^ Perrot, Pierre (1998). A to Z of Thermodynamics. Oxford University Press. ISBN 0198565526 
  3. ^ Schroeder, Daniel V. (2000). An introduction to thermal physics. San Francisco, California: Addison-Wesley. p. 18. ISBN 0-321-27779-1. "Heat is defined as any spontaneous flow of energy from one object to another, caused by a difference in temperature between the objects." 
  4. ^ Baierlein, Ralph (2003). Thermal Physics. Cambridge University Press. ISBN 0521658381 
  5. ^ a b F. Reif (2000). Fundamentals of Statistical and Thermal Physics. Singapore: McGraw-Hll, Inc.. p. 66. ISBN 0-07-085615-X 
  6. ^ Smith, J.M., Van Ness, H.C., Abbot, M.M. (2005). Introduction to Chemical Engineering Thermodynamics. McGraw-Hill. ISBN 0073104450 
  7. ^ 計量法 別表第1、「熱量」の欄
  8. ^ 計量単位令 第5条及び別表第6(項番13)
  9. ^ 中学校学習指導要領解説、理科編p.43、文部科学省、2008年7月。「電力量の単位はジュール(記号 J)で表されることを扱い,発生する熱量も同じジュールで表されることや日常使われている電力量,熱量の単位にも触れる。」
  10. ^ BIPM 著、産業技術総合研究所 計量標準総合センター 訳『国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版』産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月https://unit.aist.go.jp/nmij/public/report/SI_9th/pdf/SI_9th_日本語版_r.pdf  p.133 右下の欄外注記:現代の「熱量」の英語表記は quantity of heat でなく amount of heat である。なぜなら、計量学において単語 quantity に別の意味が有るからである。
  11. ^ Cengel, Yungus, A.; Boles, Michael (2002). Thermodynamics: An Engineering Approach (4th ed.). Boston: McGraw-Hill. pp. 17–18. ISBN 0-07-238332-1 
  12. ^ Published in Poggendoff’s Annalen, Dec. 1854, vol. xciii. p. 481; translated in the Journal de Mathematiques, vol. xx. Paris, 1855, and in the Philosophical Magazine, August 1856, s. 4. vol. xii, p. 81
  13. ^ Clausius, R. (1865). The Mechanical Theory of Heat] –with its Applications to the Steam Engine and to Physical Properties of Bodies. London: John van Voorst, 1 Paternoster Row. MDCCCLXVII.






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