SLATSとは? わかりやすく解説

スラッツ【SLATS】

読み方:すらっつ

super low altitude test satellite》⇒つばめ[二]


つばめ (人工衛星)

(SLATS から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/18 03:51 UTC 版)

超低高度衛星技術試験機「つばめ」
(SLATS)
所属 JAXA
主製造業者 三菱電機
公式ページ 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)
日本
運用者 JAXA
国際標識番号 2017-082B
カタログ番号 43066
目的 超低軌道を飛行する衛星技術の確立
設計寿命 2年以上
打上げ場所 種子島宇宙センター
打上げ機 H-IIAロケット37号機
打上げ日時 2017年12月23日[1]
運用終了日 2019年10月1日
停波日 2019年10月1日
物理的特長
本体寸法 打上時:2.5×1.1×0.9 m
軌道上:2.5×5.2×0.9 m[2]
質量 383kg[2]
キセノン:13.3kg
ヒドラジン:34.5kg[3]
発生電力 1,174 W以上[4]
主な推進器 20mNイオンエンジン×1[5]
1Nガスジェット×4
軌道要素
周回対象 地球
軌道 円軌道
高度 (h) 軌道遷移フェーズ
:393km以下
軌道保持フェーズ
:271.5 - 181.1km
後期運用段階:167.4km
搭載機器
原子状酸素 (AO)
モニタシステム
原子状酸素を観測する
材料劣化モニタ 熱制御材の劣化を監視する
小型高分解能光学
センサ SHIROP
低高度から高解像度の画像を得る。パンクロ画像。
光学センサ OPS カラー画像
引用資料[6]
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つばめ(超低高度衛星技術試験機、SLATSSuper Low Altitude Test Satellite)は、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が開発した、人工衛星の超低軌道飛行技術の確立を目的とした人工衛星。2017年平成29年)12月23日にH-IIAロケット37号機によりしきさいと相乗りで打ち上げられた[7]。プロジェクト総資金は34億円[4]

2019年4月2日以降、271.5kmから181.1kmの超低軌道の軌道保持運用を実施し、イオンエンジンによる軌道保持・大気密度データの取得・原子状酸素データの取得・超低高度からの光学撮像等を実証した[8][4]。また、イオンエンジンとガスジェットエンジンを併用して高度167.4kmを周回しギネス世界記録に認定された[4][9]

概要

従来の地球観測衛星は低軌道でも高度600から800km程度を保ち、つばめで実証した高度300km以下の超低軌道ではそれと比較して大気密度が高いことから1000倍以上の空気抵抗を受けてしまうため、衛星の速度が低下して高度が急速に落下し長期継続的な活動は不可能であった。一方、超低高度での継続的な地球観測が実用化できれば、衛星はより地上に近い位置で活動できるため同じ性能のセンサでも取得データは高分解能となり、従来高度での撮像能力を維持するならば小型・軽量化が可能になる[10]

周回軌道は太陽非同期軌道とし、高度268 km以下ではイオンエンジンの電力確保のため降交点通過地方時刻が16時となるドーンダスク軌道に近い軌道がとられる[11]

運用

つばめは2017年12月23日にH-IIAロケット37号機により、しきさいを高度793kmで分離した後、2度ロケットを燃焼させて高度481kmまで低下したところで分離された[12][13]。投入軌道は遠地点643 km×近地点450 kmの楕円軌道であり、3ヶ月の機能性能確認期間にガスジェットエンジンを使って高度392 kmの円軌道に移行した[4]

2018年4月から軌道遷移フェーズとして太陽電池パドルを進行方向に向けたエアロブレーキ姿勢に入り、大気抵抗を大きくして燃料消費を抑えながら高度を下げる。

2019年4月、高度271.5 kmでエアロスルー姿勢(光学観測姿勢)に移行して大気抵抗を最小化し、機体に生じる空気抵抗に相当する力をイオンエンジンの推進力で補償する軌道維持を開始。271.5、250、240、230、216.8、181.1kmの超低高度で速度を維持することに成功し、更に後期運用段階ではイオンエンジンの出力だけでは高度を保持できない際に、ガスジェットを自律的に併用することで高度167.4kmを9日間保持した[4]。高度216.8kmにおける大気抵抗はだいち2号の高度(628km)と比較して約3500倍であった[14]

軌道保持運用は2019年9月30日 9時42分に終了し、10月1日 19時13分に停波作業を実施、運用を終了した[15]

また、超低高度での原子状酸素の影響による金色の熱制御材(多層インシュレーション:Multi Layer Insulation)のポリイミドフィルムの劣化をモニタリングする装置も備え、軌道高度300 km以下における長期間(6か月)の原子状酸素量の計測や大気曝露による材料劣化のモニタリングを世界で初めて実施し、JAXAが開発した材料が長期間の原子状酸素の曝露に耐えることも実証した[15][6]

搭載機器

イオンエンジン

つばめでは、従来から衛星のエンジンとして一般的に使われているガスジェットエンジン(化学エンジン)に比べて、燃料の使用効率が10倍高いキセノンイオンエンジンを採用することで長期間にわたって軌道高度を維持できるようにする。キセノンイオンエンジンは小惑星探査機はやぶさで使用されたことで有名になったが、つばめでは技術試験衛星きく8号で採用されたイオンエンジンのXIESに改良を加えたものを使用する[6]

小型高分解能光学センサー (SHIROP:Small and High Resolution Optical Sensor)[11]

