強盗殺人未遂犯N説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/22 01:37 UTC 版)
「警察庁長官狙撃事件」の記事における「強盗殺人未遂犯N説」の解説
警視庁刑事部が主張する、強盗殺人未遂犯N説の根拠は以下の通り。 被疑者が1980年代後半にアメリカで事件で使用された拳銃357口径のパイソンとホローポイント弾を偽名で購入していたこと。 被疑者が犯行直後に逃走した自転車を近くに放置したと供述し、事件直後に放置場所に不審に置かれた自転車に関する目撃証言があったこと。 被疑者が犯行後に東京の貸金庫に拳銃を格納したと供述し、東京の貸金庫には事件から1時間後の開扉記録が残っていること。 被疑者が事件2日前に警察官2人が警察庁長官宅を訪問している事実を把握しており、下見をしていたこと。 被疑者のアジトから韓国10ウォン硬貨が発見されたこと。 警察庁長官の住所を把握するために侵入したとされる警察庁警備局長室の配置について、被疑者による証言が実際の配置と一致していること。 被疑者が犯行時所持したカバンの形状と同じものが被疑者アジトから発見されたこと、鑑識の鑑定によってカバンから金属片反応が確認できたこと。 「教団(オウム)の犯行に見せかけ、警察を奮起させる謀略工作」をするというNの動機があること。 一方、N説には以下の疑問点が呈されている。 現場の壁にあった繊維痕と火薬痕や目撃証言から推定される犯人の身長が被疑者と合致せず、被疑者が狙撃現場にいたという証拠が弱いこと。 國松長官の秘書が語った3発目と4発目の発砲状況について、実行犯と主張している被疑者との供述に食い違いがあること。 事件の現場の近くに北朝鮮のバッジが落としてあったことから、坂本弁護士一家の失踪事件の捜査で、警察が坂本宅でオウム真理教のバッジという物証を得ながら、地下鉄サリン事件の阻止もできなかったことに対する右翼等による義憤説が当初から根強くあった。鹿島圭介は『警察庁長官を撃った男』で国松孝次元警察庁長官を狙撃したと自供しながら、逮捕・起訴されなかった国士的かつ戦闘マニア的な元極左活動家で、警官殺害の前科がある人物としてNを取り上げた。2014年8月31日にはテレビ朝日が「未解決事件スペシャル」で、2018年9月にはNHKが「未解決事件」でNを報じた。 別件の強盗殺人未遂で逮捕されたNは、その取り調べの過程において、全く無関係の長官狙撃事件に関し真犯人しか知りえない事実を数多く供述しており、その裏付けも警視庁の刑事部が取っていた。警察幹部も「N以外、真犯人はあり得ない。200%真犯人だ」とまで断言したにもかかわらず、Nは長官狙撃容疑で逮捕・起訴されなかった。鹿島圭介は、当初この事件の捜査を担当した警視庁公安部がオウム真理教以外に犯人はあり得ないという先入観で捜査したために、Nを逮捕すると自分たちの方針が全否定されるため、Nは逮捕されなかったんじゃないかと語る。Nを取り調べた警視庁刑事部(当時)の原雄一は、幹部に「お前、警察内部に抹殺されるかもしれないから気をつけろ。駅のホームの端には立つな」と耳打ちされたという[要出典]。 供述書によると、Nは犯行動機を「オウム真理教団の犯行に見せかけて警察庁長官を暗殺して警察首脳を精神的に追い詰め、死に物狂いでオウム真理教団に対する捜査指揮に当たらせ、併せて全国警察の奮起を促し、オウム真理教団を制圧させることにありました」と供述した。原はこれに対し、「後付けの動機で、8割方は権力や警察への個人的な恨みだと見ています」「本当は、時効成立後に名乗り出て、オウムを壊滅に追い込んだのは自分の功績だと誇るつもりでいたんでしょう。ところがその前に別件で逮捕されてしまった。K巡査長という人物も出てきた焦りもあって、崇高な義挙を成し遂げたという理屈で自供したんでしょう」と感想を述べている。Nは、別件の強盗殺人未遂事件の犯人として無期懲役の刑に処せられ、岐阜刑務所で服役中である。 日本テレビ長官狙撃自白報道 警察庁長官が義憤によって狙撃されたことを捜査仮説とすることは、警察がオウム真理教への対応を誤ったことをなかば認めることを意味するため、警察組織内の内部力学がマスコミを巻き込んで様々に働いたことは確かであったとみられる。その最たる例が「日本テレビ長官狙撃自白報道」である。 この報道では、警視庁公安部からの協力要請で、犯行をほのめかしながら供述に矛盾があるとして立件されていなかった容疑者のひとりで、元巡査長だったオウム真理教の信者から、詳細かつ整合性のある記憶を苫米地英人が呼び起こしたとされた。しかし、起訴には到らず、逆に日本テレビの報道姿勢と報道倫理が批判され、国会でも問題視されることとなった。 また、この5ヶ月後には、同特集報道を組んだ「NNNきょうの出来事」の井田由美宛に郵便爆弾が送付され、千代田区麹町の日本テレビ放送網本社で爆発する事件まで起きた(「日本テレビ郵便爆弾事件」参照)。
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