相中飛車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/16 01:45 UTC 版)
相振り飛車において中飛車については、先手後手両者とも中央に飛車を振って中飛車にする相中飛車というのがあり、ほかの相振り飛車戦型と比較するとお互いが中央での勢力拮抗つまりイーブンという特殊な戦型であり、非常に独特の戦術とみなされる。これは相振り飛車ではできるだけ玉に近く迫っている向かい飛車や三間飛車に構えたほうが有利であるとみなされているためで、またお互いの飛車が中央で向かい合うので、中央からの仕掛けが成立することはないなど攻め口が少なく、千日手になりやすいこともあって、プロ棋戦では相中飛車の実戦例は非常に少なく、アマチュア将棋独特のものである。 もともと居飛車対振り飛車の対抗形において居飛車側が中央に飛車を移動させて振り飛車側の中央からの攻めに対処したり、反撃したりする指し方は以前からあった。そしてアマチュア棋戦では中飛車党同士であると、しばしば戦型は必然的に相中飛車という戦型になることもある。またインターネット対局などで一方が対中飛車に自信がない場合に、その場しのぎで相中飛車にする場合などもみられる。 プロ棋戦では非常にまれなため、杉本昌隆『これが決定版!相中飛車徹底ガイド』(2017年、マイナビ将棋BOOKS)にあるコラム(1)によると、同著を刊行するにあたって自身が主催する教室の生徒に対局をしてもらってデータや実績を集めている。これによれば、相中飛車戦では囲いは相美濃が圧倒的に多いとしている。杉本はプロ同士ならば持ち時間もあってバランスを重視することから金無双が多くなるとみている。同書では第1章~第3章は、相美濃の戦い、第4章では他の囲い方を扱っている。相手が囲いを後回しにして端歩を先に伸ばし、どのような囲いをするか分からない場合は、端歩よりも飛車先つまり相手玉頭の歩突きを優先して指すのが無難である。 杉本の著書では、基本的に端歩は突き越しにしている。また、基本図までの指し手順は先手初手を▲5六歩、後手の2手目を△3四歩としており、以下▲5八飛△5四歩に5手目に▲7六歩、6手目に△5二飛としている。 △後手 なし ▲先手 なし 図は△5二飛まで1-1図 相中飛車の基本図 △後手 なし ▲先手 なし 図は▲7七角まで1-2図 相中飛車▲7七角型基本図 △後手 角 ▲先手 角 図は▲6八銀まで1-3図 角交換▲6八銀型基本図 △後手 角 ▲先手 角 図は▲7八飛まで1-4図 相中飛車から三間変化型 △後手 歩 ▲先手 歩 図は▲3六歩まで1-5a図 向飛車への変化型 △後手 角 ▲先手 角 図は▲5九金まで1-5b図 対穴熊に雀刺し型変化図 そして図で紹介した戦型を提示している。1-2図が主に先手が後手に角交換をさせる「相美濃▲7七角型」で、相中飛車基本図から、互いに美濃に囲い合い、端歩を詰め合って、▲7七角とする。基本図から△3三角など、後手が戦術としてマネ将棋を取り上げている。これは相中飛車の先後同型は一手早く指せる先手側が理屈の上で有利という感覚があるが、後手に実際に指されてみると意外に厄介であるためで、相中飛車のお互いが角道を開けている状態では先手側から▲6八銀と左銀を活用させるには、▲7七角とするか先手から交換するかであるが、△7七同角成▲同桂でやはり▲6八銀には△8八角がある。仮に先手は飛車を三間か向かい飛車などに振りなおすと、左銀が前線に加われない大駒だけの攻めとなっており、また後手から好機に中央から動かれることを念頭にして一手一手を慎重に指せば、対する後手は相手と同じ手を時間をかけずに追随するだけである。これは持ち時間が短い将棋であれば持ち時間に差が開き、焦る先手の疑問手を咎めるオウム指し戦略として知られる。 ただし続けた場合であってもこの戦型では▲4六銀に△6四銀では▲4五銀があるので△4四銀となって途中で真似が続かなくて、先手が▲6六角-▲7七桂(▲9四歩の端攻めをみている)の好形を得ることができるとしている。 