山口昌男とは? わかりやすく解説

やまぐち‐まさお〔‐まさを〕【山口昌男】

読み方:やまぐちまさお

19312013文化人類学者北海道生まれ構造主義記号論日本紹介。「中心と周縁」「トリックスター」などの文化理論は、日本の思想界に大きな影響与えた。「『敗者』の精神史」で大仏次郎賞受賞。他に「笑い逸脱」「『挫折』の昭和史」など。


山口昌男

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/09 10:27 UTC 版)

やまぐち まさお
山口 昌男
文化功労者顕彰に際して
公表された肖像写真
生誕 (1931-08-20) 1931年8月20日
日本北海道網走郡美幌町
死没 (2013-03-10) 2013年3月10日(81歳没)
日本東京都
研究分野 文化人類学
研究機関 東京外国語大学
静岡県立大学
札幌大学
出身校 東京大学卒業
東京都立大学 (1949-2011)
影響を
受けた人物
クロード・レヴィ=ストロース
ダン・スペルベル
影響を
与えた人物
今福龍太
主な受賞歴 大佛次郎賞1996年
プロジェクト:人物伝
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山口 昌男(やまぐち まさお、1931年昭和6年〉8月20日 - 2013年平成25年〉3月10日)は、日本教育者文化人類学者東京外国語大学名誉教授文化功労者瑞宝中綬章受勲。位階正四位

経歴

出生から修学期

1931年、北海道美幌町で9人兄弟の次男として生まれた。美幌尋常小学校、旧制網走中学校を経て、新制網走高校(現・北海道網走南が丘高等学校)に進学。1950年3月に卒業し、同年4月に青山学院大学文学部第二部仏文科に進学。在学中には、展覧会と古書店に頻繁に巡った。青山学院大学には1学期のみ通い、1951年に東京大学文学部国史学科に入学。同学年に作曲家となる三善晃、美学者となる宇波彰らがいた[1]。また、東京大学駒場美術研究会では、磯崎新らと親交を結んだ。1955年、坂本太郎を指導教官とし、卒業論文『大江匡房平安末期一貴族の意識』を提出して卒業。

卒業後は、麻布中学校教諭として勤務(1961年3月まで)。日本史を担当し、この時に教え子には川本三郎山下洋輔らがいた[2])。教員として勤務する一方で旧・東京都立大学大学院社会科学研究科に進み、社会人類学を専攻。1960年に修士課程修了。修士論文は『アフリカ王政研究序説』であった。その後、博士課程に進んだ。

文化人類学研究者として

国際基督教大学非常勤助手に採用された。1963年10月、ナイジェリアイバダン大学社会学講師に就いた。1965年東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所講師に就いた。翌1966年、助教授昇格。1968年より東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教授。通称「AA研」と呼ばれた同研究所を拠点に研究を進めた。1969年より「文化と狂気」を『中央公論』に、「道化の民族学」を『文学』1~8月号(岩波書店発行)に連載[3]。また、「王権の象徴性」(『伝統と現代』)、「失われた世界の復権」(『現代人の思想 第15巻 未開と文明』解説)を執筆して注目された。[4]

1970年、エチオピア調査を行い、またパリ大学ナンテール分校客員教授を務めた。在任中には研究室には膨大な蔵書が山積みになっていたが、海外出張中に電話をかけ「何番目の山の何冊目の何ページを引用するから探せ」と指示を出したという[5]。また同1970年6月からは「本の神話学」を『中央公論』に連載[6]1973年、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授に昇格。1977年、メキシコ大学院大学客員教授。

東京外国語大学退任後

1984年から1994年まで、磯崎新大江健三郎大岡信武満徹、中村雄二郎と共に学術季刊誌[7]へるめす』(岩波書店)の編集同人として活躍した。1989年、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所長に就任。1992年には、電通総研の「経営の精神文化史研究会」発足に尽力。1994年に東京外国語大学を定年退職し、名誉教授となった。

同1994年4月、静岡県立大学大学院国際関係学研究科教授に就き、また中央大学総合政策学部客員教授となった。

1997年札幌大学文化学部に転じ、文化学部長を務めた。1999年、札幌大学学長に就任。2008年脳梗塞で倒れてから療養生活を送っていたが、2013年3月10日 肺炎のため、東京都三鷹市の病院で死去[8][9][10][9][10]。歿日付けで正四位に叙された。墓所は府中市観音寺墓地にある。

