コンパクトシティと路面電車の復活
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/25 15:22 UTC 版)
「日本の鉄道史」の記事における「コンパクトシティと路面電車の復活」の解説
1990年代以降、日本の地方都市に於いては少子高齢化や急速な郊外化によるドーナツ化現象、それに伴う中心市街地の空洞化や交通渋滞、買い物難民の発生などが深刻な問題となった。これらの問題を解決するために、コンパクトシティ指向の街づくりを進める自治体が現れ始めた。 コンパクトシティは、一言で言えば「集約型の都市構造」であり、都市機能の低密度化・分散を防ぎ、都市的土地利用の郊外への拡大を抑制するともに中心市街地の活性化が図られた、生活に必要不可欠な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市を目指した都市政策のことを指す。 コンパクトシティを実現するにあたり、公共交通を軸とした街づくりを特に重視している。現状の分散化してしまった都市構造では、路線バスや鉄道と言った交通機関で分散化した市街地をカバーすることが難しく、また運行回数が低頻度での路線が多いため自動車が主な移動手段となり、公共交通の利用者減少がサービス低下につながり、さらにそれが公共交通事業者の経営を圧迫しさらに利用者が減少する負のスパイラルが発生し、公共交通の維持・確保が難しくなる。コンパクトシティでは前述の「公共交通の維持が難しくなる」事態を防ぐため、利便性の高い公共交通沿いに人口や都市機能の集約を図り、コンパクトな都市を目指す手法を取る。 そのコンパクトシティの実現に向けて重要視されているのが、次世代型路面電車、「LRT」である。LRTは「Light Rail Transit(ライト・レール・トランジット)」の略であり、日本国内では専ら次世代型路面電車システムと扱われている。国土交通省ではLRTの次世代性を次のように定義している。 都市計画・地域計画での位置付けなど政策的な裏づけ 専用軌道やセンターリザベーション等による定時性の確保、および運行速度向上など速達性(ただし都心部では利便性向上のために併用軌道も可) 既存交通との連携 運賃収受制度の改良(交通系ICカード、信用乗車方式の導入など) 乗降の容易化(電車の超低床LRVの導入、軌道・電停の改良など) 快適性、静粛性、信頼性 全国各地で運行している路面電車では、超低床LRVの導入や軌道・電停の改良などによってLRT化を図るものも現れ始めたが、日本国内における本格的なLRTの例としては次の通りである。 富山市では、コンパクトシティ政策の一環として2006年4月29日に、日本初の本格LRTとして富山ライトレール(2020年に富山地方鉄道に合併)富山港線(ポートラム)が開業した。富山ライトレールは、西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線であった富山港線をLRT化したものであり、車両や施設を富山市が保有し、第三セクター鉄道である富山ライトレールが使用料を払い運営する「公設型上下分離方式」を採用した。 LRT化に合わせ、LRTと接続するフィーダーバスの開設や、JR時代よりも本数を大幅に増発したことによって、利用者の増加や利便性の向上に大きな効果を発揮した(詳細は富山地方鉄道富山港線の項を参照)。富山市では富山港線のLRT化以外にも富山地方鉄道富山都心線(セントラム)の整備による市内電車の環状化や超低床LRVの増備によって、全長が15.2kmに及ぶLRTネットワークを形成した。 富山地方鉄道9000形電車「セントラム」 富山ライトレールTLR0600形電車「ポートラム」 富山地方鉄道T100形電車「サントラム」 岩瀬浜駅とフィーダーバス 2020年代以降では、路面電車が運行されたことのない都市でも、LRTを軸としたコンパクトシティ指向の街づくりが行われ始めている。宇都宮市では、日本初の全線新設型LRTとして、宇都宮ライトレールの建設が進んでいる。宇都宮ライトレールの路線(優先整備区間)は宇都宮市から芳賀町にかけての14.6kmあり、車両や設備を宇都宮市と芳賀町が保有し、第三セクターである宇都宮ライトレールが運営する先に述べた公設型上下分離方式を採用する。宇都宮ライトレールの特徴は次に示す。 各種計画等での裏付け第6次宇都宮市総合計画、ネットワーク形コンパクトシティ形成ビジョン、宇都宮市都市マスタープラン、宇都宮市立地適正化計画など、LRTの整備を前提としたコンパクトシティ実現へ向けた計画を多数策定。 バリアフリー100%バリアフリーの停留場を19か所整備し、車両は100%超低床LRVを17編成運用する。 既存交通との連携路線中に5か所、乗り継ぎ施設である「トランジットセンター(TC)」を整備。TCでは路線バスやタクシー、デマンド交通など、多様な公共交通との乗り継ぎが容易に可能。またパークアンドライド駐車場を完備し自動車との乗り継ぎが可能なTCもある。その他、TCを含む全停留場に駐輪場を配備し、TC以外の一部の停留場でもデマンド交通との乗り継ぎスポットを設置。 料金収受車内の全扉にICカードリーダーを設置。乗降時間の短縮のため、日本初の全扉での信用乗車方式を採用。運賃は対距離制。料金収受に使用できるICカードは、日本初の地域連携ICカードである宇都宮地域のICカード「totra(トトラ)」も含まれる。 自動車交通との共存交差点部分の立体化、専用軌道、橋梁の設置、信号点灯サイクルの調整により、自動車交通との共存を図る。 優等種別路面電車としては日本初となる、「快速列車」を運転。起点から終点の所要時間を6分短縮する。 環境負荷の軽減宇都宮ライトレールのHU300形は、日本国内の超低床LRVでは最大の160人の定員を持ち自動車や路線バスよりも輸送力が大きい上、電気で駆動するために車両から排気ガスを排出しない。また使用される電力は、宇都宮市の地域新電力会社「宇都宮ライトパワー株式会社」より供給される100%再生可能エネルギーを活用する。この再生可能エネルギーは、宇都宮市内の固定価格買い取り制度が終了した世帯や事業者の太陽光発電電力や、宇都宮市のごみ処理場「グリーンパーク茂原」で発電されたバイオマス電力などである。これら都市内の再生可能エネルギーのみでLRTを走らせる取り組みは、都市内での電力の地産地消であり、世界でも類を見ない取り組みである。 などがあり、国土交通省が定義する先述のLRTの次世代性におおむね合致する。 そのほか、LRTの整備と合わせ、LRTと接続するバスの整備やバスネットワークの再編も実施され、最終的にコンパクトシティの形成を進める計画である。 宇都宮ライトレールHU300形電車「ライトライン」 清陵高校前停留場 他の輸送手段との競争の激化の項でも述べたように、かつて日本では渋滞の原因として、路面電車が全国各地で姿を消した時代もあった。しかし現在、路面電車は交通環境負荷の軽減、交通転換による交通円滑化、移動のバリアフリー化、公共交通ネットワークの充実といった効果があるとして、見直されつつあるのである。
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