「黄昏の岸 暁の天」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 08:32 UTC 版)
泰王・驍宗が登極して半年が経過した。先王の時代から驍宗は優秀な部下を有しており、国府の中央は信の厚い人物で固められていた。その中、文州で叛乱が勃発し、驍宗ゆかりの町・轍囲が包囲されたため、王自らが出兵することになった。驍宗の身を心配する泰麒は、ただ2つしか持たない使令を驍宗のもとに差し向けるが、文州の乱は単なる暴動ではなく、大逆の一環だったのである。驍宗は突如として行方知れずになった。泰麒は襲われて意図せず力を使い、蓬莱(日本)へ渡ってしまった(泰麒は日本で十二国の記憶を失い、ただの人間の少年・高里要として生家に戻り暮らすようになる。この物語が『魔性の子』である)。 それから6年の月日が流れた。謀反の首謀者と思われる将軍・阿選が権力を握り、驍宗の臣下は次々と排除され、女将軍・李斎も罪人として逐われていた。追い詰められた李斎は最後の手段として、泰麒と同じ胎果で登極したばかりの景王を唆し助けを得ようと、慶国への脱出を決意する。 和州の乱から1年、慶国は新王のもとで安定を取り戻しつつあった。そんなある午後、王宮の門前に瀕死の李斎が現れ、景王に奏上したいことがあると申し出る。拒絶しようとする閽人(門番)の対応に業を煮やした李斎は強行突破を試み、たまたま出会った陽子の側近・虎嘯に助けられ、景王に泰国の救済を願うことを伝えて意識を失う。李斎は載から脱出する際に妖魔に襲われ、武将の命である右腕を失っていた。 李斎は昏睡状態から回復すると、面会に来た陽子に改めて助けを懇願する。陽子は心動かされ、雁国の王と麒麟に協力を仰ぐが、延王はその国の王の依頼がなければ軍が他国に入ることはできないという「覿面の罪」(破ると王は死ぬ)を告げ、決してこの罪を犯さないよう忠告する。陽子は李斎に、泰の民が自ら阿選を討つことはできないかと聞くが、李斎は気候の厳しい泰の民はすでに生きるだけで精いっぱいであること、阿選を討つために人を集めてもどういう訳か多数の脱落者が出てしまうこと、また仙である阿選は寿命もなく、王も麒麟も生きているが行方が分からないという状況では仙の資格を取り上げる方法もなく、悪逆を止める摂理の一切が働かないことを告げる。陽子はできる限りのことはすると確約し、李斎もそれで充分だと答え、罪深いことを考えて慶に来たことを謝罪する。 陽子、景麒、諸官と延王・延麒が討議し、天が許す範囲でできることは泰麒の捜索だとの判断に至ったが、それが可能なのは麒麟だけだった。陽子の発案で、各国の麒麟に協力を呼びかけることになるが、前例のないことだけに女仙の長・碧霞玄君に相談するため、陽子と延麒は蓬山を訪れる。碧霞玄君は麒麟たちが泰麒を探すことは天網に反しないと告げるが、陽子は天網とそれに違反した場合の罰が非常に教条的であることと、天という組織が実在することに驚き、単に不思議な世界と思っていた十二国世界に違和感を覚える。 氾王・呉藍滌は捜索に協力するため慶を訪れ、彼が驍宗に贈った玉帯が戴から範に出荷された玉に混ざっていたと告げ、李斎に驍宗の行方の手掛かりを与える。慶・雁・範を含め7国の麒麟で泰麒の捜索が始まる。麒麟たちが現実世界の地球を知らないこと、蓬莱国だけを取っても範囲が広いこと、泰麒の気配があまりにも弱く使令の禍々しい気配に隠されることから捜索は難航したが、ついに泰麒が見つかる。泰麒は反乱で襲われた際に角を失っており、十二国で暮らした記憶を失くしひどく穢れ弱って、麒麟というよりただの人という状態だった。人は虚海を渡ることができないため、陽子たちは王が蓬莱に渡って泰麒を仙に召し上げるという手段を考え、再び碧霞玄君の判断を請うことにするが、李斎は天が実在することに衝撃を受け、無理を言って同行する。 かつて自分が昇山した時と比べ、雲海の上の旅があまりに楽なことに驚いた李斎は、王を選ぶためになぜ命をかけて雲海の下・黄海を旅しなければならないのか、麒麟が選ぶ前から天によって王が決まっているのなら、黄海での苦労は、死んだ人々は何だったのかと嘆く。陽子はこの世界は神が治める国なのかもしれないと思い、存在するものは必ず過ちを犯すのだから、人は自らを救うしかないと苦い思いで告げる。碧霞玄君は泰麒を助けず死ぬのを待てというのが上の意向であると告げるが、李斎は必死で食い下がり、天網の条文の隙を付いた、「泰麒を雁の戸籍に入れ、三公(高位の官吏)を一時的に罷免し泰麒をこれに任命することで仙にする」という手段を授かる。 作戦は決行され、延王が虚海を渡り泰麒を無事に連れ戻すことに成功した。しかし泰麒の身体は、他の麒麟が近寄ることもできないほど穢れていた。普通の人として暮らしていた泰麒は本来麒麟には食べられない肉類を食べていたこと、また汕子と傲濫が泰麒を守ろうとするあまり周囲で殺戮を繰り返したことが原因だった。泰麒の穢れは碧霞玄君の手に負えず、女神・西王母に助けを請うことになった。戴には希望が必要だという李斎の嘆願もあり、泰麒とその使令は清められることとなったが、西王母はそれ以上の助力はしなかった。角が折れた泰麒は麒麟としての能力がなく、使令も清めのために引き離されたことで、幼い頃より更に無力な状態であった。 泰麒は慶の王宮で休み、しばらくして眼を覚ます。陽子が泰麒を見舞っていた時に、慶の内宰と閽人が乱入し、陽子を弑逆しようとする。陽子が彼らを遠ざけ少数の者だけで周囲を固めていた上、他国の者に肩入れし王や麒麟を頻繁に出入りさせていたため、それに激昂しての犯行だった。延麒と景麒が駆け付けことなきを得たが、自分たちの存在が少なからず慶国の負担になっていると悟った泰麒は、戴を救うのは戴の民しかいないと李斎に告げ、共に戴国へ戻ることを決意する。見張りに付けていた使令によって二人の決意を知った延麒は、夜明け前にこっそり出立しようとする二人に餞別の旅費と旌券を授け、延王の騎獣も貸し出す。旌券には陽子が裏書していた。陽子は二人を行かせる辛さを受け止め、まず自分からなのだと思う。
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