受賞・栄典

受賞
栄典

研究内容・業績

専門は文化人類学アジアアフリカ南アメリカなど世界各地でフィールドワークを行い、両性具有トリックスターをテーマとした著作で「中心と周縁の理論」を発表し、評価が高い[13]

その一方で、1970年代初頭から創刊間もない青土社の月刊誌『現代思想』に中村雄二郎らとともに寄稿し始め、構造主義記号論を学術界以外に紹介。既存の学問の方向性を再考する議論を活性化し、西洋近代的知の体系への懐疑を促す大きな力となった。これらの活動は、1980年代浅田彰中沢新一らによって本格化したいわゆるニューアカ(ニュー・アカデミズム)」ブームが登場する基盤を作った。死去の約2ヵ月後、『ユリイカ』(2013年6月号)で「山口昌男:道化・王権・敗者」と題する特集が組まれた。

日本史精神史関連

近代日本を人類学の視点から論じた著作を1995年頃から発表。晩年の大著となる『「挫折」の昭和史』、『「敗者」の精神史』では、近代日本史の中で重要視されていなかった「旧幕臣」系または「趣味人」系の人物の人的ネットワークを洗い出し、検証した。

漫画評論

20代の頃から漫画評論を手がけており、先駆的存在であるといえる。

「山口文庫」

蔵書は札幌大学図書館に寄贈され、「山口文庫」として一般公開されている[14]。母校である網走南ヶ丘高等学校にも分室を開設[15]

エピソード

  • 「偏差値秀才は社会で通用せず、学歴主義は既に崩壊している。それにも関わらず、大学受験予備校の河合塾が、ランク付けに新たにボーダーフリーを設け、私が務める当校(札幌大学)の学部でFランク大学指定を受けた。当校では、ロシア語弁論大会で1位を出すなど実績を上げている。この事1つをとってみても、大学受験予備校のランク付けが内実を反映していない。」[16]との論文を投稿したのに対し、教育ジャーナリストより「現状を把握せず、大学が潰れる事もありうるという意識が希薄な学校経営者であり、残念ながらこんにち日本では、高級官僚・大企業社長・大学教員のほとんどが偏差値秀才である。また世界のどの国で学歴社会が崩壊したのであろうか」という批判を受ける[17]

交遊

美幌町時代

都市の会

「へるめす」同人

東京外骨語大学

山口昌男を「学長」とする交流会。

  • 坪内祐三(助教授)
  • 内堀弘(石神井書林) 当時学生
  • 高橋徹(月の輪書林) 当時学生
  • 田村治芳 当時学生。『彷書月刊』の編集兼発行人。

「例の会」メンバー

季刊誌として創刊された「へるめす」前身となる会。

家族・親族

著書

単著

著作集

  • 『山口昌男著作集』(全5巻) 今福龍太編・解説、筑摩書房 2002-2003
  1. 1巻 知
  2. 2巻 始原
  3. 3巻 道化
  4. 4巻 アフリカ
  5. 5巻 周縁

編著・共著

  • 『未開と文明』(現代人の思想 15) 平凡社 1969
    • 新装版シリーズ『未開と文明』(現代人の思想セレクション 3) 2000[32]
  • 林達夫集』(近代日本思想大系 26) 筑摩書房 1974
担当解説「精神史のフォークロア」
  • 石田英一郎河童論』(日本民俗文化大系 8) 講談社 1979
  • 『知の旅への誘い』中村雄二郎共著、岩波新書 1981
  • 『見世物の人類学』ヴィクター・ターナー共編、三省堂 1983
  • 火まつりリブロポート 1985
  • 『世界は舞台:林達夫座談集』岩波書店 1986
  • 『越境スポーツ大コラム』TBSブリタニカ 1987
  • 『魯庵の明治内田魯庵坪内祐三共編、講談社文芸文庫 1997
  • 『魯庵日記』坪内祐三共編、講談社文芸文庫 1998
  • 『記号論の逆襲』室井尚共編、東海大学出版会 2002

対話集

  • 『挑発としての芸術』青土社 1980
  • 『書物の世界 共同討議』高階秀爾中村雄二郎対談、青土社 1980
  • 二十世紀の知的冒険』岩波書店 1980[33]
  • 『知の狩人:続・二十世紀の知的冒険』岩波書店 1982
  • 『語りの宇宙:記号論インタヴュー集』聞き手三浦雅士冬樹社 1983、新版 1990
  • 『文化人類学の視角』岩波書店 1986[34]
  • 『身体の想像力 対談集:音楽・演劇ファンタジー』岩波書店、1987
  • 『ミカドと世紀末王権の論理』猪瀬直樹との対論・対談、平凡社 1987
  • 『知のルビコンを超えて:山口昌男対談集』人文書院 1987
  • 『古典の詩学:山口昌男国文学対談集』人文書院 1989
  • オペラの世紀:山口昌男音楽対談集』第三文明社 1989
  • 『はみ出しの文法:敗者学をめぐって』平凡社 2001[35]
  • 『回想の人類学』川村伸秀聞き手、晶文社 2015

