関連語との相違点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/16 09:22 UTC 版)
盗作、引用、オマージュとの違い 盗作(剽窃、パクり)や引用とは異なり、元ネタから何らかの改変がなされ、滑稽さや風刺が効いているものを一般的にはパロディと呼んでいる。しかし、改変は全体的に行われている必要はない。たとえば紀元前のホメーロス作品の一節と、17世紀フランスで活躍したピエール・コルネイユの代表的悲劇『ル・シッド』では単語1つ置き換えただけで残りは完全に一致する箇所がある。このようなケースもパロディとみなされている。一方で、ディズニーの『ライオン・キング』は手塚治虫の『ジャングル大帝』と類似性が高いことから、パクリだとの批判を受けることも多い。これらの例からも分かるように、どこからが盗作になるのか線引きは曖昧である。 オマージュ (仏: homage) とは元来「尊敬の意を表すること」とされ、そこから転じて、尊敬する作品から影響を受けて別の作品を創作する行為もオマージュと定義される。特に映画業界ではオマージュが盛んに行われているとされる。一例を挙げると、米国の西部劇映画『荒野の七人』は黒澤明監督の映画『七人の侍』のオマージュだとされている:1。 したがって、元ネタとの類似性という観点では盗作、オマージュおよびパロディ間で共通し、識別は個々人の感性に委ねられている:2。しかしあえて相違点を挙げるとするならば、公に発覚することを恐れるのが盗作、公(または元ネタの作者)に発見してもらいたいと願うのがオマージュ、公に気づいてもらわないと困るのがパロディとも言える。オマージュもパロディも、鑑賞する者が元ネタを知っている(知っていてほしい)前提で創作されている。しかしオマージュと違ってパロディの場合、必ずしも元ネタに対する尊敬の念だけが創作の動機とはならず、元ネタの作者から反感を買う恐れのあるような作風もパロディには包含される。 風刺との違い 先述のとおり、パロディには皮肉・風刺 (satire) のニュアンスが付け加えられることがあるが、パロディと風刺の両者を定義上明確に区別することがある。米国の1994年連邦最高裁判決 (通称:プリティウーマン判決、詳細後述) によると、パロディと風刺では批評する対象が異なると指摘されている。つまり、パロディが元ネタとなった "作品" に対する批評・コメントであるのに対し、風刺が向く矛先は元ネタ作品そのものではなく "社会" である。このような違いから、風刺は必ずしも他の作品に依拠せずに成立しうる。そして、社会を批判する目的で他者の作品を踏み台に利用していることから、パロディと比べて風刺は著作権侵害の判定を受けやすいとも言われている(米国の場合)。 モンタージュとの違い モンタージュ (仏: montage、組み立ての意) とは、映像(とりわけ映画)の世界では複数の映像カットを組み合わせ、何らかの意味を持たせて一つの作品に仕上げる手法を指す。また、モンタージュ写真(あるいはフォト・モンタージュ)と言えば、複数の写真の中からそれぞれ一部を切り取って合成する手法であり、事件捜査現場では指名手配犯の合成写真作成のことを指す場合もある。これに関連して、フォト・モンタージュ技法を用いた作品がパロディなのか著作権侵害なのかが問われた日本の1980年最高裁判決「パロディ・モンタージュ写真事件」が知られている(#パロディに対する法的取り扱いで後述)。本件では引用の要件についても法的に検討された。 文学の世界では、前述のトーマス・マンが自身の執筆手法を「モンタージュ技法」と呼んでいる。過去の様々な文芸作品から一部分を引用 (無断で剽窃) してきて、自作に溶け込ませる手法である:655。マン流のモンタージュ技法は「どこかから取ってきたとは普通読む方は気づかない」ことを特徴としており:655、パロディのようにどこから取ってきたのか意図的に明確にした上で模倣する手法とは異なる。 カリカチュア、パスティーシュとの違い カリカチュアの例。風刺雑誌に掲載されたダーウィンの顔とオランウータンの体 (1871年作) 1869年のダーウィン (ジュリア・マーガレット・キャメロン撮影) カリカチュア (caricature) とは、特に人を描く際に特徴の一部を誇張して、滑稽さやコミカルさを表現する手法と定義される。模しているという意味ではパロディと共通するが、カリカチュアには写実性がかけ、馬鹿馬鹿しいほどに貧弱な模倣だとされる。パスティーシュ (pastiche) はカリカチュアのように人物にフォーカスすることはなく、広く芸術作品や芸術家、あるいは時代を何らかのスタイルで模倣する行為を指す。また、パロディのような皮肉の要素はパスティーシュには含まれない違いがある。 欧州連合 (EU) の著作権法の一部である2001年情報社会指令 (2001/29/EC) 上では、著作権侵害の例外としてカリカチュア、パロディ、パスティーシュの3つが同列で扱われていることから、別々の概念として認識されている。またイギリス知的財産庁 (UKIPO) が2014年に発行した著作権法の公式ガイダンス文書によると、パロディはユーモアないし風刺を効かせていること、そして模倣しているものの元ネタから大きく改変されていることを要件として挙げている。パスティーシュは様々な作品から組み合わせて作風や時代の特徴を取り入れているものを指し、特に音楽著作物がこれに該当する。カリカチュアは政治目的と娯楽目的、侮辱と称賛のいずれもありうるが、描く対象を簡略化ないし誇張する手法に特徴がある。 ミームとの違い ミーム (meme) とは、ある文化・社会においてアイディア、行動、スタイル、用法が人から人へと伝達される現象である。おもしろ画像・動画などがミームの例として挙げられ、とりわけソーシャルメディア (SNS) などのインターネットを介して拡散する場合をインターネット・ミームと呼ぶ。ミームは進化生物学者リチャード・ドーキンズの造語であり、ドーキンズの文脈に沿うと、ミームは模倣ないしパロディ要素が必要とされ、元ネタを使っている様が明確でなければならないとされていることから、ミームとパロディには共通項が多い。ただしミームとは模倣された作品そのものを指す用語ではなく、模倣する社会的プロセスであるとされる。さらにインターネット・ミームは、あるミームが別のミーム (派生作品) を次々と生み出していく社会連鎖を特徴としている。EUではパロディに次いでインターネット・ミームも、2019年に成立したDSM著作権指令 (Directive (EU) 2019/790) によって著作権侵害の例外に指定されることとなった。 バーレスクとの違い バーレスク (burlesque) は「馬鹿げた・奇妙なパロディ」(grotesque parody) と定義されることもある:202。バーレスクの意味は時代と共に変遷しているが、17世紀から18世紀にかけてのイギリスでは、文学や演劇、音楽作品などを風刺したパロディを指した。特に演劇ではまじめな題材や有名人を茶化したり滑稽化する大衆向けの見世物である。しかし時代が下がると、次第に批判や風刺の要素は薄れ、特に米国ではストリップショーの要素が加わった。
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