  • 有効開口径:20cm
  • 焦点距離:2m
  • 観測波長:0.48μm - 0.7μm(モノクロ)
  • 地上分解能 (GSD)[16]
    • 高度271km:73cm
    • 高度217km:59cm
    • 高度181km:49cm
  • 視野角:17.7mrad(CT:衛星進行方向と直交)×11.8mrad(AT:衛星進行方向)[16]
    • 高度217kmで3.8km(CT)×2.5km(AT)
  • 望遠鏡方式:カセグレン型+補正レンズ
  • 検出器:2次元CCD、TDI撮像(最大64段階)
  • 解像度:6,576px × 4,384px[16]
  • 重量:19.4kg
  • 電力:27.8W(保温ヒータ含めて33W)

GPS受信機を搭載し指定した撮像地点に応じて撮像時刻を自律決定する[11]

小型光学センサ (OPS)[8]

  • 観測波長:カラー画像
  • 空間分解能:30 m級
  • 口径:2cm
  • 質量:1.9kg

原子状酸素モニタシステム(AMO)

原子状酸素衝突フルエンスセンサ(AOFS)

  • 構成:コントローラ、センサヘッド6台、コンタミモニタヘッド2台[10]
  • センサ寸法:直径12.2mm、高さ15.0mm[4]

材料劣化モニタ(MDM)

カメラで1週間に1度、試料サンプルの劣化状態を撮影する[10]

  • 試料
    • MLI(多層断熱材)最外装材料
      • 耐AOコーティング/ポリイミドフィルム(UPILEX-R)/Al
      • 耐AO性ポリイミドフィルム(BSF-30)/Al
      • UV遮蔽コーティング/耐AO性ポリイミドフィルム(BSF-30)/Al
      • ベータクロス/Al
    • 配線
      • Expanded PTFEケーブル(直径1.18、1.35、1.58mm)
      • ETFEケーブル
    • OSR(熱制御材)
      • FEPフィルム(1mil、5mil)/Ag
      • ITOコーティング/FEPフィルム(5mil)/Ag
    • モニタ材料
      • ベスペル(AO衝突量の把握目的)

その他

脚注

  1. ^ H-IIAロケット37号機(高度化仕様)による気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)および超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の打上げについて』(PDF)(プレスリリース)JAXA、2017年10月27日https://www.jaxa.jp/press/2017/10/files/20171027_h2af37_j.pdf2017年10月27日閲覧 
  2. ^ a b つばめ(SLATS)”. JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター. 2023年8月27日閲覧。
  3. ^ 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS) の運用結果について|2020年1月24日 JAXA 第一宇宙技術部門 SLATS プロジェクトチーム”. JAXA. 2024年10月25日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS) プロジェクト終了審査の結果について|2020年2月19日 宇宙航空研究開発機構”. 文部科学省. 2024年10月24日閲覧。
  5. ^ 和孝, 西山、紀世志, 杵淵「電気推進ロケットエンジンを用いたミッションの現状と今後」『プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research / プラズマ・核融合学会編集委員会 編』第94巻第2号、2018年2月、60–65頁。 
  6. ^ a b c 佐々木 雅範 (2015年6月). “超低軌道を飛行する衛星技術の確立をめざして”. JAXA. 2017年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年7月3日閲覧。
  7. ^ 気候変動観測衛星「しきさい」と試験衛星「つばめ」打ち上げ成功 産経ニュース 2017年12月23日
  8. ^ a b JAXA | 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の軌道保持運用について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2024年10月24日閲覧。
  9. ^ a b JAXAの人工衛星「つばめ」が軌道高度167.4 kmを達成し、ギネス世界記録に認定”. ギネスワールドレコーズジャパン. 2024年10月25日閲覧。
  10. ^ a b c 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の開発と運用状況|平成30年9月18日 SLATSワークショップ@ソラシティ御茶ノ水カンファレンスセンター JAXA 第一宇宙技術部門 SLATS プロジェクトチーム”. JAXA. 2024年10月25日閲覧。
  11. ^ a b c 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)による地球観測」『写真測量とリモートセンシング』第56巻第5号、日本写真測量学会、2017年、248-251頁、2019年9月5日閲覧 
  12. ^ JAXA | H-IIAロケット37号機(高度化仕様)による気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)および超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の打上げについて”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2024年10月24日閲覧。
  13. ^ Ltd, Mitsubishi Heavy Industries (2017年12月23日). “三菱重工 | H-IIAロケット37号機(高度化仕様)による気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)および超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の打上げ結果について”. 三菱重工. 2024年10月24日閲覧。
  14. ^ 「つばめ」の軌道制御結果|超低高度衛星の利用に向けたワークショップ(第5回)2020年1月24日 JAXA 第一宇宙技術部門 SLATS プロジェクトチーム”. JAXA. 2024年10月25日閲覧。
  15. ^ a b JAXA | 超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)の運用終了について”. JAXA | 宇宙航空研究開発機構. 2019年12月24日閲覧。
  16. ^ a b c 小型高分解能光学センサ(SHIROP)の軌道上運用成果”. JAXA. 2024年10月25日閲覧。
  17. ^ ~宇宙から応燕宣言~ 人工衛星「つばめ」に写ろう!”. 東京ヤクルトスワローズ (2019年4月19日). 2024年10月25日閲覧。
  18. ^ ~宇宙から応燕宣言~人工衛星「つばめ」が撮影した写真公開!”. JAXA 地球観測衛星特設サイト. 2024年10月25日閲覧。
  19. ^ JR九州×JAXA コラボ企画 | 企業・IR・採用 | JR九州”. www.jrkyushu.co.jp. 2024年10月25日閲覧。
  20. ^ INC, SANKEI DIGITAL (2019年12月24日). “世界最低高度で飛行 JAXAの地球観測衛星がギネス認定”. 産経ニュース. 2019年12月24日閲覧。

関連項目

外部リンク

JAXA 第一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター
つばめ (SLATS)


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