人間以外の血液型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/06 04:56 UTC 版)
人間の血液型と同じ抗原があるという意味の「血液型」 初期は血液型は人にだけあって他の動物界にはない(=この抗体・抗原は人間に特有なもの)と考えられたが、1911年、フォン・デュンゲルンとヒルシュフェルトが抗B抗原 (β) について「ウサギ・イヌ・ウシの血球がβを吸収し、ネコ、イヌの血球がβの一部を吸収する。」と報告し、動物にも人のように血液型があると考えられて様々な抗体抗原反応が調べられた。同年にスウェーデンのフォルスマンがモルモットの腎臓の食塩水エキスをウサギに注射して作ったフォルスマン抗原(ホルスマン抗原とも)でモルモットと無関係の羊の血球を溶かす性質(これを異性溶血素という)がありモルモットの臓器と羊の血球に共通抗原があるとして報告し、その後1924年のドイツのシッフとアーデルスベルゲルが人間のA型血球をウサギに注射して作った抗原が人以外にヒツジの血球を溶かすと報告したが、後の調査で両者は同一のものとされ、これらを元に植物を含む様々な生物に抗体抗原反応が起きることが確かめられたが、通常の血清などの抗体(ポリクロナール抗体)では強弱の違いがあっても類似する抗原に反応してしまうことがあるため、現在はより正確性を期すためABO式血液型検査にも使用されるモノクローナル抗体(特定の抗原のみ反応する抗体)で調査するようになっており、こうして調べられたところ、前述のフォン・デュンゲルン達による抗B抗体と反応する抗原は「アルファ1-3ガラクトエピトープ」という多くの哺乳類に見られる物質であること、またA抗原の一種とされたフォルスマン抗原も多くの脊椎動物に見られるもので、人間のB抗原やA抗原とは違う物質どころか、そもそも人間を含む霊長類の大半に存在しない(新世界ザルは例外的に保有)物質であることが分かっている。 (一般的に異種生物の血液型として知られているデータは山本茂の『血液型』(化学同人1986年)という本からの引用だが、これの原文は「ABO血液型抗原または類似抗原」であり、人間のものと違う抗原も含む。) ただし細菌のABO血液型抗原は人間のものとほぼ同じ抗原で、これは遺伝子の水平伝播があった可能性(細菌同士の水平伝播は確認済み、脊椎動物との伝播があるのかは未確認。)が指摘されている。 なお、細菌の抗原は変化しやすく、突然変異で別の型になる場合があり、志賀赤痢菌の場合を例にとると、ウサギの免疫血清を次々に加えて古い型の菌が不利になる環境にしてS型からR型(これは血液型ではなく細菌の種類)に変異が進むようにした結果、最初のS型菌の時点では「F(フォルスマン抗原)・O・C・B」だったのが、免疫血清を投与していくと「F・O・C・B・A→C・B・A→O」と変化が見られた。 遺伝子で調べるとABO遺伝子を持つのは脊椎動物では両生類・爬虫類・哺乳類(種類によってはないものもいる)で、鳥類や魚類ではこれがない他、分泌型を決めたりやH物質を組み立てるアルファ1-2フコース転移酵素の遺伝子も持ってない(シーラカンスのみ特例で分泌型を決めるFUT2のみある)などの特徴があるが。哺乳類の霊長類のみで見ても類縁関係無関係にABO遺伝子すべてを持つものと一部しかないものがおり(例:ヒトに近いチンパンジーにはB遺伝子が見つかってないが、遠いオランウータンは全部あるなど。)などから、最初期に全種あってその後種類によって欠落した(Trans-species inheritance theory説「種をこえる遺伝」)か、逆にこの遺伝子は別系統でも類似の進化が起こりやすく別々にAやB遺伝子が生まれた(Convergent進化説)などがあげられ、現在は前者の方が優勢になっている。ただし、茨木大学の北野誉と国立遺伝学研究所の斎藤成也の「ヒトのA型遺伝子は一時無くなった後B型とO型の遺伝子で組み換えが起きて復活した」という説もあり、この遺伝子の変異は一度欠落しても再度復活する可能性がある。 その生物自体の血液型抗原による「血液型」 こちらの「A・B」などは人間のA型やB型と無関係で、血液型システム(人間でいうABO式血液型やRh式血液型のような「血液型の分け方」)に相当する。なお、動物も人間同様に白血球にも血液型は存在するが、特筆ない場合ここでは赤血球を中心に紹介する。 ニワトリ A、B、C、D、E、H、I、J、K、L、P、R、Hi、Thの14種類。 B、Cは白血球にも同じ抗原がある。 病気のかかりやすさの違いとしてB式血液型のB21型はマレック病に抵抗性。 アヒル A、B、C、D、Eの5種類だが、品種によって差異がある。 羽の色がカーキ色のカーキ・キャンベル系は上記5種類の血液型があるが、羽が白い北京ダック系はC、D、Eのみ。 ナガスクジラ Ju式が存在し、Ju1型・Ju1・2型、Ju2型に分けられている。 