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川瀬一馬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/08 05:15 UTC 版)

川瀬 一馬
人物情報
生誕 (1906-01-25) 1906年1月25日
日本東京府東京市赤坂区表町
死没 (1999-02-01) 1999年2月1日(93歳没)
日本東京都世田谷区
老衰
国籍 日本
出身校 東京文理科大学
学問
時代 大正昭和平成
研究分野 書誌学
文献学
学位 文学博士
主要な作品 #著書
影響を受けた人物 白鳥庫吉
諸橋轍次
主な受賞歴 紫綬褒章
勲三等旭日中綬章
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川瀬 一馬(かわせ かずま、1906年1月25日 - 1999年2月1日[1])は、日本書誌学者、日本文化史家。文学博士東京教育大学・1954年)。

経歴

東京市赤坂区表町で生まれる。父方の先祖は伊勢で米商を営んだ家柄という。麹町小学校を卒業するが[2]、その間、を失ったために進学の道を絶たれ東京市役所に給仕として勤める。小学校の旧師の尽力により成蹊実務学校に入学し、中村春二の薫陶を受ける。日本史専攻の志を立て東京高等師範学校文科に入学、ここで国語は松井簡治、漢文は諸橋轍次の指導を受ける[3][4]。また、学習院山岸徳平教授(のちに東京文理科大学助教授・教授)に個人的な指導を受けた[5]。ついで東京文理科大学へ進み、卒業[6]後の1932年春に同大学国語国文研究室初代助手となるが[7]、2年あまりで職を解かれる[8][注 1]

以後は公職に就かず研究活動を続けていたが、1950年(昭和25年)から1974年(昭和49年)まで青山学院女子短期大学国文科主任となり、同時に1965年(昭和40年)から文化財保護審議会専門委員に任命される。1954年(昭和29年)に「古辞書の研究」により、東京教育大学から文学博士の学位を授与される[9]1966年(昭和41年)に紫綬褒章1976年(昭和51年)に勲三等旭日中綬章を受章している。

1999年、老衰のため東京都世田谷区の自宅で死去[1]

業績

青山学院女子短大名誉教授、財団法人大東急記念文庫理事、五島美術館理事、財団法人阪本龍門文庫理事長などの要職を兼ね、晩年には石川文化事業財団が所蔵する成簣堂文庫の再調査・目録編纂に従事[10]静岡英和女学院院長、静岡英和女学院短期大学学長を歴任した。

研究者としては東洋文庫白鳥庫吉[11]、東京高等師範学校時代の恩師諸橋轍次の静嘉堂文庫に拠って書誌学を興したいという意図の影響を受けた[12]。若い頃から弓道[13]茶道香道華道に至るまで研鑽を積み、個人の文庫で珍籍を扱った経験は多数の学術書に結実している。

川瀬の書誌学の真髄は、悉皆調査に基づいて文献群を体系的に述べるというものである[14]。それは学芸史への1つの道のりでもあった[15]

日本書誌学会の発足と機関雑誌「書誌学」発行

2代目安田善次郎の知遇を受け、安田文庫の典籍蒐集に助力。1931年に安田善次郎が、台頭してきた書誌学の進展を援助する意図のもとに発起した同人が発展して日本書誌学会となり、その機関誌として雑誌『書誌学』が1933年1月に創刊された[16]。同人には和田萬吉市島謙吉といった図書館界の重鎮のほか、愛書家として徳富蘇峰、内野皎亭、それに官営図書館や有力文庫の担当者が加わっていた[16]。同人会合の運営には橘井清五郎と長沢規矩也、そして川瀬があたった。しかしその後、同人の逝去が多く、また安田の庇護から離れ、共立社印刷所社長春山治部左衛門の厚意の下で雑誌だけは発行していたが[17]第二次世界大戦のために1942年1月に停刊した[16]

1965年7月に、長沢を編集兼発行者として復刊 新1号が発行され、以後不定期に発行された。復刊新1号の「復刊の辞」および「編集後記」によると、春山治部左衛門[18]に復刊をすすめられていたが春山の古希を機に実現した[16][19]。発行所は長沢の自宅を住所とする日本書誌学会となっていた[19]。長沢の死後は川瀬が編輯発行人となり、1985年5月の復刊新35・36号まで発行されたが、その後は発行されていない。

