モーツァルト:幻想曲 ハ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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モーツァルト:幻想曲 ハ短調 | Fantasie c-Moll K.475 | 作曲年: 1785年 出版年: 1785年 初版出版地/出版社: Artaria |
作品解説
ピアノ・ソナタ第14番ハ短調と共に1785年に出版された。モーツァルトの自作品目録によれば、ソナタの作曲は84年10月14日、幻想曲は翌85年5月20日である。幻想曲は本来、導入曲としての用途があったため、この作品は、ソナタの出版に際して、その前奏のために作曲されたものと考えられる。これら2曲は現在でも1セットとして扱われることが多いが、モーツァルト自身が幻想曲のみを演奏することもあったことから、独立した2つの作品と考えて問題ないだろう。
献呈はテレージア・フォン・トラットナー。当時モーツァルトが借りていた家(いわゆる「フィガロ・ハウス」)の家主夫人である。彼女はまた、モーツァルトのピアノの生徒でもあった。
作品は転調を頻繁に繰り返し、幻想曲の名にふさわしく自由に展開してゆくが、テンポの変化によって5つの部分に分けられる。すなわちアダージョ、アレグロ、アンダンティーノ、ピウ・アレグロ、アダージョである。最初のアダージョはさらに、重苦しいハ短調と明るい響きのニ長調の2つに分割できる。地から這い上がるようなこの冒頭主題が最後に回帰し、ハ短調ソナタへの橋渡しとなって作品を閉じる。
バッハ:幻想曲 ハ短調(ロンドによる)
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:幻想曲 ハ短調(ロンドによる) | Fantasie über ein Rondo c-Moll BWV 918 |
作品解説
4小節あまりの短いロンド主題と簡明な2声のテクスチュアながら、130小節を超える比較的長い作品である。「幻想曲」というタイトルは、当時の慣例では対位法的内容を指すが、ここではさらに、意表をつく組合せを生んだ想像の力をも意味するようにみえる。この中でバッハが試みたのは、ロンドの形式と対位法書法の結合だった。この組合せに生じる原理的な困難とは、対等な力関係で水平方向に続いていくはずの諸声部が、回帰する主題によっていわば寸断されること、また、ロンド主題とエピソード部分の対位法の主題が競合し、互いの力を殺いでしまうことにある。
率直に言って、これらの課題が作品の中で完全に解決されているとは言いがたい。各セクションは確かにこの上もなく滑らかに連続しているが、それは主題の回帰に緊張感を持った準備がなされないということである。エピソード部は模倣で始まるが、やがてロンド主題の素材を用いて展開するため、クプレ(回帰部分)とエピソードの対比が曖昧になる。音域やテンポ感の変化にも乏しく、楽曲全体の山場をとっさにはみいだせない。弾き手も聴き手も愉しむためには、細かい分析が必要だろう。
ロンド主題は曲頭のほか、第29小節、第80小節、第120小節に3回ほど登場する。このロンド主題には、更に8小節の続きがある。最初のエピソード(第13-27小節)ではロンド主題後半はほとんどまったく現れない。また、2回目のエピソード(第33小節以降)もいっけん関係のなさそうな動機の転回対位法で開始する。が、この部分の大半を支配する四分音符のシンコペーション動機は、ロンド主題後半から得られたものである。第80小節の3回目のクプレは、ロンド主題の最初の2小節の転回(声部の上下を入れ替える対位法技法)によって拡大されている。これに続くエピソードも、クプレで用いた2小節単位の転回を繰り返すが、その内容はロンド主題後半および2回目のエピソードから導き出された動機である。厳格な転回は第99小節でいったん収束するが、これ以降も1小節ごとの短い転回やそれに類するパラフレーズが散りばめられている。そして、第116小節からはロンド主題前半の結びにのみわずかに聴かれた付点リズムが2小節に渡って左手に登場し、楽曲が終わりに近いことを暗示する。左右の手の音域が広がり、左手に長いトリルが置かれ、ロンド主題の最後の提示が準備される。これはロンド主題後半を完備し、冒頭の提示と完全に一致している。
このようにみると、バッハはクプレとエピソードが交代するロンドの形式の陰で、主題の提示と展開を緻密に進めているのがわかる。
また、よどみなく流れる2つのパートは、当時の最新のスタイルであるギャラント様式を意識したものである。この作品は、バッハが自らの得意とする分野に新しい形式や様式を意欲的に取り込んで生まれたということができる。
バッハ:幻想曲 ハ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:幻想曲 ハ短調 | Fantasie c-Moll BWV 919 | 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
プレラーの手稿譜に伝えられる。(ヨハン・ゴットリープ・プレラー(1727-1786)はバッハの弟子の世代に当たる音楽家で、彼と兄弟弟子ヨハン・ニコラウス・メンペルが作成したオルガンとクラヴィーアのための楽譜帖は、バッハの創作を再構築する上で重要な資料となっている。)プレラーは作曲者を「ベルンハルト・バッハ」としており、この名に当てはまる作曲家としてはJ.S.バッハの再従兄弟でアイゼナハで活動したヨハン・ベルンハルト(1676-1749)か、あるいはJ.S.バッハの夭逝した息子ヨハン・ゴットフリート・ベルンハルト(1715-1739)が考えられる。アイゼナハのヨハン・ベルンハルトとする説が一般的だが、音楽内容がJ.S.バッハにきわめて近いことから、バッハの息子の作、あるいは誤って伝えられているだけでバッハ自身の作品である可能性は棄てきれない。
全体は2声、わずか25小節の簡潔な作品だが、順次進行と跳躍、上行下行と同音反復を適度に含むバランスの取れた主題を持つ。J.S.バッハはこうした可能性の豊かな主題をひらめく天才だった。また、主題の前半と後半を対位法的に組合せるやりかたは、まさに「インヴェンション」と呼ぶにふさわしい。作曲者をあれこれと詮議するまでもなく、短く引き締まった理知的な作品である。
幻想曲ハ短調
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