地衣類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/22 13:32 UTC 版)
生育環境
見かけがコケと同じようなものであるのと同様、生育環境もコケと共通するものが多い。背の高いものが少ない点も共通である。
地表、岩の上、樹皮上などに着生するものが多い。霧のかかるような所では種類が多いことも同様である。日本の温帯林では、サルオガセが樹上から垂れ下がるのが、よく目立つ森林がある。都会でもコンクリートの表面に出るものがある。
他の植物が生育できないような厳しい環境に進出できる。低温、高温、乾燥、湿潤などの環境をはじめとして、極地など寒冷な地域や、火山周辺など有毒ガスの出る地域にも特殊なものが生育する。この点、地衣類は菌類と藻類の共生体だが、そのどちらよりも厳しい環境に耐えることができる。
他方、水中や雪の上、室内や光の届かない洞窟などには生育せず、大気汚染に弱いことも指摘されている。樹皮上に着生するウメノキゴケなどの地衣類は、自動車の排気ガスに弱く、樹木に着生する地衣類は大気汚染の良い指標となることが知られている。たとえば公園の樹木を見ても、大通り側の樹木には地衣類が着生していない、といった現象がたやすく観察される。そういった意味では指標生物としても利用される。
性質の一側面
地衣類は成長が遅く、寿命が長い。個々の部分は特定の季節に急に出てきたりすることはなく、だいたいどの季節も同じような姿をしている。従って、観察はどの時期にでも出来る。
地衣類は基本的には菌類ではあるがそのような感覚では培養が難しく、また成長が非常に遅いため、そういった方法では扱い難い。大きさはコケ並みであるから野外での観察採集が可能であるから、実際には野外で探しながら採集するのが普通の収集方法である。しかし、コケと異なり、その構造が菌糸であり、一回り細かい。たとえば痂状地衣は基質に完全に密着している。樹皮につくものなら樹皮ごと削り取れば採集できるが、岩に張り付いているものはかち割らねば取れない。さらにその構造はコケより単純であり、肉眼でも虫眼鏡でも届かないレベルである。その一部は化学物質でしか区別するのは困難である。
利用
実用的価値のあるものは少ない。
薬用
サルオガセ(Usnea)属のナガサルオガセ(Usnea longissima)やヨコワサルオガセ(Usnea diffracta Vain.)は、マツ類によく着生することから、松蘿(しょうら)ともいい、中国や韓国では、乾燥したものを、漢方薬として用いている。利尿作用や強壮作用があるという[5]。
染料
酸性アルカリ性の判定に使うリトマス紙は地衣類であるリトマスゴケから得られるものである。 また、ヨーロッパにおいては古くから多くの地衣類が染色用として用いられてきた。 さらにロウソクゴケはあざやかな黄色を蝋燭の染色に用いたためこの名がある。
食用
中国ではムシゴケ(Thamnolia vermicularis)を乾燥させたものが茶として利用されている[6]。この「雪茶」を大量に摂取したためと疑われる肝機能障害が報告されている[7]。
その他
極地ではハナゴケ類などがトナカイなど家畜の餌に利用されることもある。また、ハナゴケの仲間はそのままの形で緑に染めて、鉄道模型やジオラマの樹木として用いられることもある。
- ^ 柏谷博之 2009, p. 10.
- ^ 白水貴(日本語) 『奇妙な菌類 ミクロ世界の生存戦略』NHK出版、2016年4月9日。ISBN 9784140884843。
- ^ 杉山純多, 岩槻邦男 & 馬渡峻輔 2005, p. 308.
- ^ 柏谷博之 『地衣類のふしぎ コケでないコケとはどういうこと? 道ばたで見かけるあの“植物”の正体とは?』SBクリエイティブ、2009年10月24日。
- ^ 嶋田英誠. “野草譜 サルオガセ”. 跡見群芳譜. 2021年1月29日閲覧。
- ^ 黒川逍 1996, pp. 12–13.
- ^ “「雪茶」との関連が疑われる肝障害の事例”. 「健康食品」の安全性・有効性情報. 国立健康・栄養研究所. 2021年1月29日閲覧。
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