訳書

参考文献

関連文献

脚注

  1. ^ 山口昌男 :: 東文研アーカイブデータベース”. www.tobunken.go.jp. 2023年3月2日閲覧。
  2. ^ (EV.Cafe)村上龍坂本龍一との対談の中で教え子として二人の名前を挙げている
  3. ^ 道化の民俗学 - 岩波書店. http://www.iwanami.co.jp/book/b255806.html 
  4. ^ 山口昌男 :: 東文研アーカイブデータベース”. www.tobunken.go.jp. 2023年3月2日閲覧。
  5. ^ 磯崎新「喪友記 再現できぬ回路 山口昌男氏を悼む」日本経済新聞(2013年3月20日40面)
  6. ^ 山口昌男 :: 東文研アーカイブデータベース”. www.tobunken.go.jp. 2023年3月2日閲覧。
  7. ^ 途中から隔月刊
  8. ^ “文化人類学者の山口昌男氏が死去 「中心と周縁」理論”. 日本経済新聞. (2013年3月10日). https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG10002_Q3A310C1000000/ 2020年2月6日閲覧。 
  9. ^ a b “文化人類学者の山口昌男さん死去 「中心と周縁」理論”. 朝日新聞. (2013年3月10日). http://www.asahi.com/obituaries/update/0310/TKY201303100023.html 2013年3月10日閲覧。  {{cite news}}: |work=|newspaper=引数が重複しています。 (説明)
  10. ^ a b “「道化の民俗学」文化人類学者の山口昌男氏死去”. 読売新聞. (2013年3月10日). http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20130310-OYT1T00324.htm 2013年3月10日閲覧。  {{cite news}}: |work=|newspaper=引数が重複しています。 (説明)
  11. ^ 山口昌男名誉教授・前学長が、平成21年度春の叙勲で瑞宝中綬章を受章”. 札幌大学 (2009年4月30日). 2023年3月20日閲覧。
  12. ^ 平成23年度 文化功労者”. 文部科学省 (2011年11月3日). 2011年12月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月12日閲覧。
  13. ^ この方面での代表作は『文化と両義性』(岩波書店)
  14. ^ 山口文庫 - 札幌大学
  15. ^ 「札幌大学山口文庫 網走南ヶ丘高等学校分室」誕生
  16. ^ 諸君! 2001年6月号」(文芸春秋)p.186~187より
  17. ^ 島野清志『危ない大学・消える大学 2006年版』(エール出版社, 2005年2月1日)p.25~26
  18. ^ 「へるめす」同人でもある
  19. ^ 講演冊子。
  20. ^ 対談も収録されている。
  21. ^ 対談も収録されている。
  22. ^ 三部作の1つ
  23. ^ 三部作の1つ
  24. ^ 放送テキスト『「知」の自由人たち』を改訂。1997年10月-12月にNHK教育テレビNHK人間大学」で放映。
  25. ^ 精選されたスケッチ約100点を収録。
  26. ^ 近代日本を人類学の視点から論じている。
  27. ^ 三部作の1つ
  28. ^ 巻末に著書目録
  29. ^ 1980年代以降の単行本未収録の文集の大著
  30. ^ 80年代に執筆した遺稿を編んだ著作集。
  31. ^ 追悼論集。単行本未収録の論考、詳細な研究記録、写真・スケッチ、年譜・著作目録を収録
  32. ^ 他の巻は鶴見俊輔篠田一士編。
  33. ^ 正続ともに、外国人研究者との対談。
  34. ^ 12名との対話集
  35. ^ 12名との対話集

関連人物

その他

外部リンク

先代
木村真佐幸
学校法人札幌大学学長
第11代: 1999年 - 2003年
次代
宮腰昭男
先代
木村真佐幸
学校法人札幌大学女子短期大学部学長
第11代: 1999年 - 2003年
次代
宮腰昭男
  1. ^ 高山宏との対話で「インヴェンション」- [第4章 軽業としての学問―山口昌男をめぐって]、明治大学出版会、2014年。がある



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