写本の伝来
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本写本の平瀬家に入るまでの伝来は不明であり、露香の代に平瀬家に入ったのかどうかも不明である。これについて古典籍や古活字版の研究で知られる書誌学者、国文学者の川瀬一馬は、江戸時代後期の考証学者である狩谷棭斎(安永4年12月1日(1775年12月23日) - 天保6年閏7月4日(1835年8月27日)が1816年(文化13年)に関西方面を旅した際に素性も事績も不明な「退六」なる人物が所蔵していた源氏物語の写本を調査して『西遊日記』に記録しているが、この写本の各巻の鑑定筆者が現在の平瀬本に見られるものと同じであることから、このとき狩谷が見た源氏物語の写本は現在の平瀬本ではないかとしている。 本写本は平瀬家の所有となった後、平瀬露香の没後も同家に伝えられており、山脇の調査時(1919年(大正8年)ころ)は露香の養子である平瀬家第8代当主平瀬三七雄(1876年(明治9年) -1927年(昭和2年)、春齢・露秀とも称している。)の所有とされており、1930年(昭和5年)ころの池田亀鑑の調査時には平瀬三七雄の夫人(平瀬家第9代当主)の所蔵とされている。平瀬家ではこれを非常に大切にし、「指でめくることを禁じられており、竹べらでめくらなければならなかった。」とされている。このために用意された専用の竹べらは本写本が文化庁所蔵となった現在も「アケルヘラ」と書かれた紙に包まれた形で本写本と共に保管されている。 良質な源氏物語の写本を求めて明治時代後期から始まった写本調査の中で、良質な河内本系統の写本はすでに失われたと考えられていた中で1919年(大正8年)4月に山脇毅によって河内本の写本として初めて発見され1921年(大正10年)になって論文によって広く紹介された。山脇は本写本自体の調査によって本写本54帖のうち30帖は河内本であるとし、さらに本写本の本文と河海抄に引用された本文を比較してさまざまな検討を行っている。 1921年(大正10年)3月、京都大学文学部から簡単な解説を付して本写本の桐壺と真木柱の2帖がコロタイプ版で刊行された。 1930年(昭和5年)に池田亀鑑は後に校異源氏物語及び源氏物語大成に結実することになる源氏物語の写本調査の中で、松田武夫を伴って大阪の平瀬家を訪れ本写本を調査している。 1932年(昭和7年)11月19日および20日、池田亀鑑によって「河内本を底本とした源氏物語の校本『校本源氏物語』の最終的な稿本が完成した」として東京大学文学部国文学科において開催された展観会にも本写本が展示されており、その際発行された目録では、本写本は河内本系統三十四種(第1~第34、第122(底本))、青表紙系統六十二種(第35~第97)、別本系統二十四種(第98~第121)の中で尾州家河内本に続いて4番目に掲げられている。但し、その目録には「(写)」との付記があるため、この展観会に実際に出品されたのはこの写本そのものではなく池田または池田の作業を手伝った人物が写本を筆写したものであろうと考えられる。 この後池田亀鑑による源氏物語の校本作成の作業は、青表紙本系統の最善本であるとされた大島本を底本としたものに大きく方針を変更されることになり、完成までにさらに10年をかけてようやく1942年(昭和17年)刊行の「校異源氏物語」(及び戦後刊行された源氏物語大成)として世に出ることになったが、本「平瀬本」はその中でも対校本の一つとして採用されており、さらに『源氏物語大成 研究資料編』において「現存重要諸本」のひとつとして簡単な解説が加えられている。 1941年(昭和16年)7月3日付け官報告示により狭衣物語が混入している『竹河』巻を除く本写本の53帖が「紙本墨書源氏物語五十三帖」として当時の旧国宝(現行法の重要文化財に相当)に指定された。 本写本を受け継いだ平瀬家第9代当主は戦後になって元々平瀬家の一別宅であった京都室町の家に居住していたために、本写本は一時期「京都平瀬家本」と呼ばれたこともある。 写本は、重要文化財未指定であった竹河1帖を含め、1999年(平成11年)、東京の古美術商から文化庁が購入した。 2008年(平成20年)1月19日から3月10日には平瀬露香の没後100年を記念して大阪府大阪市の大阪市立大阪歴史博物館において特別展『没後100年 最後の粋人 平瀬露香』が開催され、当時すでに平瀬家を離れて文化庁保管となっていた「平瀬本源氏物語」のうち夕顔、紅葉賀、須磨、明石、藤裏葉、若菜上、若菜下、幻、匂宮、浮舟の各巻が「平瀬露香にゆかりのある文物の一つ」として展示された。
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