ドライショック(ドライショク):幻想曲 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ドライショック(ドライショク):幻想曲 ヘ短調 | Fantaisie, F-dur Op.31 | 初版出版地/出版社: Schott |
作品解説
第1楽章:Andante 2/4拍子
展開部のないソナタ形式(それぞれの部分が展開部を必要としないぐらいドラマティック)
■序奏(ヘ短調):悲愴だが劇的な開始を告げる。
■第1主題(ヘ短調):行進曲風の荘重なメロディーが印象的
■第2主題(ハ短調):ショパンの『革命』の左手のパッセージが何と右手に登場し、圧倒されるテクニカルワークを展開する。
■第1主題の再現(へ短調):行進曲風のメロディが、三連符の伴奏に支えられながら歌われる。
■第2主題の再現(ヘ短調):さらにヒートアップした『革命』のパッセージが縦横無尽に活躍する。
■コーダ(ヘ短調):第2主題がトリルとともに頂点に上り詰める。最後は二重オクターブの嵐と『革命』が打ち鳴らされて締めくくる。
第2楽章:Veloce 6/8拍子
■主部(変二長調):第1楽章とは打って変わって平和で穏やかな楽章。 さわやかなそよ風のようなテーマが軽やかに登場。
■中間部(変ホ短調):哀愁を帯びたメロディーが印象的。
■主部の再現(変二長調):主部同様のメロディーが再び歌われる。
■トリオ(変ロ短調):優雅なオクターブが戯れる。
■主部の再現(変二長調)
■第2トリオ(変ロ短調):トリオ同様オクターブ中心で踊られる。
■主部・中間部・主部が繰り返され終わる。
第3楽章:Allegro spiritoso
展開部のないソナタ形式(それぞれの部分が展開部を必要としないぐらいドラマティック)
悲しみと激情の疾走。
第1主題(ヘ短調):疾走する左手の上に、悲しみが歌われる。しかし感傷に浸るまもなく、次々と襲い掛かる心の葛藤。オクターブの七変化ともいうべき、さまざまな展開が施される。
第2主題(変イ長調):唯一希望の光が差し込んでくる。主題の確保は、オクターブで朗々と奏でられる。 後半では新しい精神に溢れた第3主題が華やかに打ち上げられる。
第1主題の再現(変ロ短調):再び疾走する悲しみと激情。さらにオクターブやテクニカルな展開になっている。
第2主題の再現(変イ長調):雪崩れ込んできた第1主題に牽引された第2主題は、さきほどとは打って変わって、パワーアップを図る。そこでは希望の光は勝者のファンファーレに昇格し、高らかに歌い上げられる。
コーダ(ヘ短調):すべてオクターブで彩られる。二重オクターブ、分散オクターブ、リスト・オクターブ。最後は激情の嵐と大伽藍の鐘が打ち鳴らされ見事に終結する。
リストのライヴァル、ドライショックにふさわしい技巧的であるが精神的に極めて高い内容を持った曲。ロマン派の大ピアニスト、ヴォルフ、ヘンゼルト、リスト、ローゼンハイム、デーラー、ショパン、タールベルクらと戦うための武器倉庫となった曲でもある。
シューベルト:幻想曲 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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シューベルト:幻想曲 ヘ短調 | Fantasie D 940 Op.103 | 作曲年: 1828年 出版年: 1829年 |
作品解説
シューベルト最期の年、1828年のピアノ連弾作品。彼の数多い連弾曲の中でも、高い音楽的内容をもつ傑作と称される。献呈は、出版社によって、シューベルトが2度のジェリズ赴任でピアノを教えたエステルハージ伯爵家の下の娘カロリーネになされた。
作品は、切れ目なく続く3つの楽章から成るが、実質的には4部分構成といえよう。暗く陰鬱であるが魅力的な第1楽章冒頭の主題が、第3楽章の後半に回帰し、やがてフーガを展開して作品を閉じるといった、構成的にも整った作品である。
ショパン:幻想曲 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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ショパン:幻想曲 ヘ短調 | Fantasie f-Moll Op.49 CT42 | 作曲年: 1841年 出版年: 1841年 初版出版地/出版社: Schlesinger 献呈先: Princese Catherine de Souzzo |
作品解説
1839年よりジョルジュ・サンドと過ごしたノアンの地で、ショパンは数多くの傑作を生み出した。1841年10月20日、ショパンはノアンからパリにいる友人フォンターナに宛てて、「今日《ファンタジア》が終わった」と記している。41年前後のショパンは、健康的にも、またサンドとの関係においても非常に充実した時期にあり、この《幻想曲》作品49のほか、《タランテラ》作品43、《ポロネーズ 嬰ヘ短調》作品44、《プレリュード》作品45、《演奏会用アレグロ》作品46、《バラード第3番》作品47、ふたつの《ノクターン》作品48といった作品を生み出している。そのため各曲は互いに影響しあい、性格的小品に分類される器楽ジャンルの枠を薄めるとともに、それぞれが深みと自由度を増している。
器楽作品に用いられるファンタジー(ファンタジア)という名称は古くからの歴史をもつ。19世紀においてピアノ独奏曲としての「ファンタジア」は珍しくないが、ショパンがこの言葉に明確なジャンルとしての意識を抱いていたかは疑問である。直前に作曲された《ポロネーズ》作品44について、ショパンは当初「ポロネーズの形式の《幻想曲》」あるいは「ポロネーズの一種というより、幻想曲です」ということを書いている。また晩年の傑作《幻想ポロネーズ(ポロネーズ=幻想曲)》の存在からも、ショパンはポロネーズと幻想曲を非常に近い存在ととらえ、「幻想曲」という形態に、即興的色彩はもちろんのこと、祖国ポーランドへの想いと幻想を自由に表現するという役割を付していたようである。
結局ショパン唯一の《幻想曲》となった作品49は、へ短調に始まり変イ長調で終わる。全体をソナタ形式風にとらえれば、序奏(Tempo di marcia)、提示部(agitato;68小節~)、展開部(143小節~、途中Lento sostenutoのエピソードを挟む)、再現部(236小節~)、コーダ(309小節~)となろう。しかし幻想曲のタイトルにふさわしく、調と楽想の自由な交錯として解釈した方が自然である。「行進曲のテンポでTempo di marcia」と指示されたへ短調の導入部は、葬送行進曲のような暗い影に覆われ、一拍ごとに和音が付けられて重々しく進む。一方Assai allegroと指示された変イ長調のコーダ部(322小節~)は三連符のアルペジオで華々しく上り詰め、勝利の宣言であるかのように終わる。このふたつの調、ふたつの楽想がショパンのポーランドに対するふたつの幻想的心情としてこの作品を支配しているように思える。三連符の走句は即興的変化を伴って、楽曲を構成する核となる主題を支え(68小節~、155小節、235小節)、あるいは移行部として機能する(43小節~、143小節~、223小節~)。また和音による楽想は、行進曲風の移行部を形成するかと思えば(127小節~)、「Lento sostenuto」のテンポ表示とともに、抒情的な旋律を切々と歌い上げる(199小節~)。形式性と即興性を兼ね備え、不均等な対称性を保ちながらポーランドへの思いを自由に謳いあげた《幻想曲》は、ショパン独特の世界を作り上げるとともに、《幻想ポロネーズ》へと連なる傑作群の中心的存在に位置づけられよう。
幻想曲ヘ短調
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