南アフリカ沖と南太平洋沖のナガスクジラはJu1・2型とJu2型が多いが、インド洋南西ではJu1型が大半を占める。 ウマ A、C、D、K、P、Q、T、Uの8種類。 分け方が一番多いのはD式血液型の17種類。 品種によって多い血液型が異なり、A式血液型だとAa型がシェトランドポニーでは10頭中3頭。サラブレッドでは10頭中7頭だったことがある。 ヤギ A、B、C、M、R-O、V-Wの6種類。 分け方が一番多いのはB式血液型で数十種類の型(血液型抗原)がある。 品種によって多い血液型が異なり、B式血液型だとザーネン種はB15、アルパイン種はB17型が多い。 ヒツジ A、B、C、D、M、R-O、X-Zの7種類。 分け方が一番多いのはB式血液型。 品種によって多い血液型が異なり、X-Z式だとサフォーク種(顔が黒い羊)はすべてX型だが、コリデール種はX・XZ・Zもいるなどの違いがある。 ウシ A、B、C、F-V、J、K、L、M、N、S、Z、R-S、Tの12種類。 ウシのB式血液型は動物の血液型の中で最も多様で300種類以上の型がある。 品種によって多い血液型が異なり、F-V式では日本にいる品種ではV型が2等に1頭の割合で見つかるが外国の牛には見つかっていないなどの違いがある。 ブタ A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、O、P、Sの17種類。 分け方が一番多いのはE式血液型で数十種類の型がある。 H式血液型の違いは肉質、K式血液型の違いは体重や脂の厚さに関係していることが分かっている。 イノシシも同じ血液型システムを持つが地域別の違いの方がブタとイノシシの違いより大きく「ヨーロッパと日本のイノシシの違い」や「ブタの西洋系と東洋系とミニブタの品種違い」は血液型でわかるが、「それぞれの先祖と子孫のブタとイノシシの違い」は血液型ではわからない。 ウサギ 古くから実験動物として使用されていたので様々な血液型が報告されており、血液型の研究が始まって(1901年)まもなくH1、H2、K、G・g、K1・K2、Hgの5種類が発見されている。 分け方が一番多いのはHg式血液型の6種類。 マウス Ea-1、Ea-2、Ea-3、Ea-4、Ea-5、Ea-6、Ea-7、Ea-8の8種類。 マウスは実験動物として近交系が確立されており、同じ近交系の個体はすべて同じ血液型だが別系統の物は違う。Ea-8式でBALB/C系統はすべてb型、C57BL/10はa型など。 イヌ イヌの血液型はDEA(Dog Erythrocyte Antigen イヌ赤血球抗原)と呼ばれ、1 (1.1, 1.2), 2, 3, 4, 5, 7をはじめ数十種類。(これ以外にDal、Kai1、Kai2も発見されている。) DEA1.1式血液型(DEA1.1の抗原があるか否か)を例にとると、日本ではDEA1.1+の犬が70~80%、DEA1.1−の犬が20~30%だが犬種によってはどちらか片方がよく見つかる場合も多い。DEA1.1式血液型は自然抗体ではないが、原則輸血時には血液型を合わせて輸血する(ただし人間のO型→他の型のように、DEA1.1−から+に輸血する場合は危険性が低いので行われることもある) ネコ AB式血液型があり、A、AB、Bの3種類に分けられる(人間のABO式血液型とは無関係)、これ以外にMikという血液型も存在。 AB式血液型は輸血に関係するので研究が進んでいるA抗原とB抗原があり、どちらか片方だけ作られるとA型やB型になり、両方の抗原を作るとAB型になる。 ただし「A抗原遺伝子とB抗原遺伝子があってどちらだけを持つか両方持つか」で決まるのではなく、「血液型を決めるCMAH遺伝子が正常と8種類の変異遺伝子」をどう持つかで決定される。 CMAH遺伝子一対のうち最低片方でも正常遺伝子の場合は、A抗原のみが生産されA型。 CMAH遺伝子が両方変異型で、その組み合わせが特定8通りだとB抗原のみが生産されB型。 CMAH遺伝子が両方変異型で、その組み合わせが特定3通りだと両方の抗原が生産されAB型。 比率は平均A型約95%、B型約5%、AB型ごくわずか、ただし品種によって差異があり、ブリティッシュショートヘアはB型59%、ラグドールはAB型18%だったという報告がある。(p.56) 霊長類 基本的に人間に近いのでABO遺伝子による抗原そのものを保有している。(ただし血液型そのものではない場合もある) ヒト、オランウータン、カニクイザル、シロテナガザル:A・B・O遺伝子 ゴリラ、ニホンザル、フクロテナガザル:B遺伝子 チンパンジー:A・O遺伝子 コモンリスザル、アンゴラコロブス、ゲレザ:A・B遺伝子 コモンマーモセット、ボノボ:A遺伝子 さらに独自の血液型としては以下のようなものがある。 チンパンジー:R-C-E-F式とV-A-B式 カニクイザル:Arh-Brh-Crh-Drh式 アカゲザル:A-B-C-D-E式
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