革命以降の発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/20 07:49 UTC 版)
1989年のルーマニア革命によって共産主義政権が崩壊すると、文化界は盛り上がったが、移行や自由市場経済の導入がうまくいかず、決してその道のりは平坦ではなかった。文化活動の国家による政治的統制が解けたことは、長い間夢見られていた表現の自由を獲得することにつながったが、同時に補助金がなくなり、初期の未熟な市場経済下においては、資金不足、物資不足に苦しむこととなった。文化活動にはほかにも様々な問題が生じた。その1つが、人々の関心が雑誌やテレビなどほかのものへと移ったことである。文化振興のための新たな政策が地方政府に委ねられており、現在では浸透するようになってきている。 革命後、共産党の検閲によって出版が叶わなかった本が一斉に世に出ることとなった。数多くの本が出版され、売り上げも伸びたため、多数の出版社が設立された。しかし、すぐに飽和状態となり、経営の悪化、売り上げの低下、補助金の不足が重なったことから、出版社は縮小を余儀なくされる。多くの出版社は、数冊を出版した後、廃業している。一方で一部企業は、出版物を変更して翻訳書を中心とする商業的な書籍を出版し、国営出版社は活動休止状態となった。このような企業は政府の財政支援も受けて生き残ったが、出版規模は縮小している。廃業を免れた企業は、生き残りのための工夫として、本の質や外装を改善し、市場志向の出版を行うようになっている。著名なルーマニアの出版社として、ブカレストのヒューマニタス出版社、ヤシのポリロム、技術書や辞書を専門とするテオラがある。一部の出版社は自前の書店を開設し、古い国営の書店に代わって、私企業の運営する書店チェーンが台頭してきている。 文化的な志向をもった新聞各紙も同様にブームと破綻の運命を辿った。この困難のなか生き残った一部の新聞社は、質を高め、批評的な方針を維持することができた。『ディレマ・ヴェーチェ(古いジレンマ)』や『リビスタ22』、『文化評論家 (Observator Cultural)』は、ルーマニア文化を扱う週刊誌として、その評判を維持している。また、国営ラジオであるルーマニア文化ラジオ (Radio România Cultural) や国営放送のTVRカルチュラルも文化番組を制作しているが、それほどの人気は獲得できずにいる。 多くの若い新人作家も登場したが、予算的な制約があったため、良い評価を受けた者だけが金銭的援助のもと自身の作品の出版を許された。このような作家の支援をする機関であったルーマニア作家組合は、1989年の革命以降も大きな変化はなく、その活動や目的を巡っては批判も受けた。ミルチャ・カルタレスク、ホリア・ロマン・パタピエビッチ、アンドレイ・プレシュ、ガブリエル・リーチェアヌ、ヘルタ・ミュラーらは、この時代に成功した作家であるが、彼らは作家としてだけでなく、報道などほかの活動にも携わる者も多かった。ルーマニア人海外移住者と国内文化の結びつきは、現在では非常に強くなっており、主に英語での執筆活動を行うアンドレイ・コドレスクなど、ルーマニア人作家による外国語作品も非常に人気がある。 ミルチャ・カルタレスク ホリア・ロマン・パタピエビッチ ガブリエル・リーチェアヌ アンドレイ・プレシュ アンドレイ・コドレスク ヘルタ・ミュラー ルーマニアの劇場も経済的な苦境に見舞われ、テレビなどほかの娯楽に人気をとられたために人気も落ちた。有名な一部の劇場は、助成金もあって存続できた。また、経営が良好な劇場は投資を行い、高品質な作品を提供することで安定した観客を維持した。実験的で独立した劇場も登場し、大学都市を中心に人気を集めた。ルーマニア演劇協会のユニターは、毎年最も良かった演技を表彰している。現代ルーマニアで高い評価を受けている監督には、シルヴィウ・プルカレーテ、ミアイ・マニウティウ、トンパ・ガーボル、アレクサンドル・ダビバ、アレクサンドル・ダリーがいる。また、どの年代からも高い評価を受ける俳優として、シュテファン・ヨルダケ、ヴィクトル・レベンギュウク、マヤ・モルゲンステルン、マーセル・ユーレス、ホラチウ・マラエレ、イオン・カラミトル、ミルセア・ディアコヌ、マリウス・キヴなどがいる。 ヴィクトル・レベンギュウク マーセル・ユーレス クリスティアン・ムンジウ トゥドル・ジュルジュ アディナ・ピンティリエ カリン・ピーター・ネッツァー 1990年代、資金不足のためルーマニアの映画製作業界は苦境に陥った。2005年時点でも、映画に対し国が支援すべきだという意見が上がっている。監督としてダン・ピッツァやルチアン・ピンティリエらは成功を収め、ナー・カランフィル、クリスティ・プイウといった若手も評価された。カランフィルの『慈善事業 (Filantropica)』やプイウの『ラザレスク氏の最期』は、パリやカンヌの国際映画祭で賞を獲得している。ルーマニアでは、国産映画に加え、制作費用の安さから外国の制作者にも人気があり、大きなスタジオには多額の投資が行われている。 ルーマニアで開催される文化的なイベントは、近年増加傾向にある。「2005ブカレストカウパレード」のような不定期イベントは評判が良く、毎年のイベントやフェスティバルも継続的に人を引きつけている。トランシルヴァニアの都市で行われている中世の祭りは、音楽や戦いの再現をストリートシアターに取り入れ、臨場感を生み出しており、最も人気のあるイベントの1つである。劇場では、毎年ナショナルフェスティバルが催され、なかでも国際的に知名度が高いのが、映画制作に関する「シビウ演劇祭」、クルジュ=ナポカの「TIFF映画祭」、ブカレストの「ダキノ映画祭」、ドナウ・デルタの匿名映画祭である。音楽界では、「ジョルジェ・エネスク・クラシック音楽祭」が最も有名であるが、「青少年国際音楽祭」やシビウやブカレストで行われるジャズフェスティバルも知られている。2007年には、シビウがルクセンブルク市とともに欧州文化首都に選出された。
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