また▲7七角型では基本図から後手に3つのパターンを紹介している。ひとつは△7七角成~△4二銀の場合。これには先手は▲8八飛が好手としている。他には基本図から△7七角成~△3三桂の場合で、先手は▲6六角の先着を念頭にする。▲6六角の位置は後手の9三の地点・敵陣の端をにらむ位置であり、端攻めを念頭にしている布陣。さらに基本図から△7七角成~△4四角と、後手が好所の角を先着する場合については先手は▲4六歩~▲4五歩から角を追って▲4六角を実現させるのを念頭にして進めることになる。 1-3図が主に先手から角交換する「角交換▲6八銀型」で、相中飛車基本図から互いに美濃に囲い合い、端歩を詰め合って▲2二角成~▲6八銀とする。自ら角交換することで手損になるが、左銀の差で先手は作戦勝ちを目指す指し方であり、先手は▲4六銀と活用できるが一歩で後手は△6四銀とはできずに△4四銀になること、つまり好所の△4四角が打てないことを作戦格子としている。杉本はこれについても後手の作戦パターンを3つ提示している。ひとつは基本図から▲6六角とする作戦で、互いに左の銀桂を活用して▲6六角の好位置に先着するのであるが、後手から先攻する手段と、先手のカウンターを紹介している。他には基本図から▲4六銀を後手が阻止作戦で、図から△4四角と先着して左銀を▲7七銀と上がらせようとしてくる手段。さらに基本図から先手の角成に後手△2二同銀ではなく△2二同飛として飛車を転換する指し方などを提示している。 1-4図は相中飛車基本図から、互いに美濃に囲い合い端歩を詰め合う他に▲7五歩△3五歩とお互いの三間筋を伸ばし、先手が▲7八飛とした戦術で、相中飛車から三間飛車に互いに三間に振り直す手段を紹介している。この戦型では中央の戦いは少ないため、飛車は機を見て振り直すのが前提となりまた端攻めには特に注意を配る必要もあり、この辺りは他の相振飛車戦と変わらないが、通常の相三間と違い、互いに5筋の歩を突いているので、歩交換から5四の横歩を取る筋が決め手になったり、逆に▲5四飛と横歩をすぐ取ると△7六角からの反撃があるなどカウンターを喰らったりすることがあるとしていることからの戦術で、5四の歩を取る狙いは▲5五角の筋が可能となることである。 これには5パターンの変化を紹介しており、変化図から中飛車からお互い相三間にした布陣から△3二飛▲7四歩△同歩で、以下▲同飛から▲5四飛の狙いがあり、互いに5筋を突いている美濃囲いであるのが通常の相三間と違うために生じる手段であるが、すぐには△7六角の筋での反撃が生じている。このため、変化図から△3二飛▲5八金左△5二金左としてから▲7四歩とすると、今後は△7六角の筋がない。また、変化図から▲8五歩・△2五歩型三間にする手段もあり、これは互いに8筋・2筋の歩を伸ばし、7筋・3筋の歩も伸ばしてから相三間にした場合で、▲7四飛から▲2四飛の展開を見込んでいる。この中飛車→相三間は、基本的に先手ペースになりやすいため、「相三間」ではなく、後手中飛車不動型・先手のみ三間から、後手が相三間にせず△5五歩と仕掛ける指し方、他に互いに端の突き越し、先手の9筋突き越しに対して、後手は1筋を突かず先に三間に振って先攻するつまり相三間ではなく、後手のみ三間にする指し方などを紹介している。 1-5図の向かい飛車転換型は、金無双や穴熊など相美濃以外の囲いの対抗で、これはプロ棋士なら仮に相中飛車を指すなら5筋、先手なら5七の地点が守られているので、飛を別筋に転回しやすいことから金無双を選択するということからである。 基本図は相金無双で、相向飛車に振り直すスタイルとなるが図の布陣では金無双の玉頭を突く▲3六歩として、相手からの銀交換を阻止しておく必要がある。他に紹介している布陣は、▲5六飛型は△3三角~△2二飛の作戦に対し、▲4六銀から▲5五歩△同歩▲同銀~▲5六飛で作戦勝ちの狙いがある。