出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/15 19:22 UTC 版)
熱力学において準静的過程という概念を最初に使用したのは、フランスの科学者ニコラ・レオナール・サディ・カルノーである[12]。
カルノーは1824年に出版した著書『火の動力、および、この動力を発生させるに適した機関についての考察』において、熱から効率的に動力を生み出す手法について論じた。当時の熱理論はカロリック説(熱素説)が主流であったため、カルノーもこの説を基に論を進めた。カロリック説とは、熱とはカロリック(熱素)と呼ばれる物質が原因であるという説である。
カルノーは、高温の物体から低温の物体へとカロリックが移動するときに圧縮・膨張などの体積変化が起こり、動力が発生すると考えた[13]。そして、動力を発生させずにカロリックが移動することは熱機関としては損失となるため、最も効率よく熱から動力を生み出すには、「熱の動力を実現するために使用される物体において、体積変化によらない温度変化がまったく生じない[14]」ことが必要だと述べた。
これをふまえたうえで、カルノーは、蒸気が入ったピストンを高温源と接触させ、蒸気が高温源からカロリックをもらって膨張する過程を考えた。このとき、高温源と蒸気の間に温度差があると、カロリックが高温源から蒸気へ直接移動して両者の温度がつりあうことになるが、これはカルノーの考える「体積変化によらない温度変化」にあたるため、動力の損失となる[14]。したがって最大効率の動力を得るためには、温度変化が起こらないこと、すなわち高温源と蒸気は同じ温度であることが必要となる[14]。しかし現実的には、同じ温度ではカロリックは移動しないので、カルノーは次のように述べた。
実際には、われわれが仮定したとおり正確にことが運ぶことはありえない。一つの物体から他の物体へ熱素の移動が生ずるためには、第一の物体のほうがより高温でなければならないからである。しかし、この温度差は、いくらでも小さいと考えることができるから、理論上はゼロとおいても、考察の厳密さは損なわれない。[15]
続けてカルノーは、自らが考案した動力発生の過程(後にカルノーサイクルと呼ばれるようになる)について考えた。この過程では、高温源Aと低温源Bを用意し、蒸気は高温源Aからカロリックをもらって膨張し、その後に低温源Bにカロリックを受け渡して収縮する[16]。これを繰り返すわけであるが、AとBの間に温度差がある以上、温度差のある物体同士の接触が起こってしまい、動力の損失となってしまう[15]。
これを解決させるため、カルノーは次のように考えた。
この困難を除くには、物体AとBとの温度差が無限に小さいと仮定すればよい。こう仮定すると、物体をふたたび最初の温度にまで熱するのに必要な熱量は無限に小さくなるから、蒸気の発生に必要な、つねに有限の大きさの熱量にくらべて無視することができる[15]。
温度差が無限に小さい場合、系の変化は無限にゆっくり進むので、この過程は準静的過程となる[17]。カルノーの論文は発表当時こそほとんど話題にならなかったが、後にエミール・クラペイロンやウィリアム・トムソン(ケルヴィン卿)によって紹介され、広く知られるようになった[18][19]。論文でカルノーが使用したカロリック説は熱力学の発展とともに否定されたが、準静的過程という発想は、その後熱力学における基本的な考え方となった。
辞書ショートカット
カテゴリ一覧
+ ビジネス
+ 業界用語
+ コンピュータ
+ 電車
+ 自動車・バイク
+ 船
+ 工学
+ 建築・不動産
+ 学問
+ 文化
+ 生活
+ ヘルスケア
+ 趣味
+ スポーツ
+ 生物
+ 食品
+ 人名
+ 方言
+ 辞書・百科事典
すべての辞書の索引
Weblioのサービス
準通貨
準郊外
準都市計画区域
準鉱物
準長石
準防火地域
準静的過程
溜
溜席
溜息と不安の夜に
溜池 (曖昧さ回避)
溜池Now
溜池ゴロー
準静的過程のページの著作権 Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。
ビジネス|業界用語|コンピュータ|電車|自動車・バイク|船|工学|建築・不動産|学問文化|生活|ヘルスケア|趣味|スポーツ|生物|食品|人名|方言|辞書・百科事典
・Weblio辞書とは
・検索の仕方
・ヘルプ
・利用規約
・プライバシーポリシー
・サイトマップ
・ウェブリオのアプリ
・画像から探す
・お問い合わせ
・公式企業ページ
・会社情報
・採用情報
・Weblio 辞書
・類語・対義語辞典
・英和辞典・和英辞典
・Weblio翻訳
・日中中日辞典
・日韓韓日辞典
・フランス語辞典
・インドネシア語辞典
・タイ語辞典
・ベトナム語辞典
・古語辞典
©2025 GRAS Group, Inc.RSS