著書

単著

共著

編著・編集

校訂、校注、解説

論文、雑誌

「宝生」掲載ぶん

  • 世阿弥著作「音曲五位」の発見」『宝生』第20巻第2号、宝生発行所、1941年2月、85-94頁。 
  • 「山姥難語考」『宝生』第20巻第4号、宝生発行所、1941年4月。 
  • 旅信(大和上市より)」『宝生』第20巻第5号、宝生発行所、1941年5月、21頁。 
  • 「隅田川」解補」『宝生』第20巻第5号、宝生発行所、1941年5月、67-68頁。 
  • 野口兼資隅田川」『宝生』第20巻第5号、宝生発行所、1941年5月、76-81頁。 
  • 座談会 隅田川 火曜研究会」『宝生』第20巻第5号、宝生発行所、1941年5月、82-90頁。 
  • 「「松風」註解」『宝生』第20巻第10号、宝生発行所、1941年10月。 
  • 拾玉得花は世阿弥の著作」『宝生』第20巻第12号、宝生発行所、1941年12月、2-10頁。 
  • 「禅竹以前の金春系図に就いて」『宝生』、宝生発行所、1943年4月。 

記念論集

脚注

注釈

  1. ^ 川瀬はこの経験から、学問に関して次のような見解を表明している。
    〇何處でも大学問題がやかましく、根本的に反省しなければならなくなっているが、果してどう落着くかは甚だ心もとないと思う。卒直に申して、唯今の大学に於ける学問の研究が、まともに行なわれているかどうかは問題である。〇親や師の説を祖述するということは昔から盛んであるが、――あるいは伝統的な学派などが生れる所以でもあろうが――今の大学でも、もと大学で筆記しておいた師のノートをそのまま学生に速記をさせているという実例もあるのである。親や師の光りに頼って生きていると、その学説を論評されその欠点を指摘されれば、自己の権威も位置も崩れるかに感じて、学説に對しては学説で応酬するのが当然であるのに、社会生活の上でその返報をする。そういう連中は、各自独立自由であるべき学問の世界で、利害開係によって朋党を結んで行動をする。学生がビッピイと笛を吹いて隊伍を組んでデモっているのは、師を見習ふもので、今時よく教育が届いているというものだ。学問の研究は綱引きではないから、五の力の者が十人寄っても、六の力一人にはかなわぬ世界である。学間研究の勝負は死後に定まる。それでこそ眼のさきのことに捉われずにすむのである。
    川瀬「編輯後記」『かがみ』第13巻、大東急記念文庫、1969年2月、53頁。 

出典

  1. ^ a b 西野春雄 (2001), p. 176.
  2. ^ 川瀬博士古稀記念出版委員会 (1979), p. 841「川瀬一馬略歴」
  3. ^ 川瀬 (1977), p. 3「私の古辞書研究」
  4. ^ 川瀬博士古稀記念出版委員会 (1979), p. 4(川瀬一馬「日本文化史と書誌学」)
  5. ^ 川瀬 (1977), p. 9「私の古辞書研究」
  6. ^ 東京文理科大学一覧 自昭和8年4月至昭和9年3月」『東京文理科大学・東京高等師範学校一覧(昭和8年度)』東京文理科大学、1934年、83頁https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1448246/49 
  7. ^ 川瀬 (1977), p. 7「私の古辞書研究」
  8. ^ 川瀬 (1977), p. 8「私の古辞書研究」
  9. ^ 書誌事項(CiNii Dissertations)”. 国立情報学研究所. 2017年3月4日閲覧。
  10. ^ a b 川瀬 (1986), pp. 34–37「はじめに」
  11. ^ 川瀬 (1977), p. 6「私の古辞書研究」
  12. ^ 川瀬 (1982), p. 4「はじめに」
  13. ^ 川瀬 (1977), p. 5「私の古辞書研究」
  14. ^ 武井和人 (1992), p. 136.
  15. ^ 武井和人 (1992), p. 137.
  16. ^ a b c d 長沢規矩也、川瀬一馬「復刊の辞」『書誌学』第1巻復刊新1号、1965年7月、1-2頁。 
  17. ^ 川瀬 (1945), pp. 145–149.
  18. ^ 川瀬 (1981), p. 1.
  19. ^ a b 川瀬「編輯後記」『書誌学』第1巻復刊新1号、1965年7月、94頁。 

参考文献

関連項目

外部リンク




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