この他▲金無双vs△美濃、▲美濃(角交換~▲6八銀~▲4六銀~▲6六角を設置してスズメ刺し)vs△穴熊作戦が実現できる。また▲金無双vs△穴熊で、金無双は5七に金の利きがあるので、▲4六銀型にせずとも図5-1aのように低い陣形からのスズメ刺しが可能となるとしている。 中飛車での相振飛車、たとえば中飛車vs三間での中飛車左穴熊という作戦があるように、相中飛車でも左玉に構える手段もある。後手がこの作戦を行ってきた場合杉本は△4二玉を見たらすぐに角交換するのを勧めているが、これは後手の穴熊や左美濃を阻止する意味と、左銀の進出を素早く行うのと、駒の偏りを衝いての▲9六角(△9四角)の狙いがある。左玉では右銀が上がるため、後手なら△7四歩としてから△6二銀とするのが特有の手筋になる。単に△6二銀は▲8二角を喰らうためで、△7四歩~△6二銀としていれば、▲8二角には△7三角がある。 △後手 なし ▲先手 なし 図は▲7七桂まで1-6図 後手角道不開型図 △後手 なし ▲先手 なし 図は▲4六銀まで1-7図 先手角道不開型図 △後手 なし ▲先手 なし 図は▲5五歩まで1-8図 見せ槍銀(端角)の基本図 一方で角道を開けない指し方もある。角道が開いていないほうが、序盤から左銀を先手番なら6八から5七、後手番であると4二から5三と活用できるメリットがあるためで、相手がこうした指し方をしてきたの場合は1-6図のように▲6六角から▲7七桂の好形を組むのが一つの例としてある。また先手が角道を開けずに1-7図のように素早く左銀を4六までもっていき、△4四銀を決めさせておいてから▲7六歩から▲6六角~7七桂を築く手段もある。角道を開けない指し方では他に角を端角で活用し中央に利かせる見せ槍銀という戦術もある。1-8図のような後手布陣であると先手が▲5五歩から仕掛け、以下後手△同歩に▲同銀△5四歩には▲5三角成から▲5四銀から▲5三銀打~▲6三銀成があり、このように進むと後手が受けきるのは容易ではない。 △後手 角歩 ▲先手 なし 図は▲6五角まで1-9図 7手目角交換▲6五角その1 △後手 角 ▲先手 なし 図は▲6五角まで1-10図 7手目角交換▲6五角その2 △後手 なし ▲先手 なし 図は▲6六歩まで1-11図 ▲9六歩-△9四歩型相中飛車 なお、相中飛車の変則的な序盤として、7手目角交換~▲5五歩~▲6五角(1-9図)と7手目角交換~▲6五角(1-10図)以下△7二銀に▲5五歩などの「筋違い角」がある。どちらも正確に指せば無理筋であるが、されたほうは知識として知っておく必要がある。駒組として後手2手目に△3四歩と角道を開けていると先手がこれを狙ってくる場合もあるが、もし初手▲5六歩に2手目に△5四歩で角道不開であれば以下▲5八飛△5二飛▲7六歩で△6二玉としておくと、前述の策を食らうとはない。以下▲5五歩△同歩▲同角には△4二銀で▲5三歩(△同飛では▲7三角成から▲5三飛成)を警戒しておく必要がある。 ▲6五角もしくは△4五角という狙いは相中飛車また相美濃特有の手筋で、美濃の玉頭を向かい飛車+棒銀に攻める時に6五角なら8三の地点に利き、決め手になりやすい。逆に△6五角もしくは▲4五角で、相手の向かい飛車の飛車先に効きが向かうので、▲7八金や△3二金を活用する必要がある。 1-11図のような美濃囲いで端を受けるのは、相振飛車ではほとんど得がないので、まずやってこないとされるが、やられた場合に咎め方を知らないと相手の主張を通してしまう。 ▲9六歩に△9四歩の形の咎め方について、杉本はこれには▲6六歩と角道を止めてから▲7七角から▲9五歩~▲9八飛で咎める方法を解説している。この他に▲7七角△同角成(△4四歩ならば▲6六角から▲7七桂)▲同桂から▲8八銀~▲9七銀~▲8六銀~▲9五歩といった端棒銀が知られている。この順は後手番からの▲1六歩-△1四歩の攻略でも可能である。
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