401(k)のメリット
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/17 05:47 UTC 版)
401(k)は年金コスト削減手段を求める雇用者側にとっても需要があることが判明した。ほとんどの場合、確定拠出型制度のほうが確定給付型制度よりも雇用者側の負担は少なくなる。確定給付年金プランのコストが年々変わって予測不可能であり、企業はもはや雇用していない退職者のための費用を延々と負担し続けるのに対して、401(k)プランでは企業の責任は労働者を雇用している間に限られ、雇用者のコストを予測可能なものとする。例えば、2009年にゼネラルモーターズが破綻した大きな原因の一つは、退職者に対する企業年金の支払いはもとより、その家族の医療費補助などまでも会社が負担すると言う、退職者に対する過剰とも言える手厚い保障であった。 このため、例えば新興企業の起業・消滅と労働者の転職が頻繁で雇用関係が著しく流動的なシリコンバレーのハイテク企業では、ごく普通の退職基金プランとして普及・定着しており、2014年現在全米で7千万人以上の勤労者が利用している。また、伝統的な大企業でも従来の確定給付年金制度から401(k)に移行する例が数多く見られ、例えば、航空機産業の大手ボーイング社(本社ワシントン州)は、2013年に業績好調のため他の22州からの優遇条件付生産工場の移転の申し出を受けたが、これらを断ってワシントン州で生産と雇用を続ける代わりに、労働組合に従来の確定給付年金制度から401(k)に移行する条件を飲ませた。この移行は、労働組合にとっては厳しいものと受け止められた。2014年7月1日、防衛産業最大手のロッキードマーチン社は、113,000人の従業員のうち48,000人の加入する現行の確定給付年金制度を2020年1月1日までに確定拠出制度に移行すると発表した(確定拠出制度の開始は2016年1月1日から)。ロッキードマーチンは、この移行は退職制度に関わるコストの長期的に予測可能な管理を可能にするとともに、2020年までに現行の制度を終了しない場合は多大な連邦税制上の制裁に直面するとも言っている。 合衆国労働局の調査によれば、1980年には私企業で働く38%の労働者が企業年金を持ち401(k)は19%に過ぎなかったが、2015年には企業年金が15%で401(k)が45%と完全に逆転した。 また、401(k)は政府にとってもメリットがある。なぜなら、労働者が名実共に自分の退職基金口座を維持することにより、退職後の生活資金に関する自助意識が高まり、相対的に社会保障のような公的年金や公的扶助に対する依存度が低下することが期待されるから。個人にも優遇税制で自助努力を奨励する、典型的なアメリカの伝統的政策と言える。 しかし、401(k)の数多くのメリットを享受できるのは、一定規模(通常は従業員10人程度)以上の私企業に雇用されている中流以上の階層の労働者に限られることも事実である。雇用されている企業にプランが存在していても、最低賃金を少々上回る程度の賃金から401(k)に拠出する余裕などない労働者や、そもそもプランを持たない零細企業の従業員は401(k)の恩恵を受けることはない。例えば、夫婦共に50歳以上のカップルの場合、年間最高4万8千ドルまで(2015年度)課税前賃金から拠出でき(ただし拠出限度いっぱいに拠出している利用者は全体の5%程度と推計される)、その基金は課税繰り延べで運用益を産む一方、401(k)を利用できない労働者にはこの税制上の特典は全く無価値である。このため、富める物はさらに富み、窮する者はさらに窮するという経済格差拡大の原因の一つであると言う批判的な見方もある。 さらに、401(k)は新たな学歴による格差を現していると言う指摘もある。上記の企業年金と401(k)の割合に関する労働局の統計を引用する記事は、賃金支払源泉徴収票(W2)の調査を基にした別の研究者の発表などを引用し、以下の比較を紹介している ほぼ同レベルの仕事内容と賃金の大学卒の労働者と高校卒の資格しか持たない労働者では、同じ401(k)が提供されていても前者は後者より平均で26%多く拠出 統計的中央値の大卒者が年間2,000ドル以上退職基金に拠出するのに対し高卒者はゼロ 大卒者の83%が401(k)を含む何らかの企業提供の退職基金を使えるのに対して、より低賃金の傾向の強い高卒者では62%、高校中退者は43%に止まる 401(k)を提供する企業で働く大卒者の80%以上が401(k)を利用するが、高卒、高校中退者のそれぞれ69%と61%未満しか利用しない 大卒者は賃金の平均7.3%を退職基金に拠出するが、高卒者は5.1%(専門家は10~15%の拠出を推奨) これらの格差を埋める目的で労働者に対する教育を施しても限界があるとして、一部の企業では労働者から減額や脱退の申し出がなければ自動的に401(k)に加入させ賃金の一定割合を拠出させるオプトアウトを設定したり、州によっては401(k)を利用できない労働者に複雑な書類記入などせずに自動的に投資先を選べる州の退職基金プランに強制加入させる動きなどがある。 低所得者に配慮し、401(k)のメリットを幅広い層に享受させるため、年間AGI(Adjusted Gross Income =課税対象所得)50,000ドル未満(夫婦合算申告の場合)の世帯には401(k)の拠出額の最高50%(夫婦合算申告AGI 30,000ドル未満、単身申告AGI 15,000ドル未満、いずれも2013年現在)の所得減税制度が設けられている。また、年間給与が255,000ドルを超える従業員は401(k)に拠出できない(2013年現在)。 アメリカ合衆国大統領バラック・オバマは、2014年1月28日の一般教書演説で、「株式市場(の価値)は過去5年間で倍増したにも関わらず、401(k)を持たない人々はその恩恵を受けていない」と指摘し、低所得~中所得の投資初心者が自分で退職資金を形成するのを援助するために、元本確保と相等の利益を保証した、貯蓄国債(US savings bond)に類似した「myRA(my retirement account、私の退職資金口座)」投資制度を創設すると発表した(IRAの項を参照)。
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